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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
133/160

危機

 学園祭が終わると一気に試験ムードになるのは今年も同じだった。

 私が部屋でレポートの作成をしていると、不意にノックの音がした。


「リシリア様、トマスティオ殿下がお見えなのですが」


 シーラはどうすれば良いのか考えあぐねた感じで私の顔を見た。


「前室でお待ちですか?」

「はい」


 申し訳なさそうなシーラに私は微笑みかける。


「隣国の王子殿下ですから無下にも出来ません。シーラ、ありがとう」


 私は書きかけのレポートを机の端にまとめて前室へ移動した。






「トマスティオ殿下、ごきげんよう。何かご用ですか?」

「リシリア、座ってよ」

「失礼いたします」

「はは、変なの。自分の部屋なのに」


 愉快犯のように笑うトマスティオに私は警戒心を最大にする。


「試験勉強でお忙しくはないですか?」

「そんなもの別にする必要ないよ。俺は一日でも早くエーコットに帰りたいからね」

「そうですか。ではなぜまだ学園に?」

「姉様がここにいるから」


 トマスティオは睨むような目で私を見た。


「ねぇ、ちょっと。そこの使用人、席を外してくれる?」

「そういうわけには参りません。リシリア様が前室で人とお会いになる時は、必ず同席が必要で――」

「俺を誰だと思ってるの? 王族の命令だよ?」

「どうかご理解くださいませ」


 シーラは深々と頭を下げる。


「トマスティオ殿下。私の使用人を困らせないでください」

「ならリシリアが賢明な判断をしなよ。使用人の首なんていくらでも飛ばせるんだよ?」


 その温度のない笑みにぞっとする。


「シーラ、下がりなさい」

「ですが」

「よい。私が責任を取ります」


 これくらいのこと乗り越えられなくてどうする。

 私はトマスティオの目を見返した。

 シーラは緊迫する空気の中、乾いた音をさせて扉を閉めた。


「やっと二人になれたね。学園祭、知らない間にいなくなっちゃうんだもん」


 トマスティオは立ち上がると扉の前までゆっくり歩いた。

 そしてガチャリと鍵を閉めた。その鈍い金属音に鳥肌が立つ。

 私はソファーに座ったままぎゅっと拳を握った。


「私にご用だったのならそう仰ればよかったのでは?」

「あぁ、それもそうか」


 ポンと手を叩いたそのわざとらしい反応に心臓がバクバクする。彼の目的が読めない。


「人払いをしてまで話さねばならぬこととは何ですか?」

「そう怖い顔をしないでよ。俺、これでもリシリアを口説きにきたんだから」


 嗜虐的な笑みを浮かべながら言うと、その足は遠慮なく私に近付いた。


「私に触れるな」

「虚勢を張れるのも今のうちだよ?」


 獣のような目をした男は私の座るソファーに片膝を乗せた。

 そして両手を背もたれにつくと、私は完全にトマスティオの腕の中から逃れられなくなった。


「退きなさい」

「俺、上手いよ?」


 トマスティオの手が私の頬を撫でるように滑った。

 私はその手を払いのける。


「無礼者」

「ねぇリシリア。一緒にエーコットに来てよ。不自由な暮らしはさせないし、大事にするよ?」

「このように非礼を働くことが大事にするということですか」

「こういうことから始まる恋愛もアリでしょう」


 性懲りもなくその手が私の髪にかかる。


「私が愛するのはアルバートただ一人だけです」


 トマスティオは色気を含んだ溜息をつくと、私の耳元に唇を寄せた。


「すぐに忘れさせてあげるよ」


 そして耳たぶをカリっと噛んだ。


「痛っ」

「すぐによくなる」


 噛んだ箇所をぺろりと舐め上げられ、背筋に震えが走る。

 私は咄嗟に両腕でトマスティオの胸を押そうとしたが、その手はむなしくも掴まれ自由を奪われる。


「やめて!」

「好きだよリシリア」

「そんな嘘をっ」

「可愛いと思ってる」


 アルバートに言われるのとは全然違う。

 その言葉に嬉しさの欠片もなかった。


「私は嫌いですっ」

「そういう女をねじ伏せるのが快感なんじゃない」

「っ!」

「うん、その顔、ぞくぞくする。やばい、本気になりそう」

「誰かっ」

「使用人を外に出したのはリシリアだよ? わかってる?」


 トマスティオは口を開けて私の首筋に噛みついた。


「んんっ!」

「あれ、こういうことするの初めて? 何だ、殿下とは恋仲だと思ってたけど、そうでもないのか」

「こんなことをして、許されると思ってるの!?」

「その強がりは男の欲情をそそるだけだってまだわからない?」


 どこまでも嬉しそうな笑みを浮かべるトマスティオに寒気がする。


「アルバート!」

「いいねぇ。俺の下で他の男の名前を呼ぶなんて、健気で燃えるよ」


 トマスティオの唇が鎖骨に落ちる。


 その時物凄い音がして扉が倒れた。


「リシリアを離せ」


 剣を抜いたアルバートが鬼の形相でそこに立っていた。



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