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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
1年生
26/160

見えないスタミナ値

 アンジュの特訓を始めてから2週間程たったある朝のことだった。


「おはよう、リシリア。あれ? 少し疲れてる?」


 ノアは医務室での一件以降、無理に距離を詰めるでもなく、前と変わらず優しいままだった。


「疲れてるように見える?」

「うん、何だか無理してるような」

「そう言えば、休みらしいことをした覚えないかも」


 学校が休みの日はアンジュの特訓も休みにしているが、そういう時こそ自分を鍛錬せねばと予習復習、体力作りに精を出していた。


「ちゃんと休みなよ」

「うーん。でもそうはいかないというか」


 ゲームの世界とはいえ、今は登場人物ですからね。

 スタミナ値が底を尽きかけていても目で見えません。


 かと言って、休んでる場合でもないのです。


「ノア様、リシリア様。ごきげんよう」

「アンジュさん、おはよう」

「ごきげんよう、アンジュ」

「リシリア様、今日は何をする予定でしょう? お着替えは必要でしょうか」


 アンジュは白い手を前で組み、丸い大きな瞳を私に向ける。

 かたおさげに編まれた髪は少し知的な印象を与える。


「そうね、今日はお勉強にしましょう」


 疲れているならゆっくり室内で出来ることの方がいい。


「僕が教えようか?」

「ノア?」

「アンジュさん。リシリアは少し疲れが溜まってるみたいなんだ。今日は休ませたい」


 ノアは紳士らしく言った。


「えっ、そうなのですか。そうとは知らず申し訳ございません」

「平気よアンジュ」


 私は心配させないように笑顔を作る。

 けれどノアは遮るように私に言った。


「リシリア。勉強なら僕でも不足はないだろう? 心配なんだ」

「リシリア様、どうぞお休みくださいませ。ノア様、ご迷惑をお掛けいたしますが、お言葉に甘えてよろしいですか?」

「もちろんだよ。リシリアのためになるならむしろ大歓迎だ」


 うーん、二人の間で話が纏まってしまったようです。


「ではそうしましょうか」

「じゃあアンジュさん。放課後図書室で」

「承知いたしました」


 アンジュは背筋を伸ばしたまま美しい礼をした。

 肩の力の抜けた自然な動きだった。


 アンジュは顔を上げにこりと笑うと、ゆったりとした足取りで教室へと向かった。


「アンジュさん、変わったね」

「挨拶だけならもう立派な令嬢だわ」


 1番初めに取り組んだのが姿勢と所作、そして挨拶。

 淑女としての入り口にようやく立った感じだ。


 まぁダンスはからっきしだし、お勉強は睡魔との戦いだし、刺繍をやらせれば手にプスプス針を刺す始末だけど。

 それでも少しずつアンジュは変わってきている。


「ノア。アンジュのこと、ごめんね」

「僕の知識がリシリアの役に立つなんて、こんなに嬉しいことはないよ」


 ノアはふにゃっと笑った。


「私、甘やかされてる?」

「甘えてよ」


 その優しい笑みに私まで顔が緩くなる。


「じゃあ、甘えます」


 ノアの目を見ると、ノアはカッと赤くなった。


「可愛すぎるな」

「や、やめてよ。こっちまで恥ずかしくなる」

「もっとリシリアの顔を見ていたいけど、そろそろ鐘が鳴る。行こう」


 そう言うとノアは私の手をとって早足で教室へ向かう。


「ひ、ひとりで歩けます!」

「僕が繋ぎたい」


 幼馴染だったノアが不意に男の顔をした。


「それからもうひとつ」

「?」

「今日のお礼にデート申し込んでも?」

「っ!」

「リシリアは真面目だから断われないよね」

「ノアってそんなに外堀を埋めるタイプでしたっけ」

「賢さってこういうことに使うんだなって、最近気付いたんだよ」


 賢さをずる賢さに変換しないでいただきたい。


「アンジュの出来次第でお受けしましょう」

「はは、責任重大だ」

「王国史の120年から300年まで、みっちり教えてくださいね」

「了解」

「テストしますからね?!」

「アンジュさんか満点とったらデートだよ?」


 うぅ。

 アンジュには頑張って欲しいような、欲しくないような。

 とっても複雑です。


 そんなことを考えながら、ノアが手を引くままに私は教室へと吸い込まれた。


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