4人のお茶会
これは様々な思惑を持った、四人の乙女たちの物語である。
どうしよう。
リシリア様に誘われてしまったわ。
いえ、正確にはご友人のセレナという女にだけれど。
というか私服もなんて素敵なの。
この暑いのに汗ひとつかかず、あえてマキシ丈をチョイスするセンス。
リネン素材が涼し気で、夏の旅行にぴったりではないの!
モモタナはそんなことを考えながらじっとリシリアを見つめていた。
リシリア、セレナ、モモタナ。
そこへアンジュが加わって、海辺のテラスでお茶をしていた。
「エーコットは内陸の国で、海がないと記憶しておりますが。モモタナ様は海はご覧になったことは?」
睨まれていると思ったリシリアは、どうにか話題を振ろうとモモタナに微笑みかけた。
うわぁぁぁぁぁぁぁ。話し掛けられた!
小国のエーコットのことまで詳しいなんて、知的!
「よ、よくご存知ね。海は初めてよ」
「いかがですか?」
「不思議なにおいがするわ」
「潮の香りですね」
モモタナは間抜けな返事をしたことを呪いつつも、会話がここまで続いたことに強烈な喜びを感じていた。
「お、音もうるさいし。眠れるかしら」
この会話だけで、海に佇むリシリアを一晩中妄想出来そうだと思うモモタナ。
「波の音って癒されません? 私海育ちなんで、すごくほっとします」
アンジュはリシリアとモモタナの会話に割って入る。
せっかくの修学旅行、リシリアと楽しみたいと思っているのはアンジュも同じだ。
「私は10年以上前に来たっきりだから、子どもの頃を思い出して逆にわくわくしてしまうわ」
「えぇ~リシリア様可愛い~!」
「か、可愛い!?」
「はい! いつもお淑やかなリシリア様が、内心わくわくしてるのかと思うと!」
「私だって楽しい時は楽しいと思うわよ」
「じゃあいっぱい楽しみましょうねー!」
モモタナには二人がイチャイチャしているように見えた。
親友だか何だか知らないが、リシリアと話していたのは自分なのにとへこむ。
そして高みの見物のごとく、その光景を楽しんでいるセレナ。
本当はアルバートを参加させたらもっと面白くなるだろうと思っているのだが、まだ馬車が着いていないらしい。
仕方ないから少し揺さぶってみようと、にやけた口元を扇子で隠す。
「リシリアに伺いましたが、モモタナ様は王妃教育に熱心に打ち込まれているとか」
その言葉を聞いてモモタナはまた胸をときめかせた。
リシリアが自分をそんな風に評価していたとは、血の吐くような努力が報われるというもの。
「ま、まぁ。これくらい何ともありませんわ」
「さぞ王妃になることを望まれていらっしゃるのでしょうね?」
王妃教育を受けているのだから、これを否定しては怪しまれる。
リシリア様に認めてもらいたくて頑張っているだなんてバレたら恥ずかしくて死んでしまう。
「当然でしょう。何のためにエーコットから来たと?」
威厳たっぷりに言うことに注力したモモタナは、リシリアの顔色を見る余裕はなかった。
「ではモモタナ様は殿下をお慕いしていらっしゃるのかしら?」
セレナは込み上げる笑いを押し殺しながら聞いた。
修羅場って何て楽しいのでしょう。
「お、お慕い!?」
「だって、王妃になりたいのでしょう? リシリアは殿下の愛のために頑張っているのだもの。モモタナ様もそうなのかと思って。邪推だったかしら?」
モモタナは口をぱくぱくさせた。
セレナはそれを見て興ざめする。
なんだ、つまらない。
この程度の揺さぶりに困惑するなんて、思ったほどの人間ではないわね。
残念だけど、リシリアには遠く及ばないわ。
4人の間にとてつもなく微妙な空気が流れる。
とにかく気まずいリシリア。
破綻のないように返答しなければと焦るモモタナ。
早く遊びに誘いたいけど、身分の高すぎる3人の前でそんな提案は出来ないと思うアンジュ。
急に飽きてしまったセレナ。
そこに運悪く現れてしまったアルバート。
「リシリア、ここにいたか」
「!!」
アルバート、何というタイミングで現れるのですか!
「!!」
本人が来たら、もっと答えづらくなるではないの!
「!!」
殿下、遊びに行こうと鶴の一声をお願いします!
「!!」
ふっ、楽しくなりそうじゃない!
一斉に注がれた視線にたじろぐアルバート。
「邪魔をしたか?」
「いいえ! ちょうどお茶も空になったところだったんですよ~」
遊びに誘えと目で訴えるアンジュ。
「そ、そうか。海辺を少し歩こうかと思ってな」
「いいですね!」
「あら殿下。ここには王妃候補が二人もいるのですよ。誰をお誘いに? まぁ聞かずともわかりますわね。隣国の王女に恥をかかせるわけにはまいりませんもの」
セレナは面白そうな展開に誘導するべく小芝居を打つ。
一方、私を誘うなとアルバートを睨みつけるモモタナ。
それを見たリシリアは、モモタナがアルバートに恋焦がれているのだと勘違いをする。
「モモタナ殿」
「な、何ですの」
「申し訳ないが、リシリアを誘っても?」
「す、好きにすればよいでしょう!」
尊い。
このカップル、本当に尊い。
モモタナは興奮のあまり卒倒しそうだった。
「ア、アルバート」
「悪いがリシリアを借りる」
アルバートはリシリアの手を取った。
「あ、あの、ですが」
「今さら私に遠慮なんてなさらないでくださる? 殿下への愛を私に語っていたではないの」
決まった!
モモタナは自分が出来る精一杯のお膳立てをしたと満足していた。
「失礼する。皆も楽しんでくれ」
アルバートはリシリアを攫うように連れていってしまった。
「で? モモタナ様はどっちが好きなの?」
「え?」
「殿下? それともリシリアかしら」
セレナの発言にボンっと頭がショートする。
「ななななな、何ですの!?」
「あ、僭越ながら私も思ってました。モモタナ様ってリシリア様のこと好きですよね?」
「ど、どうして、そ、それを」
「だって私も好きですもん。リシリア様のこと。ね、セレナ様?」
「そうね、私たちは似た者同士よ。癪だけど」
真面目で真っ直ぐで、自分のことより人のことに一生懸命。
そしてただ殿下のことだけを一途に愛している。
あんなに可愛い生物、他にいない。
「モモタナ様がリシリアの邪魔をする気がないとわかればそれでいいわ」
セレナはパチンと扇子と畳んだ。
「邪魔なんてするわけないでしょう!」
「じゃあ何で王妃教育受け続けてるんですかぁ?」
アンジュはアイスティーの氷をマドラーでかき混ぜながら聞いた。
「そ、それは。リシリア様に認めていただきたくて。お傍にいたくて」
「それで王妃に選ばれたらどうするおつもり?」
「それはないわ! 私、リシリアの足元にも及んでいなくてよ!」
「でしょうね」
「ですよねぇ」
「ぐっ」
小さくなるモモタナを見つめるセレナとアンジュ。
「アンジュ、あなた何か楽しい話をなさい」
「えぇ、セレナ様。無茶ぶりですよぉ」
「早くなさい」
「じゃ、じゃあ! リシリア様の可愛いところを言っていくゲーム!」
「あら。始めるまでもなく、私の勝ちじゃないの」
「まっけませんよ~!」
「それ、私も参加なの?」
二人の笑顔が答えだった。
いわゆる「神視点」での投稿です。
慣れていないので難しい……。
読みづらい箇所、誰の会話かわかりにくいなどあればご指摘ください。