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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
130/160

学園祭(トマスティオ殿下の来店)

「さっさとそこへ座れ。礼などいらん。お前は客なのだろう?」

「そのクッキー、一欠片でも残してみなさい。許さなくってよ」


 王族二人を給仕にしたのは失敗だったでしょうか。

 どこかツンデレカフェ的な様相を呈してきましたよ。


「殿下、とても素敵なお店ですね」

「うるさい。無駄口を叩く暇があるなら早く注文をしろ」


「うわ、このクッキー旨い!」

「その低俗な口でクッキーを貪っているかと思うと虫唾が走るわね」


 飲食店は客商売だというのに大丈夫でしょうか。






「あれはあれで人気があるみたいだよ」


 ノアはポットにお湯を注ぎながら涼しい顔で言った。


「見ていてハラハラするわ」

「誰も文句なんか言えないんだし、大丈夫だよ」

「それっていいの……?」


 私はクッキーを皿に2枚ずつ載せてカウンターに置く。


「あ、ここだ。リアル王女様に罵倒されるカフェ」

「心して行こうぜ」


「アルバート様に見下されるんですって!」

「何だかいけない世界を覗く気分だわ」


 廊下からそんな声が聞こえてくる。


「ほら、大丈夫でしょ?」

「コンセプトが大きく変わっているような」


 ノアが厳選した美味しいお茶と、それに合わせたクッキーのお店だったはずなのに。

 これでは最早コンセプトカフェですよ。


「給仕、変わった方がよくない?」

「リシリアを接客に出したりしたら、殿下が怒るよ」

「そうかなぁ」

「気付いてる? 男の視線がリシリアに向くたびに、殿下が壁になってるよ」

「えぇ!?」


 私は思わずアルバートの方を見た。

 広い背中しか見えないが、その視線の先に確かに男性客がいる。


「あれ絶対睨んでるよ」


 ノアは可笑しそうに言った。


「そんなことするかしら」

「昨日の今日だからね。ピリピリしてるんじゃない?」


 トマスティオ殿下のことを言っているのだろうか。


「心配ないのに」

「リシリア、それは男を甘く見過ぎ。僕だって、今このカウンターの下でリシリアと手を繋ごうと思えば出来るんだよ? リシリアがしゃがんだ隙に抱きしめることだって。それ以上もね」

「えっ」


 私は思いがけない言葉に固まった。

 捕食される動物ってこんな感じなんだろうか。


「まぁ僕はそんなことしないけど。今度こそ首が飛んじゃう」


 ノアは飄々とカウンターにカップを置いた。そして満面の笑みでフロアに声を掛ける。


「2番テーブルにお願いします」






「私って隙があるように見える?」

「リシリアは人がいいからね、つけこみやすいと思うよ。少なくとも僕は、それでリシリアとデートしたこともあるし」

「説得力がある」

「実行委員という名目とはいえ、去年はずっとギュリオと二人だったし。あんなの論外だよ。僕がギュリオなら間違いなく手を出してただろうね」


 返す言葉もない。

 ノアは淡々とオーダー通りの紅茶を淹れてはカウンターに並べていく。


「リシリア、手が止まってる」


 そう言ったノアは、私の手にそっと手の平を重ねた。


「っ!」

「しっかりしてるつもりなんだろうけど、そうやってボーっとしてるところも危ないし、殿下は心配が絶えないだろうね」


 ノアの手はそのままクッキーへと伸びて、せっせと皿に載せていく。


「ご、ごめん」

「まぁそういうところが可愛いんだから仕方ないか」


 ノアは少しはにかんで、すっと右手を挙げた。


「3番テーブルにお願いします」






 私もしっかりしなくちゃ。

 そう思った矢先、女の子たちの黄色い声で廊下がうるさくなった。


 何だろうと入り口に目をやると、トマスティオ殿下の顔が覗いた。


「姉様、来たよ!」


 にっこりと笑う姿は無垢な天使そのものだ。

 その天使の前に、大きな背中が立ちふさがる。


「あいにく満席だ。お引き取り願おうか」


 アルバート、ご機嫌は直ったのではなかったのですか。


「えぇ? そうなの?」


 トマスティオは軽い身のこなしでアルバートの横を通り抜けると、一番奥のテーブルまで歩いて行った。


「席、変わってくれる? 喉乾いちゃった」

「は、はい!」

「ありがとう、お嬢さん方」


 トマスティオは目を細めて笑うと、先に座っていた女生徒二人の手の甲にキスをした。

 その動きは流れるようで、手慣れているのが容易にわかる。


「きゃー!!」


 女生徒は興奮してパタパタと教室を出て行った。


「トマ、注文は?」

「姉様の好きなの」

「アールグレイとクッキーのセットね」

「あとリシリアでしょ?」

「ふざけるのもいい加減になさい」

「あはは、こわいなぁ」


 トマスティオ殿下は視線をこちらに向けてひらひらと手を振った。


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