セレナの考察
セレナは土の入った瓶のコルクを抜くと、中身をさらさらと手に取った。
「随分痩せてる、というか、これ土?」
「一応そう聞いてるんだけど、この土じゃ作物がなかなか育たないみたいで」
「それはそうでしょう。リシリア、手を出して」
セレナは真っ白なハンカチを取り出すと私の両手に乗せた。
そしてあろうことか、その上に瓶の半分程の土をドサっと乗せた。
私は慌てて両手をお椀型にして、土がこぼれないようにする。
「セレナ、何を――」
「そこの貴女、水を持ってきてくださる?」
「かしこまりました」
シーラは水差しに水を注ぐとセレナに渡した。
「このくらいでよろしいでしょうか」
「十分よ、見てなさい」
セレナは水差しを傾けるとちょろちょろと水を回し掛けた。
それほど多い量ではないのに、私の両手にはぽたぽたと水が滴ってきた。
「これだけ水はけがいいと、作物を育てるのは厳しいわね」
水はけ……。
なるほどですが、この真っ白なハンカチと私の手を泥だらけにする必要はあったのでしょうか。
「何かないかしら? この土でも作れるようなもの」
「さぁ。少なくとも実習用の畑ではこんな土見ないわ。これどこの土なの?」
気になりますよね。でも言えないのです。
「知人に頼まれただけで、私も詳しくはわからないの。だからセレナも黙っておいてくれる?」
「ふーん? まぁ、わかったわ」
セレナは何か勘付いたようだがそれ以上言及はしなかった。
私はセレナにお礼のお茶とお菓子を振る舞った。
黙ってティーカップを持ち上げるセレナはどこからどう見ても愛らしいお人形だ。
「そう言えば、婚約者の方とはやり取りをしてるの?」
「えぇ。婚約が決まったあと、一度本人から手紙が来たわね」
「一度だけ?」
そんなものだろうか。
私は幼少期から毎月1度はアルバートに手紙を書いていた。
婚約者ではないにも関わらず。
「手紙に写真が添えられていたのだけれど」
み、見たい!
「ど、どんな方だったの?」
「豚」
「え?」
すごい暴言が聞こえた気が。
「豚とまではいかないけれど、随分ふくよかだったわ」
「領地で取れるお野菜も美味しいと言っていたし、食にこだわりがある方なのかしら」
「さぁどうかしら。でもこのままでは私の隣に立つのは相応しくなくてよ、とお返事しておいたわ」
こ、こわい。
「初めて婚約者からきた手紙が罵倒の言葉だなんて不憫すぎる」
「いいのよ、最近は節制しているらしいし。私が彼の領地に行くまでに1年半もあるのだもの、どうにかなるでしょ」
「そういうものかしら」
私たちは取り留めもない話をした。
1時間ほどしてセレナは部屋に帰って行った。
「シーラ、図書館に行ってきます」
「ご昼食はどうなさいますか?」
「いまお菓子をいただいたところだし、いいわ」
「ではご夕食をお早めにご準備させていただきます」
「ありがとう。行ってきます」
調べるのは水はけの良い土でも育つ作物。
現世の記憶に少しばかり心当たりがあった。