アンジュの動向
モモタナ様とのアフタヌーンティーまでに少し時間があったので、庶民棟の皆が宿泊しているというロッジのあたりを散歩していた。
「あ、リシリア様!」
ナナ……。今会うのはすごく複雑な気分ですよ。
「ごきげんよう」
「聞いてくださいよ~アンジュが昨日帰ってこなくて」
「えぇ!?」
「朝方戻ってきてそのまま寝ちゃったんですけど、誰かといたんですかね?」
ナナは顎に手を添えて、探偵みたいなポーズで唸った。
「アンジュはいまどこ?」
「少し前に起きて、お風呂行っちゃいました。もう出る頃だと思いますけど。あ、ほら」
ロッジから少し離れたところに大浴場があるようだ。
アンジュはほかほかと湯気を出しながら、血色の良い顔で出てきた。
私はナナに別れを告げるとアンジュのもとへ行った。
「アンジュ!」
「リシリア様、おはようございます。ってもう昼ですね」
ふにゃっと笑うアンジュ。
「昨日帰らなかったんですって?」
「そうなんですよ」
「一体誰と、何を――」
「リシリア様と別れたあと、騎士団メンバーで盛り上がっちゃって」
相手は騎士団の男ですか!?
「そのうちの一人が、『このまま野営訓練するぞ!』とか言い出して」
「野営……?」
「火を焚いて交代で眠ったんですけど、全然寝た気がしなくて。帰って二度寝したら、結局この時間です」
アンジュは照れくさそうに言った。
なんて平和そうに笑うのだろう。私は大きな溜息をついた。
「てっきりアンジュに好い人が出来たのかと」
「あはは!」
「びっくりしたわ」
「いますよ?」
「え?」
えぇ!?
「なーんて」
「どっち!?」
私は慌てて口を覆う。
大きな声を出してしまいました。
「気になる人はいます。リシリア様見てたら、恋っていいなって思って。でもちょっと無理めなんですよね」
「そうなの」
相手は貴族だろうか。
「まぁ今はとにかく訓練頑張るしかないかなって!」
「どちらも応援してるわ」
「はいっ!」
私は小さなアンジュの頭を撫でる。
トリートメントしてあげないと、髪が潮風と日焼けで傷んでいる。
いや、そんな心配はもうアンジュには不要なのかもしれない。
「リシリア様は今日もお美しいですね。何だか今日は、とっても色っぽいです」
「そう?」
「殿下と仲直り出来たんですね?」
「喧嘩をしていたわけではないんだけど、そうね」
アンジュは丸い大きな瞳を真っ直ぐ私に向けて聞いた。
「リシリア様、いま幸せですか?」
私はアルバートの顔を思い浮かべる。
「うん、幸せ」
恥ずかしげもなく言い切った。
「でしたら私も幸せです」
アンジュは満面の笑みで私の両手を握った。