期末考査の内容は
あっという間の修学旅行を終えて学園に戻ると期末考査が待っていた。
あの海での出来事は全部夢だったんじゃないかと思うほど、一気に現実に引き戻される。
夢じゃなかったと思えたのは、モモタナが気安げに話し掛けてきたからだ。
「いよいよ期末考査ね。私、テストなんて初めて受けるわ」
廊下を歩きながら話すグレーの瞳は不安げに揺れていた。
「去年はいらっしゃいませんでしたものね」
「胃が痛くて仕方ないわ」
モモタナは華奢なお腹周りを細い腕で押さえた。
「ふふ、私も緊張していますよ」
「リシリアも?」
「はい。『王妃教育』のテストは私も初めてですから」
講義室の扉を開けると先生は既に教壇にいた。
そして勉強机の上には竹で編んだ四角い籠が置かれていた。
私たちは一瞬顔を見合わせて、それぞれの席に着く。
何だろうと思いながら黙って座っていると、始業の鐘が響いた。
「今日は考査内容について申し伝えます。籠を開けてください」
私は黙ってそっと蓋を開ける。
「リストにあるものが揃っているか、内容を確認してください」
リストを上から順に確認する。
土、萎れた小さな野菜が数点、地図、気象情報、3年分の収穫高を記録した冊子――。
何だろう、これはどこかの領地の資料なのだろうか。
でもこの地図も記録も、今まで見たことがない。
「不足はありませんね? では説明します」
私は一旦両手を膝に置き、目線を先生に向ける。
「籠に入っているものは、我が国に実在するある領地のものです。これまでは手付かずだった土地を、五年前に領地として開墾され始めました。まだ公には知らされていません」
なるほど。公的な資料がないのなら見覚えのないはずだ。
「試験的にいくつか作物を育てたのですが、ご覧のように十分に育たず枯れてしまいます」
小麦、稲、人参。
と判別するのも大変なくらい、未成熟な状態で枯れていた。
「さて、この土地を生かすにはどうすればいいか。それが今回の課題です。考査期間は2週間、各自結論を出してください。結論に至るまでの考えや試行は全てレポートにしてください」
うーん、なかなか骨が折れそうです。
「なお、禁止事項を申し上げます。互いに相談することや進捗の確認をすることは禁止します。また、この領地が存在することを誰かに知られることのありませんよう」
なかなかの難題ですね。
「ではこれより取り掛かってください。考査期間中の午前中は私はここで待機しています。質問があればいつでもいらしてください」
モモタナ様は緊張の面持ちで籠を抱えると、教室を出て行った。
一人残された私は口を開いた。
「質問よろしいでしょうか」
「結構ですよ」
「互いに、というのは、私とモモタナ様が相談することはいけないということですね?」
「はい」
「ではそれ以外は禁止ではないのですね?」
先生の眉が一瞬ぴくりと動いた。
「えぇ、私の言い方ではそういうことになりますね。ですが第三者に相談し、この領地の存在が公になることは違反です」
「ではこの領地の存在を知られぬよう配慮した上で相談することは構いませんか」
屁理屈と言われればその通りだが。
「結構ですよ」
「承知いたしました」
私も籠を抱えて教室を出る。
まずは荷物を部屋に置いて、シーラにアポを取ってもらおう。
「おかえりなさいませ。お早いお戻りでしたね」
「ただいま。セレナと話したいのだけれど、約束を取り付けてくれるかしら」
「承知いたしました」
「場所と時間はセレナに任せるわ。よろしくね」
セレナだって考査期間だ。
受けてくれるといいのだけれど。
翌日は土砂降りの雨だった。
窓に雨が叩きつけられ、尋常じゃない風も吹いていた。
時期的に台風なのかもしれない。
私が農作物の本をめくっていると、ノックの音がした。
シーラが頭を下げて迎え入れる。
私も読みかけの本を置いて立ち上がった。
「待ってたわ」
「リシリア、随分ね。この忙しい時に私を呼びつけるだなんて」
セレナは長いふわふわの髪を手でふぁさっとかき上げた。
「ごめんなさい。でもセレナしか思い浮かばなくて」
「いいわ。今日は大雨で実技試験が延期になったの。退屈していたところよ」
私は瓶詰めされた土を棚から取った。
「土?」
「えぇ、見てくれる?」