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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
131/160

学園祭(騎士団の狼煙~勝利の美酒と燻製)

「トマ、もうカップが空よ。席を空けなさい」

「うーん、じゃあおかわり」

「もう4杯目じゃない」

「んー? 居心地がいいんだよねー」


 トマスティオは横目で私をちらりと見る。

 モモタナはすかさずその視線を遮るように身体を移動させる。


「迷惑だわ」

「姉様」

「なによ」

「俺はお客だよ。おかわり」


 トマスティオはテーブルに肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せてにこりと首をかしげた。


「貴方ねぇ」

「モモタナ様、お淹れいたします。少々お待ちください」


 ノアがカウンターから声を掛ける。


「ノア、結構よ」

「いえ、お客様ですから」


 ノアは社交スマイルで言った。


「次で終わりよ、いい?」

「えぇ~、お金は払うよ?」


 モモタナとトマスティオが話している隙に、ノアは私に耳打ちする。


「リシリア、この紅茶を出したら休憩に行っておいで」

「え? どうして?」

「ここは僕一人で回るから。多分トマスティオ殿下の目的はリシリアだよ」

「そう、かな」

「アンジュさんの燻製屋にも行きたいんでしょ」

「うん」


 ノアの眼鏡は何もかも見透かしているみたいだ。

 そしてさらさらと紙にメモを書く。


「これは殿下に渡す分」


 メモに目を落とすと、そこには

 ――リシリアは騎士団の燻製店にいます――

 と流麗な字で書かれていた。


「賢い」

「僕を誰だと思ってるの」

「ふふ、ノアだった」

「うん」


 ふわりとした笑顔のノア。

 これまで色々あったけど、結局助けられしまった。


「1番テーブルにお願いします」


 ノアはわざとアルバートに目配せをして言った。

 私はそっとキッチンを離れる。

 お茶を取りにきたアルバートに、ノアがこっそりメモを見せた。

 アルバートの口角が少し上がったのを確認し、私は後ろの扉から出た。







 私は真っ直ぐにアンジュのところへ向かった。


「騎士団の狼煙~勝利の美酒と燻製」

 すごいネーミングだ。


「あっ! リシリア様だぁ!」


 私の姿を見たアンジュが嬉しそうに駆け寄ってくる。

 服は騎士団の正装で、引き締まった身体にぴったりとした白のパンツが格好良い。


「えぇ!? 本当にいらっしゃった!」

「アンジュ、親友ってマジだったのか」

「俺、殿下のこともリシリア様のことも尊敬してます!」


 口々に声をかけられる。


「はい! どいてどいて! リシリア様、こちらへどうぞ!」


 屈強な男たちを押し退けてアンジュが私の前に飛び出した。

 アンジュの腰には金色に光る鞘が見えた。


「それ本物?」

「そうですよ。似合わないと思ってるでしょ?」

「そうじゃないけど、剣が似合う場所にいてほしくはないかしら」

「剣を交えずに済む国を、よろしくお願いしますね!」


 アンジュは太陽のように笑って言った。

 そしてそれに呼応するように、後ろで咆哮のような男たちの歓声が上がった。







「賑やかだな」


 私の背後で聞き慣れた声がする。


「うおー! 殿下のおでましだー!」


 男たちはさらに沸き立った。


「もう、殿下とリシリア様を立たせておくなんてダメでしょう! こっちへどうぞ!」


 アンジュは男たちを物ともせず私たちを一番奥の席に案内する。


「逞しいものだな」

「あは! ありがとうございます!」

「アンジュはどれくらい強い」

「騎士団専攻の中で、真ん中より少し下くらいですかね」

「そうか、ならばリシリアを守るためにもっと強くなれ」


 アルバートの声はいたく真面目なものだった。

 その声にアンジュの足はぴたりと止まり、みるみるうちに表情が変わる。


「殿下の御心のままに」


 アンジュは片腕をお腹の前にあてると、90度に身体を折って礼をした。


「リシリアの傍を任せてもいいと信用出来るくらいには鍛錬せよ」

「はい」

「だが王妃の護衛は責が重いぞ?」

「承知の上です」

「ならよい」


 アルバートはにっと笑うと椅子に腰掛けた。

 私も向かいに座り、じっとアルバートの目を見た。


「なんだ?」

「あまりアンジュを脅さないでください」

「なに、青田刈りをしていただけだ」


 アンジュが傍にいてくれるのは嬉しい。

 だけど私のために危険な目に合わせるのは嫌だ。


「アルバート、平和な国をつくりましょうね」

「もちろんだ」


 アルバートとともに、アンジュが傷つかない世界を作るのが私の責務だ。

 そう心に刻む。


「殿下! お酒と燻製をどうぞ!」


 まだ注文もとっていないのに次々とお酒と料理が運ばれてくる。


「ほら、アンジュどいてどいて!」

「えぇ〜! 私がご説明するんですよ〜!」

「リシリア様はお酒をお召しになられますか?」

「いいえ、まだお昼だし遠慮しておくわ」

「ではこちらのレモンウォーターをどうぞ!」


「ちょっとみんなー! 私のお客様なんだからー!」


 私たちのテーブルに人だかりが出来る。

 燻製の良いにおいと色とりどりのお酒が並ぶ。


「やはりリシリアはモテるな」


 アルバートが可笑しそうに言った。


「アルバートもでしょう」


 私たちは束の間の休息を楽しんだ。

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