修学旅行へ出発!
修学旅行当日。
学園からの馬車の列は実に壮観だった。
大きな馬車、小さな馬車、華美なものに洗練されたシンプルなもの。
クラシカルな馬車から最新鋭のものまで。
ずらりと並んだその列は丘の向こうまでずっと続き、私が出る頃には先頭は既に見えなくなっていた。
アンジュのような騎士団専攻の生徒は護衛を兼ねて馬での移動だと聞いた。
馬車の両脇には、騎士部隊が等間隔に配置されていた。
「よろしくね? 未来の王太子妃殿下」
「ちょっとセレナ、やめてよ」
私はセレナと同じ馬車に乗り込む。
「何かあれば、私が身を挺してお守りしてあげてもよくってよ?」
偉そうな護衛宣言に思わず笑ってしまう。
「それよりセレナ、授業はどう?」
「面白いけど苦労するわ。農業って作物を育てるだけだと思ってたけど、実際は土を育てるところからなのよ」
「土を?」
セレナが言うには、ふかふかな黒っぽい土を作るのが第一段階だそうだ。
「ようやくマスターしたと思ったら、作物によって必要な土が違ったりして」
「へぇ、土にも違いが」
「石灰を撒く量を調整するだけで、実のつき方が全然違うの。肉体労働だと思ってたら、結構頭も使うのよ」
「充実してるようで何よりね」
農業を語るセレナの顔が生き生きとしてることがその証拠だ。
「リシリアはどうなの?」
「思っていた以上にやることが多くて大変よ。でも嫌じゃないわ」
出される課題の量も、求められるクオリティーも、公爵家でしていたそれとは比べものにならない。
けれどやりがいがあるし、目標に向かって頑張る自分はキラキラしていて結構好きだ。
「隣国のお姫様はどうなの?」
「モモタナ様? とても集中してらして、頑張ってらっしゃるようだけど」
「あら、頑張られては困るじゃないの」
「人の努力にどうこう言うものじゃないでしょ。むしろ異国の地であれだけのことをやってのけるのだから、頭が下がるわ」
自分も同じ課題をしているからこそわかる。
モモタナ様の努力は生半可なものではない。
それをどうこういうのは品がないし、ライバルだからと貶めるなんてもっての外だ。
「相変わらずリシリア様はお優しいわね」
「何よそれ。突っかかるわね」
セレナの慇懃な言い方はいつものことですが。
「殿下は私のものだから、頑張るだけ無駄よとでも言って追い返せばいいのに」
いや、そんなことしたら悪役令嬢に逆戻りではないですか。
嫌ですよ、そんなの。
「むしろ仲良くしたいのよ。隣国の王族なのだから、好かれるにこしたことはないでしょう?」
「余裕ね」
うーん、そう見えるのだろうか。
「でも嫌われてるのよねぇ」
話し掛けたら黙って睨まれるし、贈り物をしても身につけてはくれないし、口を開けば厳しいお言葉ばかりだし。
「取り持ってあげてもよくってよ?」
「セレナが?」
らしくないですよ。
「私、土とも仲良くなれるのだから、王女くらい簡単よ」
「土……」
それはちょっと不敬では。
「旅行中はフリーだし、何よりモモタナ様もお知り合いが少ないでしょう?」
「確かに。せっかくの旅行で一人ぼっちは寂しいでしょうね」
「なら決まりね。任せなさい」
セレナは馬車を降りて早々、モモタナ様のところへ行った。
「どちらさまかしら?」
「セレナよ。貴女がモモタナ様ね?」
「えぇ。何の御用?」
セレナは背の低いモモタナ様を見下ろして行った。
「旅行中、私達の輪に混ぜて差し上げてもよろしくってよ?」
え、偉そう!!
なぜセレナに任せたのでしょう。
モモタナ様の顔がヒクヒクしております。