sideアンジュ ランカ先輩とデート2
私は岩の上に仁王立ちの格好でランカ先輩に向かい合った。
好きな人と二人っきりだというのにロマンティックの欠片もない。
「ランカ先輩って、リシリア様のこと好きじゃありませんでした?」
「あぁ」
あぁって!
「あぁって何!」
「随分昔の話をするなと思っただけだ。聞きたいか?」
「い、一応。参考までに」
見つめ合うと言うより睨みつける状態になってしまった。
「あれは一目惚れというやつだな」
「リシリア様、きれいですもんね。それに比べて私なんて子どもっぽいし――」
「何を勘違いしている。俺が興味を持ったのはあの体幹と筋肉だ」
「それ本気です?」
いや、そういう人ではあるけれど!
「鍛えている筋肉かどうかなど一目でわかる。入学式の日に見たあの背筋の後ろ姿は素晴らしかったな。しかもそれが公爵令嬢だぞ? 信じられないものを見た気がした」
その頃の私はいつも猫背で、よくリシリア様に注意されていたっけ。
当時の私ならランカ先輩の目にも止まらなかったんだろうな。
「今は?」
「今はお前の方が上だろう」
まぁ確かに。
授業では男子と同じメニューをこなしていますからね。
「リシリア様には力こぶありませんもんね」
私は右腕に力こぶを作って見せる。
「いい身体だ」
「っ! どういうことですか!」
「褒めている」
ランカ先輩は大真面目な顔で言った。
「それに俺はリシリア殿に振られているぞ」
「そうなんですか!?」
「求婚したのがちょうど1年前だったか。そのあとちゃんと振られたよ」
「し、知らなかった……」
私が頭の中を整理していると、ランカ先輩が私を抱き抱えてトンと岩の上から下りた。
「ランカ先輩!?」
「岩の上は危ないだろう」
「お、下ろしてください」
「こうして抱くと案外小さいんだな」
「わ、悪かったですね!」
「悪いとは言ってない」
「じゃあ良いですか!?」
あぁ~!
なんで喧嘩越しになってしまうの、私!
「あぁ、良いな」
「へ?」
ランカ先輩の顔が間近に迫る。
「普段は馬に乗って、剣を振り回して、強く大きく見えるものだが。こうして腕の中に入れると女のようだな」
「女ですよ!」
「可愛いという意味だ」
そう言うとランカ先輩のは私の額にキスをした。
「な、な、な!!!」
「他に聞きたいことは?」
真っ黒な目を見ていると吸い込まれてしまいそうだ。
私は目を伏せて聞いた。
「ランカ先輩、私のこと好きなんですか?」
「そうだな」
「~~!! なんでそうしれっと言っちゃうんですか~!!」
ランカ先輩の胸をポカポカ叩く。
しかしその厚い胸板は微動だにしない。
「俺からも質問していいか?」
「下ろしてくれたらいいですよ」
むすっとして言うと、ようやく足が地面についた。
「アンジュは俺をどう思う」
「!!」
好きだと答えれば両想いなのに、なんだか言いたくない!
私だってリシリア様と王子殿下みたいな、甘くてロマンティックな恋愛がしたいのに!
「答えないのか?」
「言ったら負けみたいな感じするんで」
私はそっぽを向いた。
リシリア様も素直じゃないと思うけど、私も大概素直じゃない。
「だったら俺の見解を話すが」
「ひゃっ!」
次の瞬間私はランカ先輩の胸の中にいた。
大きな腕に捉えられ、身動き一つ出来ない。
「筋肉の緊張、心拍数の増加、体温の上昇。アンジュ、俺を好きだろ?」
「うぁ」
声にならない声を出してしまう。
見上げたランカ先輩の顔は自信に溢れていた。
「顔面の紅潮に、瞳孔も開いているな」
「そ、そういうこと! 言わなくていいから!」
「アンジュが返事をしないからだろう。身体的要素から推察するしかない」
「す、好き! 好きですよ!」
あぁ!
こんな風に言うつもりじゃなかったのに!