表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
136/160

涙をぬぐう手

「アルバート、ごめんなさい」


 肩が震え、声が途端に弱々しくなる。


「謝罪はさっき聞いた」

「トマスティオ殿下のことは、モモタナ様にもノアにも忠告を受けていました。なのにこんなことになってしまって……」

「男の力には敵わないだろう」

「はい」


 アルバートは強い力で私を抱きしめた。


「一人で戦おうとするな」

「ごめんなさい。フランシス先生のことと言い、先日のノアのことと言い、また男性と部屋で二人になってしまって。呆れてはいませんか?」

「今回は仕方なかったのだろう? シーラが血相を変えて飛んできた。自分が責任を取ると言って、尋常ではない目をしていたと」

「ですが仕方ないでは済みません」


 私はアルバートのものなのに、唇を奪われてしまった。

 思い出してもぞっとする。奥歯がカチカチと音を立てる。


「使用人を守ろうとする気持ちは否定しない。だがリシリアに何かあればシーラだって責任を免れない。妃になるのならば我が身を一番に考えろ。お前の代わりはいない」

「はい」

「それに何か起こった時、お前は自分で何とかしようとするきらいがある。自覚はあるか?」


 私はアルバートの胸の中で小さく頷いた。


「その強さは頼もしくもあるが、時に危うくもあることを覚えておけ」

「はい」


 アルバートの正論に、私はただ反省するしか出来ない。







「怖かったな」


 アルバートはそう言うと、私の背中を優しく撫でた。

 私の目から堰を切ったように涙が溢れだす。


「ひっく、うっ、うぅ」

「よく耐えた」

「ごめ、なさい」

「立派だった。私が嫉妬するほどにはな」

「そんなこと、ない」


 アルバートはゆっくりと身体を離した。


「よく顔を見せろ」


 きっと見せられたものじゃないと思う。

 だけど揺らぐ視界に映るアルバートは微笑んでいて、優しく涙をぬぐってくれた。


「口付けてもいいか?」

「っ!」


 その言葉に思わず顔を背けてしまう。

 さっきトマスティオに奪われた唇に、言いようもない罪悪感が積もる。


 そんな私の心を読み取るように、アルバートは掬うようにして私に口付けた。


「他に触れられた場所は?」

「耳と――」


 チュ。

 耳元に柔らかな感触と優しい音が響く。

 私の身体がピクリと跳ねる。


「他は?」

「髪と頬と……」


 アルバートは順に口付けていく。


「首と、ここにも……」


 私は鎖骨に手をやった。その手が優しく掴まれ、アルバートの唇が落ちる。


「あっ」


 思わず甘い吐息が漏れた。


「もうないか?」


 上目遣いのアルバートが言う。


「はぁっ。はいっ」


 私は胸を上下させて呼吸をする。

 私の身体がアルバートに上書きされていく。


「そう潤んだ目で見るな。続きがしたくなる」

「んっ」

「残念だが母上を待たせているからな。婚約発表を延期にするわけにはいかないだろう?」

「本当に、私で良いのですか?」


 アルバートは笑って私の顎を掴んだ。

 至近距離で目と目が合う。


「何度誓えば気が済む。私にはリシリアだけだ」

「はいっ」


 私はアルバートの首に腕を回した。









「母上、待たせました」


 私はアルバートの半歩後ろに立ち、礼をした。


「あら、話は済んだ?」

「はい。リシリアとの婚約を正式に発表してください」


 ザラ様は手にしていたカップを置くと立ち上がった。

 そして射抜くような目で私を見た。


「リシリア=ノックス。一度発表すればもう後戻りは出来ません。その覚悟はありますか?」


 私は最敬礼のお辞儀を返す。


「はい。私はアルバート殿下のお傍で、共にこの国の未来をつくります」

「よい」


 ザラ様はたった一言、威厳ある声で言った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ