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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
105/160

お泊り会

 寝所として通された部屋はそれほど大きくなく、一言で言えば「落ち着く」広さだった。

 大きなベッドが置かれ、脇にはローテーブルとソファー。

 ローテーブルには焼き菓子やカットフルーツが置かれ、氷の入った銀のワインクーラーには赤と白、それぞれのボトルがささっていた。


「ア、アルバート。ここは私の寝所と聞いたのですが」

「私たちの寝所だ」


 シーラ!

 あなたは一体誰の味方なのですか!


 こんなの聞いていませんよ!


「えぇっと、これはどういう……」

「遅くなったがお泊り会を始めようか」


 ソファーに座っているアルバートは嬉しそうに手招きをした。


「お、お泊り会!?」

「そういう趣旨だとシーラに聞いていたが?」


 アルバートはにやりと笑うとソファーから立ち上がった。

 私は思わず後ずさりをするが、背後にある鍵のかかった扉にぶつかるだけだった。


「あ……あぁ……」

「ほら、早く来い」


 私はひょいと抱き上げられるとソファーに運ばれた。


 二人掛けのソファーに、肩と肩が触れ合う距離に座る。

 まずい、ドキドキする。アルバートから石鹸の匂いがする。


「昼にナナとラッタが言っていたな」

「な、何でしたっけ」

「お泊り会とは菓子を食べるのだそうだ」

「お菓子! そ、そうですね、食べましょうか!」

「ほら」


 アルバートはメレンゲを焼いたお菓子を一つつまみ、私の唇にかすかに触れさせた。

 甘い匂いがする。


「食べて良いぞ」


 覗き込むような目に、私は口を開ける。

 メレンゲ菓子は口に放り込まれ、口の中でじゅわっと溶けた。


「美味しい、です」

「どれ、私も」


 アルバートは頭を傾けて唇を寄せる。


「き! キスは禁止ですよ!」

「まだそんなことを言っているのか」


 それほど広くない部屋に二人きり。

 しかも視界には大きなベッドが否応なく目に入る。

 これはまずいです。心臓がバクバク鳴っています。


「た、たくさんあるではないですか」


 私はお皿を指さす。


「ならば次はリシリアが食べさせてくれ」

「!?」


 アルバートは足を組んで余裕の笑みを浮かべていた。


 私は仕方なく同じメレンゲ菓子を指でつまむ。


「ど、どうぞ」


 私は恥ずかしさのあまり、目を背けながら菓子を差し出した。


 ぺろっ。

 指先に生暖かい柔らかい感触。


「ひゃあ!」

「甘いな」


 た、食べられた! 指ごと!


「も、もう休みましょう」

「何を言っている。お泊り会とは夜更かしするものだぞ?」


 あぁ、確かにナナがそう言ってましたね。

 シーラが寝坊してもいいと言ったのはこういうことですか。


 そんなことをぐるぐる頭で考えていると、アルバートの手が伸びてきた。

 ぎゅっと抱きしめられる。


「何だ、心臓の音が速いぞ」

「だ、だって。こんなことになるなんて」

「思ってなかったか?」

「思ってません。それにアルバートは今夜、モモタナ様と一緒にいらしたではありませんか」


 私がそう言うと、アルバートは私の目をじっと見た。


「そのことだが、モモタナ殿は妃になるつもりなど欠片もないそうだぞ」

「えぇっ!?」

「王妃教育を受けているのは自分自身のためだそうだ。国に帰った時に、国民に恥じない王女でありたいと」

「そ、そんなこと突然聞かされても。信じられないというか」

「自国では甘やかされてきたのだとも言っていた。厳しい環境に身を置いて、自分を磨きたいそうだ」

「そうですか……」


 アルバートは私を抱く手にぎゅっと力を込めた。


「それに、帰りたくない理由が――。目指す手本が身近にいるそうだ」

「手本、ですか?」


 先生のことだろうか。


「私の知らんところで勝手にモテるんじゃない」


 んん?


「身に覚えがありませんが」

「リシリアは悪い女だな」


 アルバートは私の胸元にキスをした。


「んっ」

「唇でなければいいのだろう?」


 触れられたところが熱い。


「ダメ、です」

「そう恥じらわれると、逆にそそるぞ?」

「そんなつもりは!」

「まぁ夜は長い。お楽しみは後にとっておこう」

「い、意地悪な顔ですね……」


 私はふいっと顔を背けた。


「リシリア、ここからがお泊り会の醍醐味だぞ」

「何です」

「好きな人の話をするんだろう?」


 何を言い出すのですか!

 私の心臓を潰す気ですか!


「リシリア、お前の好いている男の名前は?」


 !!


 あぁ、何なのでしょう。

 この王子、こんなにSっ気ありましたっけ!?


「ほら、言え」

「ア、アルバート」


 私は足をもじもじさせながら言った。


「ふむ。その男のどこが好きなのだ?」

「なっ」


 アルバートの方を振り返る。

 その目の奥には妖しい光が灯っていて、逃げられそうもない。


「絶対死ぬほど努力してるのに、しれっとした顔して完璧なところとか」

「とか?」


 ドクドク心臓が鳴って、口から飛び出してしまいそう。


「私のことをいつも見ていてくれて、私の気付かないところでフォローしてくれるところとか」

「とか?」


 恥ずかしい。顔が熱い。

 顔だけじゃない、身体中に熱い血液が巡ってのぼせているみたい。


「強引だけど、私の嫌がることは絶対にしない紳士的なところとか」

「そう言われると困るな」

「え?」

「私は今、リシリアに口付けたくて仕方がない」

「っ!」


 アルバートはすっと立ち上がると、壁際まで歩いて行った。


「アルバート?」

「リシリアに嫌われてはたまらんからな」


 アルバートが壁に手を伸ばす。

 パチン。

 

 電気が落ちた。

 部屋が真っ暗になる。


「えっ、何ですか!?」


 真っ暗な中、足音だけが近づく。


「それは夜光貝だな」


 私ははっと胸元見た。

 ぼんやりとした青白い光が、暗闇の中で唯一光っていた。


 周囲が見えない中、アルバートはこの光だけを頼りに私に近付く。


「で、電気を」


 そう言った瞬間、私の肩にぴとっと大きな手が触れた。


「ア、アルバート!」

「この暗がりで、なぜ私だと思う?」

「貴方しかいないでしょう!」


 大きな手はするすると私の首筋を撫で、頬に到達する。


「口を開けろ、リシリア」

「な、何を」

「菓子をやろう」


 アルバートの指が私の口をこじ開ける。


「やっ」


 そう声を出したのも束の間、柔らかな感触が唇を覆う。


 ちゅっ。

 ちゅく。


 湿った音が聞こえる。


「んんっ!」


 私は思わず身をよじる。


「甘いか?」


 蕩けるようなキスに頭がくらくらする。


「だめって言ったのに」

「さぁ、何の話かな」

「もう、だめです」


 甘美なキスに、力が入らなくなる。


「そんなに甘い声を出しておいて」

「い、言わないで」

「きっと顔も蕩けているんだろうな」

「そんなこと――」

「リシリア、おかわりは?」


 おかわり?


「あ、あの」


 したい。

 もう理性なんて溶けて混じってどこにいったかわからなくなった。


「何が欲しい? 菓子か?」


 耳元で囁くアルバートの息が熱い。


「アルバートが、欲しい」

「あぁ、承った」


 アルバートは低い声でそう言うと、私の唇を何度も求めた。

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