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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
132/160

学園祭(夜の大運動会)

 3年生主催の夜会は仮面舞踏会だとばかり思っていたが、どうやら「夜会」さえ主催すれば何でもいいらしい。

 私たちは陽が沈んだ屋外訓練場に集められていた。

 

 屋外訓練場の中央では真っ赤な炎が焚かれ、さながらキャンプファイヤーである。


「これは、一体どういう趣旨?」


 私は隣にいるアンジュに聞いた。


「何でも、体力を誇示する行事がないのが不満だったみたいで。の大運動、略して夜会だそうです」

「夜の大運動会……」


 その響きはアウトなのではないでしょうか。

 そう思いながら待っていると、ランカ先輩が登壇した。

 祭の締めくくりを待っていた皆の熱がわっと沸き立つ。


「今夜は男も女も身分も関係ない。己の体力の限界まで楽しめ!」


 そう言って剣を掲げると、会場のボルテージは一気に上がった。


「アンジュ、ランカ先輩と上手くいってるの?」

「お察しの通り、振り回されっぱなしですよ」

「楽しい?」

「まぁ、それなりに」

「そう。よかった」

「無茶苦茶に見えますけど、結構わかりやすいんで。あの人」

「確かに」


 ランカ先輩、とっても楽しそう。

 そしてそれを見つめるアンジュの瞳が熱っぽいのがわかる。


「リシリア様、何か競技に出ませんか?」

「そうね、久しぶりに一緒に走りましょうか」

「負けませんよ? あの頃の私とは違いますからねっ!」


 一緒に礼拝堂の周りを走って、アンジュが音を上げていた日のことを思い出す。


「教え子に負けてなんかいられないわ」

「言いますね」

「ふふ、行きましょうか」


 私とアンジュは短距離走400mにエントリーした。

 私がスタートラインに立つと会場は一瞬どよめいたがそんなの別に構わない。

 ランカ先輩に言わせれば、今日は性別も身分も関係ないそうだし。


 私は姿勢を低くして、息を深く吸った。

 乾いた空砲の音で一気に地面を蹴る。


 赤い篝火の中、私の心臓は千切れそうになるくらい速く打ったけれど、久しぶりの感覚が気持ちいい。風を切る音が耳に響く。ゴールが近付く。

 ゴールテープを先に切ったのはアンジュだった。


「やったぁ!」


 アンジュには飛び上がって喜ぶ余裕があった。

 私はというと、もう膝がガクガクしてしまってその場にへたり込む。


「もう、完敗、よ」


 私は整わない息で笑った。


「何を言ってるんですか、2秒も差なかったですよ?」


 そのテンションで普通に話せるのがすごいのですよ。


「リシリア、綺麗だったぞ」


 頭の上から声が降って、私はふわっと抱き上げられた。


「ア、アル……殿下!」


 人前ですから名前で呼ぶのはやめておきましょう。


「医務室に行く必要は?」

「あ、ありません」

「そうか、なら向こうで座ろうか」

「は、はい」

「アンジュ、リシリアは連れて行くぞ」

「はぁーい」


「ちょっと待った!!」


 野太い声が響く。


「ランカ先輩っ! 空気読んでくださいよ~!」


 声の主をアンジュが慌てて止める。


「殿下、スクワット対決はいかがですか?」


 汗に濡れたランカ先輩は、お構いなしにアルバートの前に立った。


「私が競技に?」

「えぇ。愛する女性を抱え、己の筋肉の限界に挑むのです」

「ほぅ、面白い」


 アルバートの口角がわずかに上がる。


「ではペアはリシリア殿でエントリーしても?」

「構わん」

「ちょ、ちょっと! 駄目ですよ、そんなの」


 私はアルバートの耳元で言った。


「ちょうどいい。私の想い人はリシリアただ一人だと公言する良い機会だ」

「そ、それは」

「これであの弟殿も静かになってくれればいいがな」


 トマスティオ殿下のことか。


「よし、アンジュ。俺たちも行くぞ」

「えぇ!? 私もですか!? 今走ったばっかでスクワット出来る体力残ってませんけど」

「何を言っている。お前は俺に抱き抱えられる方だ」

「は?」

「愛する女を抱えてスクワットするのに、お前がいなくてどうする」

「はっ!?」


 アンジュは顔を真っ赤にして口を大きく開けた。


「騎士団は男所帯だからな。なにぶんリストバンドだけでは不安だ。俺のものだと見せつけておく」

「か、勝手な……」

「勝手にさせてもらう。俺のものだとわかればそうそう手は出せまい」

「ひゃっ!」


 ランカ先輩はアンジュを攫うように横抱きにした。

 小柄なアンジュはすっぽりと筋肉質な腕に納まった。


「殿下、では参りましょうか」

「あぁ、負けぬぞ」

「こっちこそ手加減はしませんよ」


 男たちは笑みを浮かべて言った。



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