レアスチル(ノア)回収
私は心を落ち着けて医務室の扉に手を掛ける。
「リシリアです。ノア、いますか?」
「リ、リシリア!?」
「!!!」
半裸。
半裸ではないですか。
眼鏡の優等生キャラにしては、軽く筋の入った美しい腹筋。
そして下へと視線をやると、白のスラックスは前ボタンが開けられ、へそ下数センチまで見えている。
「ご、ごめん。着替え中で」
「ごめんなさい!」
私は慌てて扉を閉めた。
とんでもない既視感。
これはまさか。
「ノアのレアスチルではありませんか」
血の気がさっと引いてゆく。
ノア攻略の必須パラメータ×1.2倍を有し、なおかつノアの好感度が85%を超えたときにのみ見られる激レアスチル。
通称「半裸ノア」、腐女子のお姉様方の間では別名「肌色スチル」とも。
「お待たせ」
気まずそうな顔をしたノアが扉を開ける。
「急に入ってごめんなさい。まさか着替え中だとは」
「はは、大丈夫だよ。僕こそごめんね。カーテンを引いておくべきだった」
ノアは医務室に入れてくれた。
先生は不在のようだった。
もっとも、不在だからこそノアは、カーテンも引かずに着替えていたわけだけど。
「あの、落馬したって聞いて」
私はベッドのそばの一人掛けソファに腰掛ける。
「恥ずかしいな。リシリアには知られたくなかった」
「私のせい?」
「違うよ。そんな顔しないで」
ノアは眼鏡の奥で優しく微笑むと、ベッドに腰を下ろした。
「僕の意地だったんだ。昨日の午後に遠乗りの訓練があってね」
「アルバートに聞いた」
「そっか。殿下が先頭を走ってたんだけどさ、あの人の背中を追い越したくなった」
その目は先程と違い、じっと一点を見つめていた。
「無茶だってわかってたんだ。けど負けたくなかった」
林道には大きな石や枯れ枝も多く、決して簡単な道ではなかったらしい。
そこに勢いよく馬を走らせ、落馬した。
幸いふかふかの腐葉土や落ち葉がクッションになって、大事にはならなかったそうだ。
念のため一晩医務室で様子を見たが、午後からの授業には出てよいと先生が判断したらしい。
「ノア、もう無理はしないで。カンサム公爵も驚くわ」
「父上が聞いたら気絶しそうだね」
ノアは鼻をこすりながら笑った。
「笑い事じゃないわ」
「でも殿下は僕の嘘を信じると言った。落ちた甲斐があったよ」
その言葉にドクンと胸が鳴った。
「ノア、私――」
「わかってる。リシリアにとっては本意じゃないよね。勝手なことをしたよ」
「どうして殿下に嘘なんてついたの」
「僕のエゴだ。でも謝らないよ」
瞳の中には揺るがない光があった。
私は思わず頭を抱える。
「僕たちは昔から仲の良い幼馴染だったじゃないか。友人からでも僕を見てくれないか?」
「ずるいわ」
ノアはずるい。
幼馴染から友人として見ろと言われて、断れる人間がどこにいるだろうか。
「それはイエスと受け取っても?」
「私たちはずっと友達だったじゃない」
でもノアはそれ以上を望もうとしている。
「じゃあ今まで通りでいいってことだよね」
ノアは立ち上がると私の頬に優しく触れた。
ノアは優しい。
けれど、互いの主張が食い違った時、一度も口で勝てたことがない。
「幼馴染で、友人よ」
白旗を上げるしかない。
「うん」
ノアの手は子どもの頃とは違って、私の顔を頬をすっぽり覆ってしまった。
その熱がチリチリと私の胸を焼き、ひどくひりつかせた。




