テスト最終日!
窓から真っ青な夏空を見上げて、試験が終わった解放感を噛みしめる。
「リシリア、貴女の発表素晴らしかったわ」
「モモ様こそ、スケールが大きくて面喰いました」
私たちは絨毯の敷き詰められた廊下を軽い足取りで歩いた。
「そう言えば、モモ様は夏期講習どうなさるのですか?」
「実家に帰るわよ」
ん?
しれっと「帰る」とおっしゃいましたか?
「ですが、卒業までは学園から出られぬ決まりだと――」
「でも帰るわ」
「学園側は何と?」
「あら、エーコットの王女を帰国させなかったら国際問題でしょう?」
モモタナは意地悪気に笑った。
まさか、脅したのでしょうか?
「いつお戻りに?」
「夏休みの最終日の夜」
「では夏休み中はずっといらっしゃらないのですね」
「えぇ。あちらでやることもあるし、私こう見えても忙しいのよ」
別に暇人だと思っているわけではありませんが。
「ではお見送りには行かせてくださいね」
「ありがとう。馬車を待たせているからすぐに出るけれど」
「今日お発ちに!?」
「えぇ。時間を無駄にするのは愚か者のすることよ」
フットワーク軽いですね。意外ですよ。
ちょうど校舎を出たところに、確かにエーコットの紋様が描かれた馬車が停まっていた。
「ではここで失礼いたします。道中お気を付けて」
「リシリアも元気で」
1か月だけだというのに、何だか別れの挨拶のようです。
「お待ちしておりますね」
「帰ってこない方が都合がいいのではなくて?」
「それはそれです」
「言うわね」
私はモモタナと握手を交わした。
モモタナが使用人と共に馬車に乗り込むと、あっという間に馬車は出発してしまった。
「シーラ、戻りました」
「おかえりなさいませ」
「あら、どうしたの?」
修学旅行に持って行った大きな皮のトランクが2つ、扉の横あたりに積んであった。
「後ほどご説明いたします。先にお召し替えとお食事を」
「そう?」
私は制服からドレスに着替える。
いつもの部屋用と違ってきちんとしたドレスだ。
「誰かと会うの?」
「はい。お食事に呼ばれております」
アルバートだろうか。
何だかシーラが忙しそうなので、口を挟むのも悪い気がした。
髪もアップに結われ、お化粧もシンプルなものからきちんとしたものへ。
何だか仰々しいですが、アルバートとデートならば納得です。
しばらくするとノックの音がした。
「アルバート!」
試験のせいか顔は少しやつれているような気もするが、それさえもセクシーでかっこよく見えるのだから恋とは恐ろしい。
「リシリア、久しいな」
「はい、とても」
久々に見る恋人の顔。
遠恋マジックとまでは言いませんが、十倍増しくらい輝いて見えて、眩しくて直視出来ません。
「また無理をしていないか?」
「アルバートのためなら無理をするのも幸せです」
「また可愛いことを言う」
アルバートは柔らかな表情で私の頬を撫でる。
久々のアルバートの体温に思わず目を細めてしまう。
「殿下、リシリア様。ご移動を」
控えめな声でシーラが言った。
そうですね、こんなところでいちゃつかなくてもいいですよね。
「あぁ、わかった」
「どちらに行かれるのですか?」
「星空ダイニングだ。まぁ、星は見えんがな」
「でも泉が見えますから、きっと涼しげでしょうね」
そして何より初デートの場所だ。
心が浮足立って、そわそわしてしまう。
「リシリア」
アルバートが腕を差し出す。
「はい」
私は手を絡める。
ただのエスコートなのにとてもドキドキします。
星空ダイニングは貸し切りになっているようで、テーブルはどこも空だった。
私たちはその最奥、スイート個室に通される。
個室で食事するのなら、わざわざ店ごと貸し切りにしなくてもいいのに。
そう思って個室の扉をくぐったが、すぐに私の考えは撤回することになる。
「お疲れ様。アルバート、リアちゃん」
「ザ、ザラ様!?」
「母上、お久しゅうございます」
窓にもたれるようにして立っていたのは国王妃殿下だった。