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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
122/160

クッキーと爆弾発言

 キャラメルとアーモンドがカリカリに焼けたフロランタン。

 ほろ苦いココアのクッキー。

 さくっとほどけるラングドシャ。

 目にも美味しいステンドグラスクッキー。


 私は学園祭用の試作品をいくつか作り、袋に小分けにする。


「シーラ、これをノアの部屋へ届けてくれる? ノアとクロードの分が入ってるから」


 ノアが学園祭用に選んだ紅茶は2種類。

 渋みのあるセイロンと、優美な香りのアールグレイ。

 定番で万人受けするものをチョイスしたそうだが、その中でも産地や収穫時期によって微妙な味の違いがあるらしい。


 今日は茶葉の最終決定と、合わせるクッキーの組み合わせを考えることになっている。

 私は作るだけ作って、あとはノアとクロードに丸投げですが。


「承知いたしました。殿下にはよろしいのですか?」

「アルバートには私が持って行くわ」

「無粋な質問でございました」

「ふふ、いいのよ」


 私はアルバートのクッキーに、アルバートの髪色と同じ金色のリボンをかける。

 手作りクッキーなんて少し照れくさいけれど、でもやっぱり好きな人に食べてほしい。


「他にお遣いはございませんか?」


 私が他にもラッピングしているのを見て、シーラが声を掛けてくれる。


「このピンクのリボンはモモタナ様に。それから、この青いリボンはシーラに」

「私に、でございますか?」

「えぇ、いつもお世話になっているのに何もお返し出来ていなかったから」


 シーラの頬にわずかに紅がさした。

 そして深々とお辞儀をすると「ありがたく頂戴いたします」と言った。


「ではよろしくね。アルバートの部屋に行った後、アンジュにも会ってくるから」

「はい。いってらっしゃいませ」


 私は金のリボンのかかったクッキーの袋と、アンジュ用のグリーンのリボンのかかった袋をバスケットに入れる。それからよく冷やしたレモンティー。







「リシリアです」


 私がアルバートの部屋の前で声を掛けるとすぐに扉が開いた。


「リシリア、待っていたぞ」

「ふふ、殿下が直々に出迎えてくださるなんて」


 思わず笑ってしまう。

 普通なら前室での対応は執事の役目なのに。


「甘い香りが廊下中にしていたからな。待ちくたびれた」

「恐縮です」

「さぁ入れ。一緒に茶にしよう」

「アンジュのところにも行きたいので、あまり長居は出来ませんが」




 アルバートはまだ温かいクッキーを嬉しそうに口に放り込む。


「旨いな。感動した」


 金髪の王子は目頭を押さえてしみじみと言った。


「大袈裟ですよ」

「こんなに旨いもの、食べたことがない」

「褒めすぎです」

「これを私以外の者が口にするなど許せん」


 きっと今頃ノアとクロードも食べてますよ。


「そんなに喜んでいただけるのでしたら、またお作りします」

「本当か?」

「はい。今度はアルバートだけのために」

「リシリア……」


 アルバートは私の髪に手を伸ばす。


「こほん」


 その後ろで咳払いをしたのは丸眼鏡の執事だった。

 無言の笑顔には言いようもない圧がある。


「何だ」

「いえ」


 そうですよ、今は二人きりではありませんからね!?


「私、そろそろアンジュのところへ行ってきますね」

「もう行くのか」

「はい。日暮れまでに戻りたいので」


 クッキーを焼くのに随分時間がかかりましたからね。

 私は席を立つと、名残惜しそうなアルバートに一礼して部屋を出た。







「アンジュ!」

「リシリア様! こんなところまでどうしました?」


 アンジュはテテテと駆け寄ってきた。

 馬に乗ると颯爽としているのに、こういう動作は小動物みたいで相変わらず可愛い。


「クッキーを焼いたから持って来たの。忙しい?」

「今ちょうど終わったところです」


 騎士団専攻は屋外に巨大な何かを建設していた。

 去年のピザ窯といい、屋外で何かするのが定番なのでしょうか。






「今年は何をするの?」

「燻製です」


 私たちは少し歩いた先の東屋に落ち着いた。

 白い柱で囲まれ、頭上には六角形の屋根。

 周囲は蔓薔薇で飾られ、優美な香りが漂っている。


「へぇ、面白そうね」

「そうですか? 携行食を美味しく食べるための手段の一つって感じですけど」


 そんな身も蓋もない。


「食べに行くわね。あ、クッキーと、アイスティーも用意してあるの。食べて」


 私はバスケットからクッキーの袋と水筒を取り出した。


「わぁ! このクッキーすごく美味しいです! 宣伝しときますね!」

「ふふ、ありがとう」


 アンジュは美味しそうにクッキーを頬張った。

 こういう顔は本当に女の子らしい。


「そういえばアンジュ、前に好い人がいるっていってたけど」

「げほげほげほ! な、なんですか急に!」

「どうなったのかなって思って」

「あ~~。えっと」

「?」


 アンジュは顔を赤くして下を向いた。


「二人で、出掛けないかと誘われました」

「まぁ、デート」


 アンジュがデートだなんて感慨深いですね。


「い、いえ。デートっていうほどのものじゃないんですけど」


 ふるふると首を振ると、真っ黒なロングヘアーがさらさら揺れた。


「いつ?」

「明日……」


 何てタイムリー何でしょう。


「どこへ行くの?」

「森の中を、馬で散策しようと」

「馬……」

「ほ、ほら。去年のはあんまり上手く乗りこなせなかったんですけどね!? 今年も夏期講習で乗馬を選択して、森みたいな障害物が多いところでも乗れるようになって……」


 そう言えば去年の夏は乗馬三昧でしたね。


「お相手は聞いてもいいのかしら」

「え、ええっと」


 アンジュは頭から湯気を出しながら真っ赤な顔をしていた。




 すると少し離れたところから声がした。


「アンジュ!」


 野太い男の声だった。

 その声を聞いたアンジュの反応から察するに、声の主が想い人なのだろう。


「お、おつかれさまです!」


 アンジュは立ち上がって敬礼をする。


「ここにいると聞いてな。明日の遠乗りだが、馬屋に9時でいいか」

「は、はい!」

「ではまた明日。あぁ、リシリア……リシリア殿もいたか」

「ごきげんよう、ランカ先輩」


 私はにっこりと挨拶する。

 この人、また随分と日焼けしましたね。


「ちょうど良かった。リシリア殿にも話しておきたかった」


 呼び方が改まっているのは私が王妃教育を受けているからでしょうか。

 ランカ先輩はあと半年もすれば騎士様になるのですものね。


「何でしょう」

「卒業を待つことにはなるが、アンジュを娶ろうと考えている」

「まぁ、そうでしたか」


 アンジュの顔を見る。

 アンジュは何も知らなかったというような顔で、石のように固まっていた。


「あぁ、ではまた」

「はい。ごきげんよう」


 ランカ先輩は爆弾発言を残して去って行った。


次回、アンジュとランカ先輩のデート編です。

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