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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
3年生
145/160

side アンジュ(夏期講習)

 ドンッ!


 剣に押し負けて思わず尻餅をついた。


「痛っ!」


 ランカ先輩は剣を鞘に納める。

 そして手を差し出すわけでもなく、並んでいた練習生に向かって「次!」と言った。


 1学期の期末試験は頑張ったものの、上級クラスに上がることは出来なかった。

 今年の夏期講習は「騎士団特別講義」を選択したけど、ランカ先輩が講師として来るとは知らなかった。


 私が腰をさすりながら待機スペースに行くと、すぐにリシリア様が冷えたタオルと飲み物を持って来た。


「大丈夫?」

「はい」

「これ、使ってね」

「ありがとうございます」


 冷たい水を含んだタオルを首に押し当てる。

 強い日差しの中、剣を交わして火照った身体が冷えていく。

 ほんのりレモンの味のする甘い飲み物をくっと飲み干す。


「リシリア様、こんなところにいて大丈夫ですか?」

「こんなところだからでしょう? 国を守ってくれる騎士団の人たちと、こうして話を出来るってとても貴重だと思って」


 リシリア様は他の騎士団専攻のメンバーにもせっせと世話を焼いていた。

 その姿はむさくるしい戦場に舞う一羽の蝶のようで、誰もが溜息をこぼした。

 もちろん私も。


「何か変わりましたね。前まではずっと部屋で勉強してらっしゃたのに」

「ふふ、そうね。それも大切なことだけど、他にも大切なこともあるなって気付いて」


 リシリア様は夏休み前あたりから、積極的に外に出るようになった。

 護衛の私も当然お供するのだけれど、部屋に籠って悩ましげな顔をしていた頃に比べたら、毎日生き生きしてとても楽しそうに過ごしていた。


 まさか猛暑の訓練場にまで来るとは思わなかったけど。


「次!」


 ランカ先輩の声が響く。


「アンジュはランカ先輩とこのあとデート?」

「どうでしょう。来るなんて聞いてなかったんで、何の予定も」

「でも4か月ぶりでしょう?」

「そうですね。4か月ぶりの再開が、手加減ゼロの実践訓練なんて思ってもみませんでしたよ。しかもまた強くなってるし」


 たくましい腕が剣を振り下ろす。

 空気を切る音が耳に響く。

 同級生がいるっていうのに思わず顔が熱くなってしまう。


「せっかく会えたんだから、不貞腐れてないで素直にならないと駄目よ? 次に会えるのがいつになるかわからないんだし」

「素直に不貞腐れてるんですよ~。もうなんなんですかあの人~。だいたい素直になれとかリシリア様が一番言っちゃいけない言葉なんですけど~!」

「何でよ」

「はぁ……」

「溜息!?」


 擦り傷を負った同級生が私の隣にどすんと座った。

 リシリア様はそれを見て救急セットを取りに行く。


「ランカ先輩、また強くなってねぇ?」

「なってる」


 私は頬に手を当ててむすっとした声を出した。


「俺も強くなったつもりだったけど、あの人の成長スピードやばいよ」

「でもジフは上級に上がったじゃん」

「アンジュ、まだ期末のこと引きずってんの? 次はいけるって」

「そうかなぁ~」

「技術は高いって先生も言ってただろ? でもお前軽いからな~」

「太ろうかな……」

 

 女だし体格も小さいし、これだけはどうしようもない。

 さっき受けたランカ先輩の剣はとても重くて、ガードしきれずに倒れてしまった。


「ばーか、そういう問題じゃないだろ」


 ジフはそう言って私のおでこを指でピンと弾いた。


「そういう問題でしょ~」

「いや、吹っ飛ばされる時も重心はブレてなかったし、そう悪くはないと思うぜ」

「吹っ飛ばされてちゃダメでしょ。って、自分で言ってて悲しくなる~!」

「ははっ、アンジュは大きい声出して元気なのが一番!」

「元気じゃないからっ!」

「いや十分元気だよ」


 そうこう言っている間にリシリア様が戻ってきて、ジフの傷口に水をかけて土を落とす。


「リシリア様、ありがとうございます」

「いいえ、訓練ご苦労さま」

「俺、国のために頑張るっす!」

「ジフ抜け駆けしないでよ! 私もですよ! リシリア様!」

「頼もしいわね」


 そうこうしている間に訓練が二巡目に入る。


「お前は右ばかり狙う癖がある。左ががら空きにならないように気を付けてみろ」

「はい!」


「剣を振り切ったあとの立て直しを急げ」

「やってみます!」


 ランカ先輩は稽古を始める前に、一人一人にアドバイスをする。


「すげぇなあの人。全員の癖、一瞬で見抜いて覚えてる」


 ジフは尊敬の眼差しでランカ先輩を見ていた。

 戦場で勝ち抜く人ってああいう人なんだろうと私も思う。


「次!」


 その声で私ははっとして立ち上がる。私の番だ。


「剣を抜いたら一気に間合いを詰めろ。剣の届く範囲で戦えば必ず押し負ける」

「はい!」


 私のダメなところもランカ先輩には筒抜けだ。


「来い、アンジュ」


 その声に私は剣を抜き、一気に間合いを詰める。

 ランカ先輩の懐に入ってその切っ先を振り上げ――ようとした。


 カラン。


 それもむなしく剣はランカ先輩の足で見事に蹴り落されてしまった。


「次!」




「アンジュ大丈夫!?」


 リシリア様が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「あぁ~。ははは。ちょっと冷やした方がいいかもです」


 さっき剣を蹴り落された時に、手首ごと蹴られてしまった。

 すっごく痛い。


「待ってて、すぐに冷やすものを」

「あと、添え木と包帯もいいですか?」

「わかった!」


 あぁ、何だかなぁ。

 目の前のジフは、いい感じにランカ先輩とやり合っている。

 さっきよりも長く続いているし、動きも良くなっている。




 3巡目。


「アンジュ、右手はどうした」


 包帯を巻いた手首をランカ先輩が見た。


「多分捻挫です」

「では左で剣を抜け」

「左ですか? やったことありませんけど」

「戦場ではやらなければ死ぬぞ。どうする」

「や、やりますよ!」


 それから数秒のうちに肩にものすごい衝撃がきて空が見えた。

 それを最後に記憶は途切れた。


「ランカ先輩、やりすぎです!」


 遠くでリシリア様の声がした。


いつもお読みいただきありがとうございます。


今月中もしくは来月を目途に完結を目標に書いています。

3年生編はスピーディーに終わらせる予定です。最後までどうぞお付き合いください。


短編「世間知らずな王女様は側近騎士に恋をする」のPVが寂しいことになっております。

未読の方は是非お読みくださいませ!喜びます!

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