学園祭の出し物は?
「というわけで、2年生は専攻ごとに飲食店を出店せねばならないのですが――」
2学期が始まり今年も学園祭の季節が近づいてきた。
放課後、私は私室でモモタナに学園祭の概要を説明していた。
「たった二人で何をしろというのかしら。私、料理は出されたものを食べることしか出来なくってよ」
まぁそうですね。
王女様が包丁を握ったり火を使ったり、全く想像出来ませんから。
「少人数の専攻科は、他の科と合同での出店も可と書いてありますよ。どこか別のところに入れてもらいましょうか」
モモタナは戦力にならなさそうなので、出来るだけ大所帯がいいでしょう。
「あら、だったら決まったようなものじゃない」
「え?」
「来なさい」
モモタナは有無を言わさない表情で立ち上がった。
そして扉を出ると、迷いなく廊下を歩く。
「あの、そっちは」
「失礼するわよ」
えぇ?
ノックも無しに?
いえ、前室だから問題ないと言えばまぁ問題ないのですが。
「モモタナ様、何か御用でございますか」
「殿下を呼びなさい」
「ご用件をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」
「殿下に言えば十分でしょう。それともこの部屋の執事には、私に二度手間を掛けさせる権限がおあり?」
血の気が引いていく。
「モ、モモタナ様、出直しましょう」
私はモモタナの腕を掴む。
「あら、リシリアまで何? 早く決めねばならないのでしょう?」
「それはそうですが、順序というものが」
「それにモモタナ様じゃなくて、モモと呼びなさいと言ったでしょう」
「TPOというものがですね」
「TPO? そんなの周りが私に合わせれば良いだけでしょう?」
もう無茶苦茶ですよ、この人。
「何だ、騒がしいな」
奥の扉からアルバートが出てくる。
私は執事の手前、淑女の礼でアルバートに敬意を示す。
「モモタナ殿? それにリシリア。どうした」
「学園祭、私たちが合同チームを組んで差し上げてもよろしくってよ」
ぽかんとしたアルバートの顔。
ほんとすみません。止められなかった私が悪いのです。
でも隣国の王女など、どうやって止めればよかったのでしょうか。
「あの、この話はまた後日」
私はどうにか場を収めようと部屋を出ようとする。
「今ここで決めればいいでしょう。後日にすることに何の意味があるというの?」
効率が良ければそれでいいというものではないのですよ!
こういうのはアポ取りをして、手順を踏むのが常識なのです!
「あれ。モモタナ様と監督?」
アルバートが出てきた部屋から執政補佐官専攻のクロードが顔を出した。
ほら、お取込み中だったじゃないですか。
もう申し訳なさで、顔から火が出そうです。
「あ、あぁ。ちょうど学園祭の話をしていたところだ。クロードをうちの専攻の実行委員にしようかと話していた」
アルバートは私たちに応接セットに掛けるよう促した。
そして居室に「こっちで話すぞ」と声を掛けるとノアが出てきた。
執政組で学園祭の相談をしていたようですね。
「ではここからは、僭越ながらネイス侯爵家クロードが進行させていただきます」
「いらん芝居はいい」
アルバートがソファーに沈み込む。
「えぇ? 雰囲気出させてくださいよ~」
「ふふ、いつも通りでいいわよ」
「監督まで~」
去年の学園祭ではバックダンサーとして活躍していた。
お祭り好きな性格だから、わくわくしているのは手に取るようにわかる。
「じゃあ出し物ですけど、5人ですからね。簡単なもので、何か案はありますか?」
5人。
アルバートとモモタナは戦力外に等しいから、実質ノア、クロード、私の3人。
厳しいですね。
「とびっきり豪華なものがいいわね」
いえ、今クロードが「簡単なもの」と言いましたよ?
モモ様聞いてました?
「モモタナ様は何か得意料理などがおありですか?」
ノア、ナイスアシストです。
出鼻をくじいてやりましょう。
「ないわ」
モモタナは、さも当然と言う顔で言った。
きっぱりという言葉がこれほど似合う場面も早々ありませんよ。
「私は食べる専門よ。そうだわ、客に調理させなさい。そうすれば作らなくていいわ」
「なんだ。モモタナ様、料理出来ないんですね~」
クロード! 言葉を選びましょう!
ノアが顔を引きつらせているではありませんか!
「この私が、料理することに何の意味が?」
モモ様は通常営業ですね。
気にされていないのなら結構です。
「いやいや! せっかくの学園祭なんだから、皆で汗水かいて青春しましょうよ!」
クロードは若干空気が読めないところがありますが、モモ様と会話するにあたってはそれくらが丁度いいような気もしてきました。
「なぜそんな目に遭わなくていけないのかしら」
「それを乗り越えた先に青春があるんですよ! 思い出作りですよ!」
「思い出……?」
モモタナの眉がぴくりと動いたかと思うと、顔がくるりとこちらに向いた。
「モモ様、何か?」
私がそう言うと、モモタナは茹で蛸みたいに顔を赤くした。
「お、思い出ね! 作っても良くってよ!」
「作りましょう! とびっきりのやつ! 青春マシマシで!」
「いいことを言うじゃない、貴方名前は?」
初っ端に自己紹介していたクロードが不憫でなりません。
「クロードです!」
「クロード。何か素晴らしい思い出に残る企画を考えなさい」
「えぇっ!? 俺がですか!? 皆でやりましょうよ~」
結局ノアの提案した紅茶をメインに、お菓子は私がクッキーを焼くことに決まった。