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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
3年生
147/160

心配性のリシリア

「どうしたリシリア。怖い顔をして」

「どうしたもこうしたもありません。ランカ先輩の指導は行き過ぎです」


 アンジュが倒れた日の夜、私はアルバートの部屋に来ていた。

 一人で部屋にいると昼間のアンジュのことを思い出して眠れなかった。

 鈍い衝撃音に、飛ばされる小さな身体。そして乾いた地面に叩きつけられる音。

 アンジュは目を閉じたままぐったりとして動かず、身体のそこかしこに傷や痣が出来ていた。


「ランカにも考えがあるのだろう」

「考えがあったとしても、あんなひどい……」


 ベッドに横たわっていたアルバートが身を起こす。

 私はベッド脇のカウチに座ったまま頭を抱えていた。


「戦場では『ひどいことをするな』なんて言葉は通じないぞ」

「でもアンジュは女の子ですよ!?」

「だが騎士だ。騎士に男も女もないし、女だからと言われるのはアレが一番嫌がるだろう」

「それはそうですけど……でもアンジュが死ぬようなことがあったらどうするのです」

「それはお前の考えることではない。騎士は国に忠誠を立て、命を捧げた者たちだ」

「っ!」


 私は後悔に苛まれる。

 私とアンジュが親しくなったせいで、アンジュは騎士団を志望した。


「リシリアが悩むことではない」


 どすんとアルバートが私の隣に座り、肩を抱き寄せた。


「でもアンジュは私のせいで――」

「兵士の命を軽視しろとは言わない。だが分別は持て」

「……」


 頷けない自分がいる。


「仮に王城に敵国が攻めてきたとして、アンジュが敵の前で血を流していたら――リシリアは間違いなくアンジュの盾になるだろうな」

「当たり前です」

「だがそれは許されない。アンジュの命を犠牲にしてでもリシリアは逃げなくてはいけない」

「見捨てろとおっしゃるのですね」

「そうだ」


 心がもやもやする。


 言いたいことはわかる。

 国と王族を守るのが騎士の仕事、自身の命を守ることが王族の責務だ。


 だけどそうやって切り離すには、アンジュと仲良くなりすぎてしまった。

 私たちは王妃と騎士の前に、親友だ。


「辛いです」

「辛いな」


 アルバートの手が優しく私の髪を撫でる。


「だが仮定の話だ。兵士が大勢死ぬような国の、愚かな王になるつもりはない」

「はい」

「アンジュが剣を抜かなくて済むような国を作ればいい。そうやってアンジュを守れ」

「私が、アンジュを守る?」

「そうだ。何も盾になることだけが守り方じゃない」

「そうですね」


 私はようやく頷けた。


「明日も訓練場に行くのか?」

「はい。そのつもりです」

「では終わったらアンジュとランカを連れて来い」

「? わかりました」

「では寝るか。もう遅い」

「はい。お休みのところ、遅くに失礼いたしました」


 私は私室に帰ろうと立ち上がった。

 しかしその足はふわりと浮く。


「どこへ行くつもりだ」


 私はアルバートに横抱きにされていた。


「どこって、部屋に戻るんです」

「は?」


 何ですか、その呆れたような顔は。


「下ろしてください」

「ここで寝ればいいだろう」

「はぁ!?」

「婚約者なのだから問題はない」

「も、問題ですよ!」


 アルバートは私を抱えたまますたすたと歩き、居室に入る。

 よかった、帰してくれそうだ。


 その歩みが前室へ続く扉の前でピタリと止まる。


「?」

「今日は私の部屋にリシリアを泊める。問題ないな」


 扉に向かって声を掛けるとすぐさま返事が返ってくる。


「承知いたしました」





「だそうだ」


 アルバートはまれにみる良い笑顔で言った。


「わ、私、ただ話を聞いてほしくて来ただけで、そんなつもりは――」

「どんなつもりだ?」


 アルバートは嗜虐的な笑みを浮かべて寝室へと戻る。


「や、ちょっと!」

「落ちるぞ、じっとしていろ」

「だ、だめです!」


 私はベッドの上に下ろされた。


「さっきから何を期待している。眠るだけだ」


 アルバートはごろんと私の隣に寝転がり、悪戯っぽく笑った。

 私はあまりの恥ずかしさに顔を反対側に向ける。


「お、おやすみなさいっ」

「ん? そんなに期待されては応えないわけにはいかないだろう?」

「ひゃあっ!」


 うなじに柔らかな熱が触れた。


「あはは、本当に可愛いな。リシリアは」

「もう、からかわないでください」

「あぁ悪かった。じゃあ今からは本気になってもいいんだな?」

「だ、駄目!」

「まぁそう言うな」


 アルバートが私を背後から抱きしめる。

 心臓が破裂しそうだ。


「リシリアはアンジュのことが大好きだろう?」

「は、はい」

「妬ける」

「えぇ!?」

「夜更けに部屋に訪ねてきたと思ったら、他人のことで頭がいっぱいとはな。リシリアらしいが」

「す、すみません」

「今度は私のことでいっぱいになればいい」


 私を抱く腕にぎゅっと力がこもった。


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