最終話 門出
「それじゃあ行きましょうか」
2年間暮らした寮を見渡すと何とも寂しい気がした。
シーラは何も言わずに私が満足するまで隣にいてくれた。
扉を開けると正装に身を包んだアルバートと、騎士団の制服を着たアンジュが待っていた。
「お待たせしました」
「もういいのか?」
「はい」
アルバートは私の髪を優しく撫でる。
これから私は王城へ向かい、いよいよ王太子妃としての生活が始まる。
覚悟は出来ていたつもりだったけど、いざとなると胸がずっと震えているような気持ちになって落ち着かなかった。
「リシリア様、大丈夫ですよ。何があっても私がリシリア様をお守りしますから!」
アンジュの明るい笑顔にほっとする。
「アンジュこそ不安はない?」
両親のいる海辺の町で、のびのび暮らすことだって出来たはずなのに。「のびのび」とは程遠い王城で、24時間気が休まらない護衛だなんて、わざわざ選ぶことなかったんじゃないかと思ってしまう。
「とーっても楽しみです! これからはずっと一緒ですねっ!」
「おい、それは私が先に言う台詞だろう」
「殿下、早いもの勝ちですよ」
「リシリア、ずっとそばにいるぞ」
「ぷっ。ふふふふ」
二人の言葉に思わず噴き出してしまう。
大丈夫、不安なんてない。
私は門へ向かって歩き出した。
門へと続く道には、たくさんの卒業生と在校生で花道が出来ていた。
「ご卒業おめでとうございます!」
「殿下ー! リシリア様ー! お幸せにー!」
「お二人に幸あれ!」
たくさんの幸せな言葉たちが投げかけられる。
「リシリアを泣かせたら承知しませんよ! 王位引きずり下ろしますからね!」
物騒な言葉に振り返ると、ノアの眼鏡が人混みに紛れた。
「私たちのこと、忘れないでくださいねー!」
ラッタとナナが手を振っている。
歓声に紛れてギュリオのバイオリンが聞こえる。
いつか私のために書いてくれた曲だ。
こみ上げる涙をこらえながら花道を歩く。
3年間だったけれど、本当にたくさんの思い出が出来た。
そしてかけがえのない親友に、最愛の人。
私がアルバートの横顔を見つめると、ぱっと目が合った。
「ん? どうした」
「胸がいっぱいで」
「私もだ」
アルバートは生徒たちに手を振りながら堂々と歩いてゆく。
その凛々しい顔が胸をチリチリと焼く。
「なんだ、不思議そうな顔をして」
「アルバートでも胸がいっぱいになったりするんですね」
「なるだろう。リシリアにはどう見えているか知らんが、それなりに楽しかった。有意義な3年間だった」
「最初は『くだらない』と仰っていましたね」
「あぁ、大きな間違いだったな」
門まであと少し、というところで、向こうから「キャー!」という黄色い悲鳴が聞こえた。
アンジュがさっと私の前に立ち、剣に手を掛ける。
声の向こうから現れたのは、大きな白馬に乗ったランカ先輩だった。
「はぁ!?」
アンジュ、可愛らしい顔が歪んでいますよ。
ランカ先輩は白馬を飛び降り、手にしていた真っ白な薔薇の花束を差出し跪いた。
「アンジュ、俺と結婚しろ」
「ランカ先輩、何やって……」
アンジュの手は剣を握ったままカタカタと震えた。
ちょっと、剣を抜いてはいけませんよ?
「おい、返事は」
「く、空気呼んで!」
「卒業式の日にロマンティックなプロポーズをしろと言ったのはお前だろう」
「だ、だからって――」
「言葉が足りんか」
「ちがっ」
「俺はお前の健気で真っ直ぐで一生懸命なところに心底惚れている。俺の妻になれ」
「~~!!」
アンジュの手がするりと剣から離れ、差出された花束を受け取る。
そして真っ赤な顔で、一言だけ口から零した。
「はい」
「おおおおお!!」
「ランカ先輩漢だぁ!!」
「よっ! 騎士団カップル!」
野太い歓声が上がる。
「主役を持っていかれたな」
アルバートが微笑みながら私の腰を抱いた。
「いえいえ、アンジュは主役ですから」
アンジュがポカポカとランカ先輩の胸を叩くと、逆にぎゅっと抱きしめ返されていた。
「行くか」
「はい」
私はアルバートと並んで歩く。
これからも、ずっと。
これにて一旦完結となります。長らくのご愛読ありがとうございました!
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感想もお待ちしております。
今回も「読者様大感謝企画」として、リクエストがあれば番外編を書こうかなと思っております。
リクエストございましたら感想欄にどうぞ!書くかもしれません!
各キャラの後日談(アンジュ&ランカ、モモタナ&クロード等)、このキャラと付き合っていたら?「Ifストーリー」、なんかも頭を掠めたり。
「このキャラが好きなので、このキャラの話を!」「この組み合わせでワチャワチャしてるとこ読みたい!」などありましたらお寄せください。
最後になりましたが新作の宣伝です。
「月影耽美譚~月子の物語」を連載開始いたしました。
平安っぽい世界に転生してしまった女の子の、切ない和風恋愛ストーリーです。
こちらもブクマいただけると幸いです。
長々と後書きを書きましたが本当にありがとうございました。
またお気に入りいただける物語を紡げたらなと思っております。ではまた!