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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
3年生
141/160

対策

 五月。

 木々の緑が力強く自身を主張し始めた頃、二度目の講義の日がやってきた。


 予習は念入りにしたし、質疑応答の想定集も作った。

 話の流れも時事から始めて諸外国の取り組みへと展開する算段もしてある。

 きっと上手く行くはず。


「では始めましょうか」


 ザラ様はにっこりと私を見た。


「じきに梅雨の季節になりますね」

「そうね」

「この時期はしばしば洪水が起こりますが、南方の領地ではこの春にいくつかの排水設備を設けたとか」

「よく知っているわね」

「少し調べました。排水設備は外国の技術を参考にしたそうですね」

「えぇ。公国ルンデリンと技術交流があってね」

「ルンデリンでは台風と呼ばれる暴風雨があるのですよね。その対策として開発されたと聞きました」


 うん、きっと上手くいっているはず。

 会話を広げられているし、内容も実のあるものだ。

 これなら大丈夫。


 1時間目の終わりを告げる鐘が鳴り、ザラ様が話を切った。


「では1時間目の講評です」

「はい」

「面白みに欠けるわね」


 え?


「私、リアちゃんが優秀なのは知っているから。想像通りというか、退屈だったわ」


 退屈?

 身体が冷たくなっていくのを感じる。


「2時間目もこれを続けるつもりなら、今日はここまでにしましょう」

「あ、ありがとうございました」


 私は頭を下げた。

 ザラ様が退出するまで顔を上げることが出来なかった。








「求められているものが違う……?」


 私はまだ日も高いというのに寝台の上で頭を抱えていた。

 シーラには部屋に入らないよう、また誰も通さないように言いつけた。


 私は今日の記憶を一つ一つ丁寧に思い出す。


 時事から始めて、内政の話をした。

 そして外国の取り組みについて話を広げた。

 その中で歴史的な背景にも触れたし、風土についても話した。


 色々な分野を満遍なく、でも知識として浅くならないように勉強もした。

 でも駄目だった。


「~っ!」


 私は枕に顔を埋めて声にならない声を出した。

 残りの講義は8回。挽回できるのだろうか。


「挽回、しなくちゃ」


 言い聞かせるように声に出す。

 何か、別の話題。目新しくて、面白い何か。


 そう焦れば焦るほどプレッシャーは増してゆく。

 パンパンの頭で考えても良い案は出てこない。


 今日はアルバートとの月に一度の晩餐だというのに、どんな顔で行けばいいんだろう。





 

 疲労した頭と解放された緊張感は睡魔を呼ぶには十分で、いつの間にか眠りに落ちてしまった。





 遠くでアンジュの声がして目が覚める。

 アンジュの声がするということはもう放課後。 

 護衛に来たのだろうが、私が通すなと言ったからきっと前室で待っているんだろう。


 私は重い頭でふらふらと鏡台の前に立った。

 顔も髪もひどい。こんな状態で会ったら心配させてしまう。


「夕食も断ろうかな」


 そんな弱気な言葉が出てしまうくらい、心が衰弱していた。


 私は鏡台にあった紙にシーラへの伝言を書きつける。


「本日のアンジュの護衛は不要。この後は部屋を施錠し、人との面会は無し」

「殿下には夕食のお断りの連絡を」


 書いていて胸が苦しかった。

 だけど会えば不快な気持ちにさせてしまうことは明白だった。


 私は寝室の扉の前にしゃがんで足元の隙間にメモを置く。そしてガラスで出来た呼び鈴をチリンと鳴らした。


 すぐに扉の前に気配がし、足元のメモが引き抜かれた。

 これでいい。私はもう一度ベッドに身体を預けた。






 それからそう時間が立たないうちに、寝室のドアが乱暴にノックされた。


「リシリア様~! 開けてくださーい!」


 アンジュだ。

 でも放っておこう。きっとシーラが諫めてくれるはず。


 でもノックは止まなかった。


「私、お顔見るまで帰りませんよー!」

「せめて声だけでもー!」

「何してるんですかぁー!」


 私はベッドから起き上がり、アンジュの声のする扉に背中をつけて座った。


「リシリア様、大丈夫ですか?」


 大丈夫、と言って安心させてあげたい。

 でもその言葉は口から出なかった。


「開けてくれません?」

「……」

「開けてくれないなら、殿下が蹴って壊すそうですけど」

「!?」


 私は慌てて立ち上がった。


「いる、の?」

「いますよ。リシリア様、いいんですね? 蹴破りますよ?」

「ま、待って」

「じゃあ開けてください」

「人を通すなとシーラに伝えたはずよ」

「今から都合の良いことを言いますね。私庶民なので、貴族のお作法とかよくわからないし、お行儀も悪いんで、入りたいから入ります」

「貴女、騎士団でしょう」


 わからないはずがない。

 それにお作法は1年生の時にみっちり叩き込んだはずですよ。


「だから都合が良いこと言いますって言ったでしょ。リシリア様のお顔が見られるなら、口実なんてどうでもいいんですよ」

「っ!」

「それから、リシリア様でも王子殿下の命令には背けないでしょ?」


 それは確かにそうだ。


「殿下は命令したくないみたいですよ。リシリア様の意思で開けてほしいそうです」

「会わせる顔がない」


 私はぽつりと言った。


「じゃあ後ろ向いてていいから開けてって言ってます。というか、さっきから何で筆談なんですか。自分で話してくださいよっ!」


 ドンッ。

 扉に何かぶつかる音がした。


「リシリア、聞こえるか」


 アルバートの声だ。


「はい」

「リシリアに会いたい」


 その切なげな声に胸が押し潰されそうになる。

 私だって会いたい。

 でももっとちゃんとした自分で会いたいのだ。


「申し訳ございません。今日はお引き取りくださいませんか」

「そうか、では」

「はい」

「蹴破るから扉から離れていろ」

「なっ!?」


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