表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

にこちゃんは5さい。すきなことばは、きらい。

作者: 須東理唯

にこちゃんは、5才です。


すきなたべものは、いちごです。


すきな色は、ブルーです。


すきなあそびは、おえかきです。


すきなひとは、いもうとの、みこちゃんです。


すきなことばは、きらい、です。


どうしてきらいがすきかって?


だって、きらいって言うと、きもちが強くなるんです。


なかないで、いられるんです。


たとえば、こんなとき。


「にこちゃん、みこちゃん、おやつですよ」


おかあさんがよんでいます。


「わあ、いちごのケーキ!」


にこちゃん、おおよろこび。


ふわふわのスポンジと、あまいクリームのあいだに、だいすきな、いちご。


ケーキのてっぺんにも、おおきなあかい、いちご。


「にこちゃん、いちごだいすきだから、さいごのとっておきにするんだ……あっ!」


なんてことでしょう。


みこちゃんが、ひょいと手をのばし、にこちゃんのケーキから、てっぺんのいちごを食べてしまいました。


「にこちゃんの、いちご!」


みこちゃんは、もぐもぐしながら、にこちゃんを見ています。


みこちゃんは、まだ2才だから、赤ちゃんからこどもになったばっかりです。


いいことと、わるいことが、よくわかっていないんです。だからおかあさんは、みこちゃんのことおこっちゃだめよって、言います。


にこちゃんは、おねえちゃんだから、みこちゃんにやさしくしてねって言います。


にこちゃんは、まっしろの、まったいらになった、ケーキのてっぺんを見つめて言いました。


「いいもん、にこちゃん、いちごなんか、きらいだもん!」


◇◇◇


ほらね、きらいっていうと、きもちが強くなるでしょう?


なかないで、がまんできるでしょう?


たとえば、こんなときだって。


にこちゃん、きょうはようちえんで、おともだちとあそびます。


せんたいごっこをして、あそびます。


「おれ、レッド!」


「ぼく、イエロー!」


みんなつぎつぎ、すきないろをさけびます。


「にこちゃん、ブルー! にこちゃん、ブルーだいすきだもん!」


にこちゃんも、おおきなこえで、せんげんします。


すると、ひとりの子がいいました。


「だめだよ、ぼくがブルーだよ」


「いやよ、にこちゃんがさきに、ブルーって言ったもん」


「だって、にこちゃんはおんなのこでしょ。ブルーはおとこだよ」


「にこちゃん、ブルーがすきだもん」


「ブルーがすきなんて、おんなのこなのに、へんなのー。おんなのこは、ピンクだよ。」


にこちゃんは、すっかり、あそぶきもちをなくして言いました。


「いいもん、にこちゃん、ブルーなんか、きらいだもん!」


◇◇◇


それから、こんなときだって。


にこちゃんは、だいすきな、おえかきをします。


「にこちゃん、なんだってかけるのよ。おひめさまも、クワガタも、とうもろこしも、かけるのよ」


クレヨンを、つくえいっぱいにひろげて、にこちゃんはちからいっぱい、おえかきします。


いまは、おかあさんをかいているんです。


ほんとうより、ちょっとびじんに、かいているんです。


そんなにこちゃんを、みこちゃんが、ふしぎそうに見ています。


「わーい、じょうずにかけた。おかあさんにみせてこよう……あ!」


なんてことでしょう。


ほんのすこし、目をはなしたすきに。


みこちゃんが、らくがきしています。


にこちゃんがかいた、おかあさんの、おかおに。


よりによって、まっくろいクレヨンで。


「にこちゃんがかいた、おかあさんの、おかお、ぜんぶ、かみのけに、なっちゃった……」


みこちゃんはうれしそうに、くろいクレヨンをこすりつけています。


「にこちゃん、みこちゃんなんか、きらいだ!」


にこちゃんは、どん、とつくえをたたきました。


みこちゃんはびっくりして、クレヨンをおとしました。


「みこちゃんなんか、きらいだ! おえかきなんか、きらいだ!」


きらい、きらい、みんなきらい。



きらいっていえば、なかない。



なかない、はずなのに。


「あらあら、にこちゃん、何があったの」


おおきな音にびっくりして、おかあさんがかけこんできました。


それから、目にもりもりなみだをためたにこちゃんにびっくりして、ぎゅっとだきしめました。


「よしよし、にこちゃん。おねえちゃんがないて、どうしたの」


にこちゃんは、おかさんのうでのなかから、なみだでぬれたほっぺたを、つきだしました。


「にこちゃん、にこちゃんだもん! おねえちゃんじゃなくて、にこちゃんだもん! おんなのこじゃなくて、にこちゃんだもん!」


おかあさんは、はっとしたように目をみひらき、それから、にこちゃんの、かぴかぴひかるほっぺたをぬぐいました。


「にこちゃん、ごめんね。おかあさん、おねえちゃんじゃなくて、おんなのこじゃなくて、にこちゃんが、だいすきよ」


「にこちゃんが、だいすき?」


「そうよ。にこちゃんが、だいすき」


にこちゃんは、おかあさんのおなかに、あたまをうずめました。


「……にこちゃんも、おかあさん、すき」


「うれしいな。ありがとう」


「にこちゃん、みこちゃんも、すき。おえかきも、すき。ブルーが、すき。いちご、すき」


すきって言うと、いいきもちになります。



にこちゃん、あたらしい、すきなことばを見つけました。



にこちゃんは、5才です。


すきなことばは、すき、です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして 椎名ユズキ様のところからこちらの作品を知りましたv ほんわか気持ちがあたたかくなるお話で思わず感想欄にお邪魔しております(^^) いっぱいいっぱい我慢して強がってた「きらい」…
[一言] まだ5歳なのに、強くあるために好きなものをあえて「嫌い!」と言い張るにこちゃん。 頑張りましたね。 でも、泣きたい時は泣いていいのですよ。 これからはいっぱい「好き」を言って、周囲にも「好き…
[一言] 優しい理由の「きらい」でしたね。 自分のためであり、人のためであり。 泣かないように強くなろうとするのは、お母さんのためでもある。 上の子は知らずのうちに「お姉ちゃん」になって「強く」なった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ