乗馬デート
「どこか行きたいところはあるか?」
「アルバート、私、馬に乗りたいです」
「馬? 馬車ではなくて、馬か?」
「はい。乗せてくださいますか?」
「構わないが」
王族所有の馬を管理する馬屋に、ひときわ目の引く真っ白な馬がいた。
毛並みがつやつやしていて、まるで物語の王子様が乗っていそうな馬。
アルバートは馬に飛び乗ると、手を差し出してくれた。
私は用意された踏み台に登って、ゆっくりと馬の背中に乗る。
「すごい、高い」
「怖くはないか?」
「はい。むしろわくわくします」
アルバートはふっと笑って足を一蹴りした。
大きな馬体が上下に揺れる。
「以前アンジュの馬に乗せてもらったことがあるのですが、全然高さが違いますね」
「アンジュの馬は小さいからな。でもどうして急に馬なんて言い出した」
「今しか乗れないかな、と思って」
「そうか」
王妃になれば、身の安全を考えどこへ行くにも馬車だろう。
それも揺れの少ない最上級の馬車。
もちろん十分素敵だし、文句を言うなんて贅沢なのだが、馬に乗ってしか見られない景色がある。それが見たかった。
「視界が開けて、遠くまで見渡せて、頭がクリアになる気がするんです」
「そういうものか」
「はい」
「では景色の良いところまで走ろう」
背中にアルバートの体温を感じる。
頬を撫でる風はしっとりと湿っていた。
私たちは小高い丘にある東屋で馬を下りた。
円形のドームのような屋根の下で、シーラに包んでもらった昼食を広げる。
「結婚しても、たまにはこうして出掛けよう」
「嬉しいです」
「久しぶりにリシリアの笑顔を見たな」
「すみません、心配かけてばかりで」
「謝ることではない。好きな女の心配をするのは男の特権だ」
アルバートは柔らかな顔で私を見て手を重ねた。
「アルバートが困った時は、私に心配させてくださいね」
いつも完璧で、困った様子なんて見ないけれど。
でも弱音を見せてもらえる存在でありたい。
「そうか、困ったな」
「?」
「リシリア、早速困っているぞ」
「なんでしょうか」
「お前が可愛すぎて、さぁどうしようか」
アルバートは重ねた手を引き寄せ、私をぎゅっと抱きしめた。
その体温に心臓がトクンと鳴る。
「どうされたい?」
何か企んだ目が私を覗き込む。
「ど、どうもこうも……」
「今日の褒美も取らせないとな。さぁ欲しいものを言え」
アルバートは息がかかりそうな距離まで顔を寄せる。
もう少しで唇が触れてしまいそう。
「意地悪」
小さく唇を動かして言った。
「先月からお預けをくらっていたんだ。恥ずかしがるリシリアも、蕩けるリシリアも、全部見たい」
「っ!」
「ほら、何が欲しい?」
アルバートは私の髪に触れるとさらりと耳にかけた。
耳を掠める指に肩がぴくんと震える。
焦れた吐息が口から漏れる。
「熱いな。耳まで真っ赤だぞ」
「ほし、い」
「ん?」
「アルバートが、ほしい」
「あぁいいぞ。奪ってみろ」
にっと笑った顔は何もしてくれない。
「んっ」
私はアルバートの首の後ろに腕を回して唇を重ねた。
チュ。
湿った音がやけに艶めかしく響く。
ゆっくりと唇を離すと、顔を赤くしたアルバートがそこにいた。
「これはなかなか、悪くないものだな」
「もう……」
恥ずかしさで思わず下を向いてしまう。
「そんな顔をされると加減するのが難しくなる」
「んんっ!!」
アルバートは私の顎を掬うといつもより激しく私を求めた。