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精霊眼をもつ者であるということ1

だいぶお待たせをしておりました…。

まだ待機していてくださる方がいる…?のか微妙だとは思いますが、

短編後の話になります。

久しぶりなのに文章量少なくてすみません…。

設定だけは整理終わったんですが…。

◆短編あらすじ

リリーアの嫉妬から放たれた「目をつぶせば精霊眼が本来の持ち主に戻る」という言葉を真に受けたオフィーリアは自らの両目に刃物を振りかざし、意識を失う。


―――ごめんね。■は■くないんだよ。


誰かの声が聞こえた気がして、ふ、と浮き上がるような感覚とともに、意識が戻る。

見覚えのある王宮の医務室の天井を見上げて、嗚呼、と。


「わたしは、失敗してしまったのかしら…。」


確かにつぶしたはずで、その時の熱さも記憶には鮮明に残っているのに、何故。

普通に見えているのかが理解できない。

つぶした眼球を再生するなんて、王宮の医者であっても不可能なはず。


重いからだを無理やり起こして、周りを見回す。

周りを見る限り、王族や関係者のみの個室の病室のようなのに、物が異様に少ない。

装飾品がすべて取り除かれているのは、私が自傷できないように、ということなのは理解できるけれども

ならばなぜ監視している人がいないのか。


「体裁として、気を使っておく必要はあっても、人を配置するほどの価値はない。ということなのでしょうね。」


カタン。


音がした方に視線を向けると、ユリウス様が氷水の入った器を片手に立っていた。

この病室に続いている、小部屋にいらっしゃったのか。

なら確かに一人ではないけれど、ああ、まずは挨拶をしなくては。


「このような姿で申し訳ございません。ご機嫌麗しゅうございます。ユリウス殿下。」


あわてて目を伏せて、臣下の礼をとる。


「よい。楽にしろ。」

「はい。」


会話が続かない。最初からそうだったけれども、この方は私に対してだけ普段の物腰の柔らかさや、親しみやすさを持たない。

手に持っていた器をベッド横の机に置いたユリウス様が何も言わずに見下ろしてくる。

見下ろしてくる視線に質量がもしあったのなら、今頃わたしは串刺しにされていそうなほど鋭いなと、現実逃避をしながら口を開く。


「恥ずかしながら今の状況が理解できておりません。お手数おかけして申し訳ありませんが、ユリウス殿下にお聞きしてもよろしいでしょうか。」

「君が両目を刃物で傷つけたのを、お茶会に呼ばれていたほかの令嬢が目撃。

 令嬢の悲鳴で女性騎士が駆け付け、今の医務室へ運んだ。

 私も伝令を受けてここに来た。ここまではいいか。」

「はい。お忙しいユリウス殿下にご迷惑をおかけし、申し訳ございません。」

「…婚約者のことだ、私が来なければおかしいだろう。

 医者の診察で、眼球が完全に切り裂かれていることが確認された後、

 モルゲンデンメルング王国に状況の連絡、精霊眼の医師の派遣依頼を行った。

 そして、その最中に、君の瞳は緋色の光を放ち―――、再生した。」

「は…?」


完全に切り裂かれていることが確認されたということは、わたしが失敗したわけではなさそうだと、息をついた。

が、続く言葉に思考が停止した。

さ、いせい…?

確かに、今私の目は見えている。視界に異常はなく、無表情のユリウス殿下の顔すらよく見える。


「鏡を見てみろ。」


差し出された鏡を震える手で受け取る。

私の瞳は今、どうなっているのか。

――こわい。見たくない。

でも、殿下の手前従わないわけにはいかない。所詮私は臣下の一人なのだから。


「―――え?」


左目に銀色の自国の紋章、右目に銀色のⅢの数字が入った碧眼だった、はずなのに。

左目の紋章が金色になり自国の紋章になったり、他国の紋章になったりを繰り返していて。

右目の数字が金色になりⅠからⅣに常に変化し続けている。

なにより、目の色が、燃えるような赤色になっていた。


「なに、これ…?」

「私たちにもわからない。そもそもが精霊眼をつぶすということがあり得ない事象だった。

 だからこそ、最も精霊眼の知識があり、歴史のあるモルゲンデンメルング王国へ使者を出したんだ。

 君のその精霊眼の異常、君の立場は今とても不安定になっている。

 軽率な行いはこれ以上しないように。今はだれが何をするかわかったものではないから、

 君のそばに接触できる人間は限られている。

 私と、」

「私だけになっている。」


音もなく入ってきた中性的な人物の胸元につけられている徽章はモルゲンデンメルング王国のもの。

さらにもう一つついている徽章に王族の紋章とBとⅣの数字がある、ということは。


「このような体勢で申し訳ございません。お初にお目にかかります。わたしはオフィーリア・ウィリアムズと申します。リシャール・モルゲンデンメルング王弟殿下。」

「オフィーリア嬢、楽にしてくれていいよ。君は今重要な立場にいるんだからね。」

「重要な、立場とは、どういうことでしょうか。」


このお方を呼ぶ意味、それはこのお方が王族でありながら精霊眼の研究の最先端の代表者だからだろう。

けれど、重要といわれる意味が分からない。

ユリウス殿下をそっと窺うと、少し、眉をひそめている。

何か不快になるようなことなのだろうか。


「ユリウス殿。君なら詳しいと思うけれど、精霊眼は生まれたときから相手が決まっている。」

「はい。存じ上げております。」

「決まっているのはその両目に相手の情報があるから。

 では、オフィーリア嬢の場合はどうなるか。

 いま彼女の瞳はあらゆる国の紋章、そして現在存在する未婚王族の番号が入れ替わり表示されている。

 彼女は君の婚約者だった、しかし今はその情報ではなくなっている。

 僕の推測では、これは。

 彼女の相手を精霊眼が選定しなおしている、と考えられる。」

「選定しなおす…?そのようなことがあるのですか?」

「そんな…!」


選定という言葉に困惑する私とは対照的に、ユリウス殿下はショックを受けたような声を出してうつむいていた。なぜだろう。この人は私が婚約者ではないと否定したのに。

選定しなおされているのであれば、都合がよいのではないのだろうか。


「オフィーリア嬢やユリウス殿が知らないのも無理はないよ。

 過去の歴史の中で、今回のような瞳に浮かぶ情報が更新されたケースが実は1度だけある。

 原因は、瞳を傷つけたわけではなかったけれどね。

 混乱を招くから、モルゲンデンメルングの王族しか知らない機密事項だ。

 今回は、特殊な事情があるので君たちには公開している。」

「基本、同い年で、幽玄世界で結ばれたおふたりが、この覚醒世界に生まれるのですよね?

 にもかかわらず更新されたというのは、どういうことなのでしょうか。」

「幽玄世界で結ばれたことがない、というお二人だったんだよ。

 5歳で精霊眼の変化後、相手の王子は新しく王子の情報を持った精霊眼の女性が生まれた。

 精霊眼の変化は、その当時の王の妹を母に持つ公爵家の次男相手になったんだ。

 公爵家の紋章と、その数字に変わった。

 他国への影響を踏まえ、公爵家の次男は病弱だったので公表できなかった公爵家で預かっていた王族ということにした。

 まだ5歳で社交界にもでていない、公表もされていない時だったので、

 情報操作は簡単に行われた。」


このような事情があったなんて。

公開できないのもわかる。

そして、結ばれたことがない二人。

まさにユリウス様とわたしではないか。

では、精霊眼が変化すればユリウス様のお相手は生まれるということ?

でもなぜ、今まで変わらなかったのか。7歳で変わるのが普通というならなぜ12歳のわたしは

変わっていないのか。

気になることが多すぎて、何も言わずにうつむくユリウス様の様子も理解できなくて。


「リシャール王弟殿下。その精霊眼が変化した方は、今の私みたいにずっと変化し続けるという状態だったわけではないのですよね?」

「うん。そうだよ。特定の相手の情報に変わっただけだ。

 でも、オフィーリア嬢、君は違う。

 まるで君には無限の選択肢があるかのようにあらゆる国、そして番号が出ている。

 昔から研究していた時にたてた僕の持論なんだけどね。

 基本王族側が優位だと思っている学者が多いんだけど、僕はそうは思わない。

 これは、王族の伴侶になる側である精霊眼の持ち主こそが、神々のいとし子で

 選択する権利を持っている側なのではないか、と思っているんだ。

 だから、かつての女性の精霊眼は変わった。

 そして、今、君の瞳が常に変化しているのは、君にはどんな相手も選択する権利があると、

 そういうことではないか、とね。」

「わたしが、選択する側…?」

「そうだよ。」


わたしの手を、そっとリシャール王弟殿下が握る。

あったかい、いつに間にかわたしの手が冷えていたのか、じんわり伝わる熱に少し肩の力が抜けた。

私の目を覗き込み、そして耳元でささやく。

ユリウス様に聞こえないような小さな声で。


「君の目の組み合わせでは、今の一番上のモルゲンデンメルング現国王妃様の組み合わせすらあるんだ。

 君はおそらく、狼王以上のランクの精霊眼の所持者だ。

 今の組み合わせを壊してでも君は誰でも選択できる。」


ひゅ、と息を吸い込んだ。





強い精霊眼をもつ者(神に愛されし者)


(―――ならば、汝に、不可能なことはない。)


 






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