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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
1年生
20/160

レッスン初日

「うわぁ、広いお部屋~。お姫様みたい」


 さっきまでの陰気な空気はどこへやら、部屋に入るなりうっとりとした顔をするアンジュ様。


 これくらいで驚いていてはいけませんよ。

 あなたはいずれ王宮に住むのですから。


「では始めましょうか、アンジュ様」

「あ、あの! それなんですけど!」

「?」

「あの、リシリア様に『様』をつけて呼ばれるのはちょっと。アンジュとお呼びください」

「えぇっと」


 将来の王妃様になる人にそれで良いものか。

 私が渋っているとあからさまにしゅんとした顔になる。


「だめでしょうか」


 ええい!

 ここは良好な関係を築くのが先決です。


「それではアンジュと」

「は、はい!」


 アンジュの姿勢がピンと伸びる。

 うん、常にこれでいてくれたら文句ないのだけれど。


「たくさんレッスンしたいことはあるのですが今日は」


 ごくり。

 アンジュの喉の音が聞こえる。そんなに緊張しなくても。


「姿勢と歩き方ですね。とても目立ちますし、毎日のことですから」

「が、がんばります」

「それから自室で出来るトレーニングもお教えしますね。宿題です」

「しゅ、宿題……」

「地味ですが、必ずアンジュのためになりますから」


 何たって自分の身体で実証済みです。






「それでは壁に踵、お尻、頭をぴったりつけてください」

「こ、こうですか」

「はい。それで少し顎を引きます。うん、いいですね」

「すっごく身体が反ってる感じがしますけど」

「それは普段が猫背すぎるからです。そのまま歩いてみましょうか」


 右手と右足が同時に出ていますよ。

 ナンバ歩きする人、初めて見ました。


「アンジュ、止まりましょう」


 私はあえて微笑んだ。怖い顔をしていては心証がよくないですからね。


「で、出来てました!?」


 あぁ、勘違いさせてしまいました。出来ていません。


「もう少し肩の力を抜きましょうか。手は前で組みましょう」

「は、はい!」


 アンジュは指を大きく広げた手をおへその上あたりにおいた。

 お腹でも空いたのかしらというような感じ。


「指は閉じて、自然に。力を抜いて」


 再び歩き出すアンジュ。

 うん、これだけでだいぶマシですね。


「リ、リシリア様。あのっ」

「お上手ですよ。そのまま続けましょう」

「足が、つりました」


 前途多難なようです。






 私はアンジュを座らせ応急処置をする。


「いったーい!!」

「我慢してください。こうした方が早く治るのです」

「あぁぁぁ! 痛い痛い痛いー!」

「死にはしませんから」

「無理! 死ぬ! 痛すぎる!」

「うるさい」

「リシリア様に殺されるー!」


 人聞きの悪い。

 

 けれど、足がつった時ってそうですよね。わかります。

 だからと言って手加減はしませんが。


「このままストレッチとマッサージもしますね」

「な、何ですかそれ」

「予防のために必要なことです。ちなみにこれも宿題に加えます」


 アンジュの身体は10代とは思えぬほどに硬かった。

 貴族は毎日のようにマッサージを受けるけど、庶民はそうはいかないのでしょう。


「もう曲がりません~! 足が千切れる~!」

「千切れません。痛いけれど気持ちいいでしょう?」

「うあぁぁぁ」


 言葉になっていませんよ。







 翌日、セレナが斜め後ろから声を掛けてきた。


「昨日はあの庶民の女の子に何をしていたの?」

「え?」

「リシリアの部屋から物騒な悲鳴が聞こえてきたって、話題になっていてよ?」

「物騒な、悲鳴?」



 背筋がヒヤッとする。


「痛い、死ぬ、殺される。あと何だったかしら、足が千切れる?」


 どう育てば微笑みを称えたままその単語を言えるのでしょう。

 セレナの方がよっぽど恐ろしいですよ。


「あれはそういう意味ではなくて」

「罰でも与えていたのかしらと思って」


 むしろアンジュのためになることをしていたのですよ!


「そんなわけないでしょう。そもそも罰って一体」

「アルバート王子殿下に色目を使ったお仕置きとか」

「全力で否定させてもらうわ」


 あぁもう何でそうなるんですか。

 むしろ二人をくっつけるために頑張っているというのに!


「あら。じゃあノアが本命なの? 違うでしょう?」

「そっちの懸案事項もありましたね」

「?」


 思い切り溜息をつきたいところですが、公爵令嬢たるもの廊下でそのような真似はいたしません。


 そんなことを思っていると、廊下の向こうから歩いてくるアンジュが見えた。


 オーバーサイズの制服はそのままだが、立ち姿が明らかに違う。

 歩き方だって一晩で見違えたものだ。


「おはようございます、リシリア様」

「ごきげんよう、アンジュ」


「え? アンジュ? 貴女が?」


 セレナはお人形のような長い睫毛をぱさぱさと動かした。


「はい。おはようございます」

「驚いた。まるで別人じゃない」


 セレナは食い入るようにアンジュを見つめた。



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