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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
3年生
151/160

サプライズ結婚式

 ダンスホールの天井まで続くほど高い扉の前に、ノアとクロードがいた。

 執政補佐官組が並んでいるのを見るのも久しぶりな気がする。


「やぁ、リシリア。綺麗だね」

「ありがとう、ノア」

「こんなに綺麗なリシリアを送り出すのは惜しいけど、でも殿下より先に見られたから文句言っちゃいけないね」


 ノアは嬉しそうに言った。


「うぅ~監督っ。いや、監督じゃないですねっ、新ぷっ!!」


 クロードの口をノアが慌てて塞ぐ。


「クロードは黙ってようか」

「あぁ、俺またやっちゃうところだった」

「いやもうほとんどやっちゃてるけど。まぁもういいか」


 ノアとクロードは扉の左右にそれぞれ分かれ、取手に手を掛けた。


「アンジュさん、いつでもいいよ」

「は、はぁい」


 アンジュは上を向いて必死に涙を止めていた。


「リシリアの手を引く役、僕が変わってもいいよ?」

「ノア君、殿下に殺されますよ」

「あはは!」


 ノア、何ですかその笑いは。


「リシリア様、少しかがんでいただけますか?」


 アンジュは濡れた黒い瞳を私に向けた。

 私が少しかがむと、アンジュはベールを下げた。


「ベールダウン? 何だかほんとに結婚式みたいね」

「リシリア様、行きましょう」


 アンジュが私の手を掴む。


「リシリア、行ってらっしゃい。幸せになって」


 ノアがそう言うと、一気に扉が開かれた。


「っ!」


 まばゆい程の光が目に飛び込む。

 足元の真っ赤な絨毯は真っ直ぐに続いていて、その先には愛しい人の姿があった。

 私の作ったタキシードに身を包んだ、アルバートの姿が。


 アンジュのエスコートで私はダンスホールへと足を踏み入れる。

 両脇には腰ほどの高さの花筒がならび、そこには真っ赤な薔薇が詰まっていた。

 そしてその向こう側に、参列者のようにならぶ皆の姿があった。溢れんばかりの笑顔。その手は惜しげもなく拍手を送る。

 そして拍手に負けないくらいの優美なメロディーが耳に届く。このヴァイオリンの音色はギュリオだ。


 私は胸が詰まったようになって、熱いものが喉元まで込み上げてきた。


「殿下、リシリア様をお願いします」


 アンジュはアルバートにそう言うと、私の手をそっとアルバートに渡した。


「あぁ、任された」


 アルバートは私の手をきゅっと握ると、バージンロードの先を歩き始めた。




 祭壇の前に立つと、神父の格好をした生徒が現れる。

 確か聖職者の家系だと言っていた。


「では誓いの言葉を」


「私はリシリア=ノックスを妻とし、永遠の愛を誓う。そしてともにこの国を安寧へと導くことを誓う」


 アルバートの唇が誓いの言葉を紡ぐ。

 その目には一切の曇りがなくて、澱みのない声だった。


「新婦はこの誓いを受け入れ、誓いますか?」

「はい、誓います」


 私はしっかりとした声で宣誓する。


「では誓いのキスを」


 ベールの向こうに見えるアルバートはいつにも増して素敵に見えた。

 金色に輝く髪も、整った目鼻立ちも、長いまつ毛も、いつも愛を囁いてくれる唇も。その全てが愛おしい。


 アルバートがベールに手を掛けると、その視界がふわっと開けた。


「リシリア、愛している」


 小さく唇を動かしたアルバートは私の肩を掴んで優しく引き寄せる。

 私が目をつむると、柔らかくて温かな熱が唇に触れた。









「殿下〜! リシリア様〜! おめでとうございます〜!」


 一連の儀式が終わると、会場は立食パーティーへと姿を変えた。

 ラッタとナナが嬉しそうに駆けてきた。


「ご苦労だったな」

「ありがとう。こんなことを企画していたなんて、全然気付かなかった」

「そりゃあそうですよ! 気付かれないよう準備しましたからね。アンジュが護衛でよかったです」


 隣に控えていたアンジュを見ると、照れくさそうに笑っていた。


「私たち庶民だから、結婚式の本番は出られないじゃないですか。でもどうしてもお二人をお祝いしたくて! 一計を案じました!」


 ナナが興奮した声で言った。

 その言葉に思わず目尻に涙が浮かぶ。


「私も、皆に祝ってもらって、本当に嬉しい」


 こんなに温かい結婚式ってない。

 気のおけない級友に見守られて、大好きなアンジュにエスコートされて。


「殿下! リシリア様を幸せにしてくださいねぇ!」

「承知した」

「キャー! いいなぁー!」


 ラッタとナナはぴょんぴょん跳ねながら会場の奥に消えた。


「アンジュも、素敵なベールをありがとう」

「殿下にめくられちゃいましたけどね!」


 その言葉にカッと顔が熱くなる。

 困ってアルバートの方を見ると、アルバートの頬も赤くなっていた。


「そ、そういうものだろう」

「まぁそうですけどー。ノア君なんて、リシリア様のキスシーン見たくないとか言って、扉の開閉係志願してましたからね。ちょっと気持ちわかりました」


 ええっと……。


「ノアはまだそんなことを言ってるのか」

「寂しいんですよ、リシリア様を取られちゃうのが」

「ふふ、何も変わらないわ。私とアンジュはずっと親友だし、ノアはずっと幼なじみよ?」

「そうなんですけど〜」

「ほら、アンジュも着替えてきたら? せっかくの夜会なんだから、ドレスの方がいいでしょう?」

「いいえ、リシリア様の護衛の方がいいです。それにこんなに綺麗な花嫁さん、誰に狙われるかわかったもんじゃないし!」

「最もだ」

「アルバートまで……」


「あ、ほら。話をしてれば来ましたよ」


 グレーのモーニングに身を包んだギュリオが近付いてきた。


「おめでとうございます、殿下、リシリアさん」

「今日の曲は大先生が?」

「はい、以前お約束しましたから」

「そうか、素晴らしい曲だった」

「このあとのダンスでもいくつか新曲を演奏しますので、楽しんでください」

「あぁ、そうしよう」

「リシリアさんも、是非」

「えぇ、もちろんです。ありがとう、ギュリオ」


 幸せだ。

 こんな風に皆に祝福してもらえるなんて思ってなかった。


 幸せなダンスパーティーは夜更けまで続いた。

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