朝の情事?
「え? なんで?」
目を覚ますと、隣で金髪の王子が幸せそうに寝息を立てていた。
寝起きの頭で状況を整理しようとするが、どうにも昨夜部屋に帰ってきた記憶がない。
「シーラ……」
とりあえず彼女に聞けば事情はわかるはず。
そう思って身体を起こそうとしたが、逞しい腕に再びシーツに沈められた。
「行くな、リシリア」
その気怠げで甘えた声に胸がきゅっと疼く。
「はい」
「ん、もう少し眠る」
「あの。そばにいますから、腕をどけていただけますか?」
このままでは身動きが取れませんし、万が一シーラが入ってきたらどう思われるか。
「断る」
「アルバート……」
「リシリアは柔らかいな」
「っ!」
遠慮なく身体を撫で上げた手に思わず息をするのを忘れる。
それを見てアルバートは目を口角を上げた。
「そうやって大人しくしておけ」
結婚とは何て心臓に悪いのでしょう。
卒業すれば、これが日常になるんでしょうか。
心臓が持ちそうにありません。
私がアルバートの腕の中で一人体温を上げていると、控えめなノックの音がした。
「殿下。お目覚めでございますか」
シーラの声だ。
「何だ」
「ノア様とギュリオ様が、是非昨夜の御礼を申し上げたいとお見えです」
「思ったより早かったな」
アルバートが不敵に笑う。
「すぐに行く。待たせておけ」
「承知いたしました」
シーラの気配が消える。
アルバートは起き上がると素肌に身に着けたナイトガウンの紐を縛り直した。
「昨夜何か?」
「一緒に部屋で飲んでいた」
「そうだったのですか。存じませんでした」
あれ? でもだったら何でアルバートはここで寝ているの?
ていうか、何でアルバートがここにいるって二人は知ってるの!?
ぼんやりとした頭が目まぐるしく稼働し始める。
「礼とやらを聞きに行くとするか」
「その格好で!?」
色々と誤解されかねませんよ!?
「あぁ、そうだな。リシリアも来い」
そう言うとアルバートは一度着たナイトガウンを脱いで、私の肩に掛けた。
「えぇ!?」
「リシリアが誰のものか、きちんとわからせておかねばな?」
「待って待って待って! こんな格好で出られませんっ」
半裸のアルバート。
男物のナイトガウンを羽織った私。
どう見ても「事後」!!
「奴らの心を折っておくのに適した姿だと思うが?」
「心を折る? 何のことですか」
「ほら、行くぞ」
アルバートは上半身裸のまま、寝癖を気にする様子もなくスタスタと歩いて行く。
「おはよう、いい朝だな」
前室からは爽やかなアルバートの声と、引きつった声が聞こえてきた。
「お、おはようございます。殿下。昨夜はありがとうございました」
「何、気にするな。おい、リシリアも挨拶しろ」
居室で待機する私にアルバートが声を掛ける。
そう言われて引っ込んでいるわけにはいかない。
私はナイトガウンを胸元でぎゅっと握って、半身だけ出して小さな声で「おはよう」と言った。
「リ、リシリア……」
ノアは意識が飛んだみたいに口を開けたし、ギュリオは耳まで真っ赤にして顔を伏せた。
恥ずかしいのはこっちの方なのですが。
「悪いな。昨夜の疲れが残っていて二人で寝坊していたところだ」
アルバートが悪い笑みを浮かべて言った。
「昨夜の……」
「疲れ……?」
ノア、ギュリオ。いらぬ想像をしないでください。
「ご挨拶がお済でしたらお引き取りを。リシリア様のお支度がございますので」
シーラは有無を言わさぬ笑みで言った。
ナイスアシストですよ。本当にできる侍女ですね。
「し、失礼しました」
ノアとギュリオは頭を下げてさっさと出て行った。
シーラは新しく出してきたガウンをてきぱきとアルバートの肩に掛ける。
「殿下もですよ」
「私もか? 別にいいだろう」
「お引き取りを」
ガチャリとドアを開けると、ポンと背中を押し出し即座に鍵をかける。
静かになった部屋にホッと息をついた。
「シーラ、ありがとう」
「いいえ、ご準備させていただきますね」
これほどシーラが頼もしく見えたことはない。