世界で一番不幸だという顔をして
おひさしぶりです。
まだ見てくださっている方いるんでしょうか?いないような気が…。
かなり遅くなりましたが、続きの投稿です。
『なんだ、紋章眼持ちではないのか。』
そういって立ち去った、それが私のお父様だった。
忘れたことはない、生まれてすぐに必要とされなくなった、私の価値がないと判断された時のこと。
モンテカルロ公爵家といえば名門、とは言われているもののもう外されかけている元名門。
その価値にしがみつくような人ではなかった、と聞いたことがあるけれど。
それが?
そうだったとしてもこちらをお父様が見てくれるとは思えなかった。
12年間、私が生きているということすらお父様が覚えているのかわからないくらいに。
私は存在しなかった扱いだった。
『どうしてお父様は私を見てくれないの?』
そう、口にだした時、困った顔をしたメイドは、気遣うような眼で私を見ながらこう言った。
『公爵はお忙しいので、お会いになることができないだけで、お嬢様のことを愛しておりますよ。』
その言葉を信じていた、信じていられたのは6歳までだった。
初めて招待されたお茶会で。
『ああ、あの子ね。』
『可哀そうに。』
『例外があったからよね。』
『そもそもあの時の件が・・』
あの時?例外?なんのこと?
遠巻きに可哀そうな子を見るような言葉ででも、どこか一枚幕の向こう側のような雰囲気で。
それが怖くて、近寄れなくて。
招待されて、案内された席に座って俯いていた。
『リリーア様の前に、もう一人、生まれてくるはずだったお子がいたこと。』
『おそらくご存じないのでしょうね。』
『そうそう、ユリウス様と同い年になるはずだった、唯一のお子が。』
え…?
『あれも不自然な話よね。』
『噂では毒を盛られたとか。』
『精霊眼をもつかもしれないお子がいるのにそのようなことが?』
『ありえないはずですわよね。』
なに、それ…。
『確かそれからでしたか、公爵が精霊眼の子にこだわるようになられたのは』
『まぁ、一度つかみかけた栄誉ですもの』
『それで必死になっていましたのに。』
『子供が産めなくなったからとリリーア様のお母様も捨てられて、ねぇ。』
『無理もないわ、ちょうどその頃でしたもの。』
『オフィーリア様がご誕生なさったのは。』
オフィーリア、さま…。
もし、私が、私が精霊眼をもって生まれたのなら、お父様は、私を愛してくれた?
子供を、埋めなくなったお母様は捨てられずに、すんだの?
目の前が、真っ暗になる、ような感覚がした。
とにかく、今すぐ、このお茶会から消えてしまいたかった。
生まれたときに否定された公爵令嬢、それが私リリーアで。
世界が回る、人々のささやく声の中で、ゆるりと私は意識を失った。
それからだ。私は私を憐れむアリーシア様を利用して、ユリウス殿下に近づいた。
私の今の状況はユリウス殿下にまで届いているようで、妹のようにかわいがってくれている。
だからこそわかる。
ユリウス殿下はオフィーリア様のことを愛しているのだと。
なぜ否定をするのか、なぜ守ってあげないのかはわからない。
それをチャンスとか、詐欺だとか言っている人たちはやっぱり節穴だわ。
それに、妹としてかわいがられていると、お父様が突然私に声をかけてくるようになった。
「殿下とはどうなんだ?」
「瞳の紋章は戻ってきたのか?」
所詮、道具扱い。紋章がなければ、父は私を見てくれないし、かわいそうでなくなれば、ユリウス殿下は私を気にかけてもくれない。
「私って何のために産まれてきたんだろう。」
ほんと、空笑いしか出ない。
王宮の庭を歩いていると、少し離れたところに、オフィーリア様がいた。
アリーシア様のお茶会にきっとまた招待されていないのね。
彼女の父親は娘を憎んでいるとの話、よく聞くけれど、本当とは思えなかった。
だって本当にそうならば、彼女のあのきれいなドレスはなに?
体だって普通の令嬢みたいにきれいに整えられている。
私みたいにドレスの準備すら困ったことなんてないでしょうに。
「はは。…あははは…ははっ。」
ああ、泣いてしまいそう。自分が嫌になる。
だから、ちょっとだけ意地悪したっていいでしょう?
「ごきげんよう。盗人のオフィーリア様?」
「…っ、リリーア様。ごきげんよう。その、盗人、とは…?」
「その、瞳。それは私のものだわ。ねぇそうでしょう?否定されているオフィーリア様ならわかるはず。」
「っ…。それ、は…。」
「そのまじないによって得た過ちをただす方法はただ一つ、瞳をつぶすことだけでしかできないわ。」
だからリリーアは世界で一番不幸だという顔をしている彼女が憎らしい
(嫉妬していたの、本当に。)
(ただそれだけだったのよ。)
(本当に瞳をつぶすなんて、思うわけないじゃない。)
主人公視点前での話はここまで、この話の後からオフィーリアとユリウス視点になります。次いつ投稿できるか不明です・・