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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
120/160

プロポーズ

 夏休みもあと残り数日。

 2学期に向けて気合を入れ直さないとと思っていると、アルバートが部屋に訪れた。


「リシリア、暇か」

「暇ではありませんが、いま一区切りついたところです。お食事にされますか?」


 私は解いてあった書類の紐を綴じ直していたところだった。


 外を見ると日暮れも近い。

 夕食には少々早い気もしますが、お腹が空いたのでしょうか。


「食事もいいが、デートでもするか」

「デート?」


 久しぶりの響きに思考回路が一旦停止する。


「都合は?」

「だ、大丈夫です!」


 う、嬉しい!

 思わず顔がにやけてしまう。


「あの、すぐに仕度を」

「時間が惜しい。すぐに出るぞ」

「は、はい!」




 寮の外へ出ると空は青紫色に染まっていた。

 私はアルバートに手を引かれながら、夏の終わりを告げる虫たちの声を聞く。

 足元の草を撫でる風も少し涼やかになっていた。


「あの、もしかして」

「あぁ、わかったか。ここだ」


 着いたのは礼拝堂だった。

 扉を開くと中は灯りが灯されていて、昼とはまた違う雰囲気があった。

 そして花筒には真っ赤なバラがぎっしりと生けられていた。


「立派な薔薇ですね。いい香り」


 私は扉に一番近い花筒の前にしゃがんで香りをかいだ。

 優美な芳香が胸を満たす。


「リシリア、手を」

「?」


 私は立ち上がるとそっと手を重ねた。

 アルバートはふっと笑うと静かに歩き出す。

 まるで結婚式のバージンロードみたいだ。


 私たちはプリズムティアラの前に来た。


「あれ、ガラスケースが」


 開いている。どうしてだろう。

 そう思ったのも束の間、アルバートはプリズムティアラを手に取った。

 礼拝堂に灯されたオレンジ色の光が、まるでティアラに集まっているみたいな錯覚を覚える。

 ただそこにあるだけで、圧倒的な存在感。


「リシリア」


 サクッ。

 不意にティアラが私の頭に載せられた。


「アルバート……?」


 とんでもないものを載せられて身動き一つ取れない。

 アルバートはそんな私の手を取って、優しい声で言った。


「私は生涯をかけてリシリアを愛すると誓う。リシリアはどうだ」

「殿下、私の気持ちはずっと貴方のもとにございます」


 炎の揺らめきの中、二人の声だけが響く。


「私の妃になってくれるか」

「はい」

「そうか」


 アルバートは今までで一番柔らかな顔で笑った。

 私たちは見つめ合い、どちらからともなく顔を近付ける。そして誓いを形にするように、静かに口付けをした。


 プリズムティアラを前に将来を誓い合った二人は永遠に幸せになる。

 その伝説をふと思い出す。


 何があっても今日の思い出があれば大丈夫。

 また泣いてしまうことがあったとしても、私たちは大丈夫。

 そう思えた。








 プリズムティアラを台座に戻した後、私たちは礼拝堂の椅子に並んで座った。


「母上が戻ったら、リシリアとの婚約を進言する」

「認められるでしょうか」


 少なくともモモタナが王妃教育を受けている間は、正式に国として発表するのは難しいのではないだろうか。


「認めさせる」


 アルバートは私の肩を抱いた。


「すぐには認められなくても、そのお気持ちだけで十分です」

「欲がないな」

「だって、こんなに素敵なプロポーズをしていただいて」


 胸が幸福感で満たされている。

 これ以上なんて、望む隙もないくらいに。


「私は早くリシリアが自分のものだと言いたいがな」

「ふふ、言わなくとも皆わかっているでしょう」


 婚約してなくとも、王妃教育を受けるとはそういうこと。

 2年生になってから、さっぱりモテなくなったのもいい例です。


「わかっているか?」


 アルバートは私の目を覗き込んだ。

 心臓がビクッと跳ねる。


「え?」

「お前はわかっているのか?」

「わ、わかっているも何も、私はアルバートをお慕いしていると――」

「お前の全てが私のものだと、そういう自覚はあるか?」

「っ!」


 その目が熱を帯びて私に語り掛ける。


「私は欲だらけだ。早くリシリアを私のものにしたい」


 顎を持ち上げられ、吐息がかかるほどの距離に顔が近付く。


「私の心はアルバートだけのものです」

「ではその身体は?」

「そ、それは」

「私も男だ。これでも我慢している」


 そう言われてカッと顔が熱くなる。


「そう可愛い顔をするな。理性を保つのも大変なんだぞ」

「あ、あの」


 その言葉の先が続かない。そんな風に思ってただなんて。

 見かねたアルバートは私をきつく抱きしめた。


「手を繋ぐと抱きしめたくなる。抱きしめると口付けたくなる。だがその先は?」


 恥ずかしさでおかしくなりそうだ。

 私は押しやられた冷静さの欠片を必死で手繰り寄せる。


「待っていただき、ありがとうございます」

「いつまでも待たんぞ」

「……」

「私に愛される覚悟をしておけ」

「お、お手柔らかに」

「するとでも?」


 くらくらしそうな甘い芳香の中、アルバートは私の髪に口付けた。

 そして私を名残惜しそうに解放すると、そっぽを向いて立ち上がった。


「そろそろ出るぞ」

「アルバート?」

「そう甘い声で呼ぶな。自制がきかん」

「はっ、はい」


 私たちが礼拝堂を出ると、空には月が昇っていた。

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