sideアンジュ ランカ先輩とデート3
「そうか、好きか」
「悪いですか!」
「そんなことは言っていない」
私はランカ先輩の胸をぐっと押し返した。
「2年になってから、いつも先輩のこと目で追っちゃうんです。誰よりも大きい馬に乗って、颯爽と駆け抜けて、大剣だって重いはずなのに軽々と振っちゃって、学内には敵なしって感じで。それでも自主練して、見るたびにもっともっと強くなって。そんなの好きになっちゃうでしょう!」
「気持ちは嬉しいが……アンジュはさっきから怒っているのか?」
「怒ってません!」
説得力のない言い方になってしまった!
「それに、ランカ先輩は私をきちんと扱ってくれるじゃないですか」
「というのは?」
「1年生の部活でもそうです。練習はいつもストイックで、女だからって理由で手加減なんてしてくれなくって」
「手加減せねばならぬなら初めから勧誘などしない」
「騎士団の合同演習でもそうです。貴族とか平民とか、男とか女とか、そんなこと関係なく一人の騎士として扱ってくれるじゃないですか」
「当然だろう」
「当然じゃないんです!」
リシリア様もそうだけど、平民だからって見下したりしない。
同じ目線になって、隣に立ってくれる。
それがどれだけ心強くて嬉しいことか、この人たちにはわからないんだろう。
「騎士団専攻の中にアンジュを不当に扱うものが?」
「いるわけないでしょう!」
「言っていることが滅茶苦茶だぞ」
「ランカ先輩が私に正面から接してくださるから、誰も私を不当に扱ったりしないんですよ!」
最高学年のランカ先輩。
上級騎士の中でも常に1番に君臨し、学内に敵なし。
そんな先輩の行動が模範となり、規範になる。
だから私は女だけど、小さいけど、弱いけど、毎日楽しく笑っていられる。
「もう一度聞くが、アンジュは俺が好きなんだな?」
「好きですよ」
「では求婚を受けてくれるか」
「……嫌です」
「嫌?」
ランカ先輩は眉をひそめた。
「私だって、ロマンティックな恋愛に憧れたりするんですよ!? 胸が熱くなって、甘くて、とろけるような恋に憧れるんです! 結婚となればもっとですよ!」
「何が言いたい」
「こ、こんな。強いから結婚するとか言われて」
「好きだと言ったろう」
「な、なんか違う!」
「何がだ」
「私は! もっとロマンティックなプロポーズを所望します!」
私は肩を上下させながら言った。
「ロマンティック……とはどういう」
「自分で考えてください!」
ランカ先輩は顎に手をやって考える素振りをした。
「わからん」
「えぇ!? そこ諦めます!?」
もうやだ、何これ。
「ならばこうしよう。アンジュ、お前が卒業する日、俺はお前を迎えに来る」
「卒業式の日?」
「その時に所望されたプロポーズをするとしよう」
「!!」
心臓がドクンと強く打つ。
「ただし、この俺にそんなことをさせるんだ。ただとはいかないぞ」
「なんですか」
「俺にプロポーズされるに相応しい女になれ。中級に上がったのは良いことだが、ここで歩みを止めるなよ?」
「望むところです。卒業する頃には、騎士団の上級になって、良い成績修めて、就職先だっていいとこ決めてやりますよ!」
「それでこそ手に入れ甲斐があるというものだ」
ランカ先輩は満足そうに笑った。
「そうだ、これをつけておけ」
そう言ってランカ先輩が取り出したのは、黒地に緑の刺繍の入ったリストバンドだった。
「何ですか?」
「これは当家の紋章だ。俺が卒業した後に、変な虫がついても困るからな」
私はリストバンドを受け取ると左の手首にはめた。
指輪じゃないけど、それでもランカ先輩のものになったみたいで気恥ずかしくて、嬉しい。
「似合いますか?」
「あぁ、似合うぞ」
「この紋章に恥じないように頑張ります」
「そういうところが好きだぞ」
ランカ先輩の大きい手が私の腕を掴む。
そしてまた抱き寄せられた。
「~~! なんで突然そんなこと言うんですか〜!」
天然なのか!?
この人、天然なのか!?
「言ったらダメなのか」
「ダメじゃないですけど、こっちのドキドキも考えてください」
「まわりくどいのは苦手だ」
「わかりますけど……」
「ならば聞くが、キスをしてもいいか?」
「そんなこと聞かないでください!」
「なんだ、聞くのもダメなのか」
「それにさっきしたじゃないですか。勝手に」
私は非難を含ませた声で言った。
「次は唇だ」
「っ!」
ランカ先輩はそう言って私の顎を持ち上げると、その長身を屈めて口付けた。
いつものランカ先輩からは想像もつかない、優しく触れるようなキスだった。