2次会
「シーラ、私だ。開けろ」
学園祭の夜も深まった頃、アルバートはリシリアを抱えて扉の前に立っていた。
「まぁ、殿下。それにリシリア様」
「よほど楽しかったのか、帰りたがらなくてな。ソファーで話していたら、眠ってしまった」
「くすくす、それはようございました」
シーラは嬉しそうに笑って扉を大きく開けた。
アルバートは寝台にリシリアを横たえると、愛おしそうにその頬を撫でた。
「お茶でもお淹れしましょうか? お酒の方がよろしいですか?」
「いや、もう行く」
意外な返事にシーラは不思議そうな顔で言った。
「こんな日は『お泊り会』にも目をつむりますが」
「こんな日だから余計にな。このまま一緒にいたら初夜を迎えてしまいそうだ」
「ふふ、それはいけませんね」
「笑うな」
アルバートは悩ましげに息を吐くと、もう一度リシリアの頬に手をあて親指で唇をなぞった。
「リシリア様のことはお任せください」
「あぁ、頼む」
「殿下もお休みに?」
「ノアがギュリオを連れて部屋で待っている。酒盛りだそうだ」
「それはそれは。たっぷり恨み言を受けてらっしゃいませ」
「恨み言か、光栄だな」
「余裕ですこと。2年前の余裕のない殿下ったらありませんでしたのに」
入学して間もない頃、リシリア様から返されたというマントを抱いて、眉間に皺を寄せていたこともあった。
デートだと出掛けて行ったと思ったら、難しい顔で帰ってきた日もあった。
それとは逆にとても柔らかな顔で帰ってきた日も。
「もう私のものだ」
「私に宣言しても仕方ありませんわよ?」
「そうだな。やつらに言ってくるとしよう」
「ふふ、いってらっしゃいませ」
アルバートは名残惜しそうにリシリアの顔を見てから部屋を出た。
「遅いじゃないですか、殿下。リシリアに何かしてないでしょうね」
「してたらこんなに早くは戻らん」
ノアは前室のいつものソファーに座り、ウイスキーを煽っていた。
「ノアさん、帰りましょうよ。俺、こんなところ場違いで……」
ギュリオは初めて訪れた王族用の部屋に落ち着かないようだった。
「ギュリオは酒が足りないんだよ。演奏も終わったんだから飲みなよ」
「えぇ、こんな高そうなお酒……」
「いいですよね、殿下」
「構わんが、大先生は飲めるのか?」
「ええっと、少しなら……」
「なら遠慮するな」
ソファーに座ってウイスキーをグラスに注ぐ。
「乾杯といこうか」
「献杯ですよ」
ノアは片手でロックグラスを持ち上げた。
「不吉なことを言う」
「リシリアへの数多の恋心が消えた日ですからね」
「本当にお前はリシリアの前だと性格が変わるな」
「俺、帰りたい……」
男3人の2次会が始まった。