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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
3年生
143/160

対策会議の成果

 昨日までの雨が嘘のように晴れた6月のある日。

 私はザラ様を前に、いつもとは違う緊張をしていた。


「あ、あの」

「なぁに?」

「つまらないとお感じになられたり、お聞き苦しい点があればすぐに仰ってください」

「始まる前から自信がない?」

「いえ、あの……」

「まぁいいでしょう。講義を始めます」


 私は両手を揃えて背筋を伸ばす。


「あと半年と少しで私はアルバート殿下と結婚するのですが、この学園で会ったばかりの頃は絶対に結婚したくないと思っていました」


 ザラ様の眉がぴくりと上がった。

 いつも表情を崩さないザラ様の、始めての反応だ。


「そう言えばそうだったわね。私は1年生の夏期講習での貴女を見て、貴女以外にいないと思ったけれど」

「あの頃は……殿下には私以外にもっと相応しい女性がいるのではないかと思っていたのです。私と政略結婚するのではなく、心から愛する女性を見つけていただきたいと思って」

「? 私の勘違いかしら。あなたたち、愛し合っているのではなくて?」

「はい。それで今日は、どうして殿下と私が愛を……育んできたのかということを……お話出来ればと」


 あぁ、だんだん声が小さくなってしまいました。

 だって恥ずかしすぎるではありませんか。愛を育むとか何ですか一体。


「まぁそれは」


 ザラ様はぐっと身体を前傾させた。


「とっても面白そう」


 !!

 やっぱりそうなの!?


「ありがたいことに、入学式の頃には既に私を気にかけてくださっていて」

「あらあら、あの子ったらそんなこと一言も」


 ザラ様は笑いをかみ殺すように口を結んだ。


「ですが私は他の女性と殿下をくっつけようとダブルデートを企画したり」

「まぁ! 詳しく聞かせて?」


 私はアルバートとの馴れ初めを話す。

 きっと顔は真っ赤なんだろう。

 視界の端に映るシーラも小さく肩を震わせているような気がします。




「強引なのかと思えば、疲れた私に肩を貸してくださって眠らせてくれたこともありました」

「へぇ、意外と紳士なのね」


 デートをしようと言っておいて、結局馬車で夜まで眠ってしまった日もあった。


「学園祭では皆の前で、私に力を貸してやってほしいとお願いまでして」

「愛してるのねぇ」


 私の知らないところでサポートしてくれたことも聞いた。


「嫉妬深いところを見せたと思ったら急に寛大になったり」

「男って子どもよねぇ」


「礼拝堂で、素敵なプロポーズをしてくださったり」

「あら、私もよ! 陛下のプロポーズも学園ここの礼拝堂だったわ。陛下ったら普段は堅物なのに、あの日だけはやけにロマンチックでね。思わず笑ってしまって……懐かしいわぁ」


 ザラ様が自分の話をしている。

 こんなこと初めてだ。


「その話っ、お聞かせ願えますか!?」

「ふふ、いいけれど。でももう1時間目が終わってしまうわね。少し休憩を挟んで、続きは2時間目にしましょうか」


 2時間目? 2時間目も講義が続く?

 その事実に胸がいっぱいになる。


「は、はい!」


 私は胸にいっぱい空気を吸った。





 2時間目はザラ様の思い出を聞いているうちにあっという間に終わってしまった。

 講義の終わりを告げる鐘が鳴る。


「あぁ、話しすぎてしまったわ。今日の講評はするまでもないけれど、とても楽しかったわ」

「ありがとうございます」

「ねぇリアちゃん」

「?」


 ザラ様の目が真正面から私を捉える。

 その澄んだ青は、さっきまでと違う真剣な目だった。


「どうか今日話したことをずっと覚えていて」

「は、はい」

「王妃という立場は時に私を捨てなくてはいけないこともある。けれど、リシリア=ノックスとして恋したこと、感じたこと、その一つ一つをどうか忘れないで。それがきっと、貴女の糧となるから」


 私は頷く。


「将来の話になるけれど。アルバートのこと、陛下としてではなく、いつまでも貴女の愛した一人の男として見てあげて」

「もちろんです」

「あの子もあれで、真面目過ぎるところがあるから」

「存じております。私はお傍で、安らげる場所になれるよう努力いたします」

「ふふ、私が言う必要もなかったかしら」

「いいえ。私、忘れそうになっていました。王妃教育をきちんと修了せねばとそればかり必死になって、殿下と気まずくなったりもしたのです」

「過去形ということは、もう大丈夫なのでしょう?」


 私は胸を張って微笑んだ。


「はい」


「よろしい。では宿題です。残りの学校生活、ここでしか出来ない思い出をたくさん作りなさい。貴女のしたいことを、自由になさい」

「承知いたしました」


 したいことを自由に。

 それが出来るのも、学生のうちである今が最後のチャンスなのだろう。

 ザラ様本人がそれを一番よくご存知だ。


「じゃあまた次回の講義で聞かせてちょうだいね」

「はい、楽しいお話をお耳に入れます」

「ふふ、来月が楽しみだわ。じゃあね」


 扉に向かうザラ様を、私は頭を下げて見送る。


 ガチャ。

 重い扉が開く音がする。


「あら、そんなに心配だった?」

「母上、その様子なら楽しんだようですね」

「うふふ、とっても。妬けるでしょう?」

「えぇ妬けます」

「まぁまぁ。母親に向かって言うじゃない」


 顔を上げると扉の向こうにアルバートの姿があった。


「リシリア、今日の執務は終わりだ。夕食まで一緒に出掛けようか」

「はい、是非!」


 無意識に声が弾む。


「いいわねぇ。私も帰って陛下とデートでもしようかしら」

「父上によろしくお伝えください」

「嫌よ。久しぶりのデートなのに、息子の話を出すだなんて野暮なことがありますか」

「ははっ、産んでおいてひどい言い草ですね」

「そのうちわかるわ。ただの恋人に戻りたい日もあるのよ」


 ザラ様は悪戯な顔で笑うと手を振って出て行った。




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