転生したら悪役令嬢だった件
「あの、すみません」
耳元で申し訳なさそうな声が聞こえる。
私は薄っすら目を開けた。
誰?
近くでコスプレイベントでもやっているのだろうか。白い布を身に纏い、大きな羽を背負った少女がいた。
「手違いで死なせてしまったようです」
?!
私は飛び起きる。
「あ、死んだばかりなのでまだ魂が不安定かもなのです。あまり動かない方が」
死んだかどうかはおいといて、頭がくらくらする。
私は肩で息をしながら口を開く。
「あなた誰? どういうこと?」
「確認不足で、すみません」
少女は眉をハの字にして、困り顔をしていた。
「そ! その代わりと言ってはなんですが! 好きな世界に転生させて差し上げます! 気絶している間に少し魂を覗かせてもらったのですが、借金もあるし、モテないし、あまり良い人生ではありませんでしたよね?!」
ドヤ顔で鼻息荒く、私の人生にケチをつけるとは何事か。
借金は大学の奨学金だし、モテないのは女子校育ちでたまたま縁がなかっただけだから!(多分)
「よろしければ、お金にも苦労せず、お姫様のような生活を送れる世界に転生させて差し上げます! 素敵な王子様付きで!」
まぁいいか。
どうせ死んだんだし、割り切って次の人生を楽しむしかない。
「わかりました。お姫様のような生活、王子様付き、それでお願いします」
「わぁ! ありがとうございます! ご納得いただけて助かりました! 上司がうるさいものでっ」
上司がうるさいのはどこも一緒なんだな。
「では早速いきますね、ハイ!」
元気のいい掛け声がしたかと思うと、私の身体はものすごい重力に引き寄せられるようにその場から落ちて行った。
「リシリア様、朝でございますよ」
目が覚めると豪華な天蓋ベッドの中にいた。
「え? 転生した?」
「リシリア様? 怖い夢でも見られましたか?」
私はリシリアと呼ばれていた。
頭を抱えて記憶を手繰り寄せると、確かにリシリアとしての記憶がある。
私は試しにこの世界の詩を朗読してみた。うん、覚えてる。
前世の私にとっては全く知らない詩だけど、リシリアとしての記憶がすらすらとそれを暗唱させる。
「お勉強熱心なのは良いことですが、先にお支度をすませましょうね」
侍女が水受けを差し出す。
水に映った顔を見ると、10歳くらいの金髪の少女がそこにいた。
キリッとした目に、高い鼻。将来が楽しみな美人さん。
思わず笑みがこぼれる。
「リシリア様、本日はアルバート王子にお手紙を書きましょうね」
「アルバート王子? 誰だっけ」
「寝ぼけておいでですか? リシリア様の将来の伴侶でございますよ」
おぉ!
お姫様のような生活に、王子様付き!
でもちょっと待って。
リシリアにアルバート王子?
何だか聞き覚えのある組み合わせ。
そこではっとした。
私が転生したのは間違いなくあの乙女ゲームの世界。「プリズムティアラの約束」だ。
そして一気に血の気が引いていく。
アルバート王子の婚約者であるリシリアは、18歳の時に行われるダンスパーティーで婚約破棄を言い渡される。リシリアはヒロインをいじめた悪役令嬢として弾劾され、国外追放という悲惨な末路を辿る。
「あのコスプレ天使、次会ったらただじゃおかない」
私は乱暴に顔を洗った。
新連載です★
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前作よりシリアス少なめに書こうと思っているので気軽に読んでいただければ!