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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
119/160

アルバートの来訪

 夢うつつの中、優しい手が私の頭を撫でる。


 あぁそうか、今日はアンジュがいるんだった。

 嬉しいな。


 私は意識を少しずつ現実に引き戻す。


 そうだ。たくさん泣いて、話を聞いてもらって、寝かされたんだった。

 どのくらい眠っていたんだろう。

 そろそろ起きなきゃ。


「アンジュ……」


 思ったように声が出ない。

 寝る前に干し芋を食べていたせいかな。口がカラカラだ。


「起きたかリシリア」


 え?

 この声は。というか、手もとっても大きいですね!?


 淡いまどろみの中にいた私の意識は高速で引き戻される。


「アルバート!?」


 私は慌てて身を起こそうとしてバランスを崩す。それをアルバートが両腕で抱き留めた。


「どうした」

「あ、あの。アンジュは」

「帰した」

「い、いま何時です? 執務は――」

「もう夜だ。仕事も終わった」

「で、では食事とお風呂の準備を」

「もういい」

「え?」

「もういい」


 アルバートはもう一度言うと、ゆっくり体を離した。


「それは、もう私はお役御免ということですか?」

「なぜそうなる」

「私が至らないから。アルバートに迷惑を掛けたから」


 アンジュに止めてもらった涙がまた堰を切って溢れ出す。


「リシリア、きちんと話をしよう」


 あぁ、駄目だ。

 本当に嫌われてしまったんだ。

 きっと別れを告げられるのだ。


「申し訳ございません。こんなことになって」

「謝らなくても良い。別にノアのことを怒っているわけではない。ただゴーチェの手前、お前を謹慎にせねばならなかった」

「ゴーチェ先輩の?」

「あれは優秀だが堅物がすぎるからな。伯爵家だというのがコンプレックスなのか、とにかく勉強して実力をつけねばと躍起だ。ゴーチェの前ではきちんと示しをつけなくてはと思った」

「ですが私も軽率でした」

「そうだな。だがノアの部屋で何もなかったのだろう?」

「それは誓って」


 アルバートはそれを聞いて私の髪をくしゃっと撫でた。


「あれも筋は通す男だ。リシリアを諦め、私に忠誠を誓うと言ったからには約束は守るだろう」

「そう、ですね」

「第一いまだにリシリアを狙っているのなら、私はそんな男、側に置かん」


 そう言ってアルバートはふっと笑った。余裕だ。


「でも気を付けます。それにこれからは気安く話すのもやめます」

「なぜだ」

「なぜって……」

「恋敵ならともかく、幼馴染みと話すのに目くじらを立てるほど私は小さい男ではないぞ。それはゴーチェにも言っておいた。前室になかなか顔を出せなくて悪かったな。もっと早くに気付ければよかった」


 なんて優しいんだろう。

 私はアルバートの手を握った。


「アルバートは私のこと、好きですか? まだ側にいてもいいですか?」


 アルバートは私の手を握り返すと手の甲にそっと口付けた。


「当たり前だろう。他に誰がいる」

「っ!」


 射抜くようなその目にまた泣きそうになってしまう。


「ほら、そんな顔をするな」

「うぅ、ひっく」


 アルバートは優しく私の頭を抱いた。


「リシリアが不安になるなら何度でも言う。私はリシリアを愛している。一生お前だけだ」

「で、でも、執務が始まってから全然触れてくれないし、素っ気ないし」


 溢れ出した感情が止まらない。


「触れてほしかったのか?」


 アルバートは涙でぐしょぐしょの私の頬を撫でる。


「寂しかった、もっと話したかった、全然目も合わなくて」

「リシリア」


 ドサ。

 ベッドに押し倒され、アルバートは私の上にまたがった。


「悪かった。執務の書類の中に母上からのメモが入っていてな」

「ザラ様から?」


 アルバートは胸ポケットから紙切れを出した。





 ずっとリアちゃんが側にいて、執務に身が入るかしら?

 この程度のことが出来なくなるようでは、リアちゃんを迎えるなんて出来なくてよ。

 リアちゃんはアルバートのためによくやっている。

 あの子が欲しいならば、今度は貴方が力を見せなさい。





「使用人を全員引き上げさせるなんておかしいと思った。母上は私を試したんだ」

「そうだったのですか」

「売られた喧嘩は買わねばなるまい? だがリシリアに触れてしまえば自制がきかぬこともわかっている。目を見れば側に引き寄せたくなる。素っ気なくしたと思われたならそれは私のせいだ」


 アルバートは指先で私の首筋をなぞる。

 触れられたところに神経が集中したみたいに敏感になる。


「それに出来るだけ早く終わらせたかった。終わりさえすれば誰にも邪魔されずに二人で過ごせるだろう? だから仕事を詰めた。おかげで今日で終わりだ」


 薔薇色の唇が私の鎖骨に落ちる。


「んんっ」

「本当ならば、リシリアを労うのも話を聞くのも、私の役目なのにな。未熟ですまない」


 喋りながら這う唇はくすぐったくて心地良くて、頭がとろけそうになる。


「あ、あのっ」

「ん?」

「ち、近い……です」

「触れるには近づかなくてはいけないだろう」


 意地悪な顔が私の顔を覗き込む。


「この体勢は、だ、だめです」

「自制がきかぬと言っただろう」

「んっ、自制してくださいっ。学校です、よ」

「面白いな」

「え?」

「顔にはもっとしてほしいと書いてあるのに、言葉では真逆のことを言っている」

「なっ!」


 私の口が開いたのを見逃さず、アルバートは舌をねじこんだ。


「んんっ!」

「受け入れろ」

「やっ、ふっ」

「私も我慢していたんだ」

「し、知らなっ、いっ」

「キスひとつで乱れて、リシリアは本当に可愛いな」

「本当にっ! これ以上は、壊れてしまいますっ」

「それは困るな」


 アルバートは私の横にごろんと寝転んだ。


「あ、あの」

「今夜はここで眠ってもいいだろう?」

「だ、だめです」

「いいと言うまで続きをするぞ?」

「……眠るだけですよ? 今日だけですよ?」

「あぁ、わかった」


 アルバートは愛おしそうに私の髪を撫でた。


 余程疲れていたのか、アルバートは程なくして眠った。

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