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01 逃がす罪

なろう初投稿です。


よろしくお願いします。

 


「何やってるんだ、俺は……!」


 すでに限界を超えた疲労感を独り言で誤魔化すように、夜の城下町の裏道を走り抜ける。

 光源はほぼなく、辛うじて進むべき道を月明かりが示してくれる程度だ。


 息が苦しい。脚が痛い。そして体も重い。

 そりゃ、()()()()()()るんだから当たり前のことなんだが、意識のない脱力状態の身体を背負うことがここまでも大変だとは思ってもいなかった。

 走る振動でずり落ちてくる身体を直しながら、必死に前へ進む。

 体躯は明らかに自分よりも小柄なはずなんだが、甘く見てたな……。

 疲労困憊で脚にも思うように力が入らない。


 早く安全なところまで……。

 安全なところといってもどこが最善なのかすら考える余裕がない。


 とりあえず、追手に見つからない場所まで運ばないと――


「うぁ!」


 突如視界が反転。


 なんてことない石畳のごく僅かな段差に足をとられ躓き、前のめりに転倒してしまった。

 その反動で、背負っていた体が前方に投げ出された。


 くそ!こんなところでへばってる場合じゃないんだがな……。


 慌ててもう一度背負い直そうとするも、地面に転がっている生身を自分の背中まで持ってくる力がでない。

 自分の脚に目をやると、さっきの転倒で擦りむいたらしく流血している。それと筋肉も痙攣している。


 内心、限界を感じ始めていた。

 そもそも、俺があの場で助けようとなんて思わなければこんなことにはならなかった。


 地面に無造作に転がった体を見る。

 年齢的には16から18歳くらいだろうか。体躯も多少は大人びた部分はあるものの、顔などまだあどけなさが残っている。

 頭髪は鮮紅で腰辺りまである。

 そして、俺ら人間とは明らかに違う特徴。そう、頭からは角が2本生えている。


 いわゆる”魔族”だ。


 生で見るのはこの少女が初めてだ。

 この国で生活していたら、まずお目にかかることはない。


「――必ず見つけ出せ!!」


 俺たちを探す叫声が聞こえてきた。

 もたもたしてるうちに、追手が近くまで迫っているみたいだ。


 くそ、こんな体じゃ背負ってどこかに運ぶことすらも厳しい。

 どこか、隠れる場所があるといいが……。


 微かな明かり頼りにまわりを見渡す。

 おっ、あそこならうまくやり過ごせそうか。


 目線の先には露店があった。

 もちろん夜中だから営業もしていない。

 台の裏がいい感じに影になって、うまいことやり過ごせそうだ。


 少女の脇の下に腕を通し、ズリズリと引きずりながらそこまで運んでいく。

 体がうまく隠れるように奥まで押し込み、俺自身も姿勢を低くし息を殺す。


 すると間もなく、灯とともに足音が近づいてきた。


「おい、出てこい!!」


 かなり近いところで声がした。

 てか、出てこいって言われて出てくるバカがどこに居るのやら。 


 奴らは、魔法石を使ったランプであたりを入念に探索しているようで、なかなか足音が通り過ぎてはくれない。


 気付かれずに通過してくれれば、追手を撒くチャンスができる。

 しかし、バレたら逃げ場はどこにもない。

 あいにく武器も持ち合わせていないため、戦うこともできない。

 ……まあ、戦ったとしても足音の数からして、敵うわけないんだけど。


「もっと奥も探してみよう」


 そんな声が聞こえた。

 足音も少しずつ遠ざかっていく。

 よし!このままどっかに行って――


「ゲホッ、ゲホッ……」


 俺の足元で寝転がっていた少女が、急に咳き込んだ。

 慌てて口を抑えたものの、間に合うわけがなかった。


「声がしたぞ!!」


 一時は遠ざかっていた数人の足音が一斉に近づいて来る。

 かなりやばい状況だ。

 一番望まない最悪の展開となってしまった。


 ――ガシャァン!

 何か重いものが投げ出された音とともに光を遮っていたものがなくなり、鋭い明かりが目を襲う。

 眩しい。目が開けられない。

 腕で直射を遮って薄目で覗いてみるものの、さっきまで暗い場所に居たせいで視界が真っ白で何も見えない。


「取り押さえろ!」

「う゛っ……!」


 その声が聞こえた途端、背中を誰かに押し付けられそのまま石畳に叩きつけられた。

 多分踏みつけられているのだろう。背中にかかる圧力が強く胸が苦しい。


 少しずつ目が慣れてきたおかげで、うっすらと状況が把握できるようになってきた。

 3人、4人……、いやもっといるか。

 声を聞きつけ他のところからもぞろぞろとやつらが集まってきているみたいだ。


 横を見ると、追手の兵士が少女の腰まである長い髪を摑んで引っ張り起こしているところだった。

 その際、うっ…、と呻きが聞こえてきた。

 粗暴に扱われたせいか、意識が少し戻ったようにも見える。


 強引に少女立たせた兵士は、少女の腕を背中にまわし拘束具であろう金属を両腕に取り付けた。


「おい、離してやれよ!そいつが何をしたってんだ」


 どこからか逃げ出してきたのだろうボロボロの少女を救けたのがことの発端だ。


「捉えたのか?」


 その声が聞こえた途端、まわりの兵士共がざわつき始めた。

 俺も声の方向に首を傾ける。

 奥の暗闇から、足音とともに人が近づいて来る。

 装備は他の兵士に比べて明らかに軽装だが、しっかりしたものを着ている。

 背中には剣を背負っているようにも見える。

 そして、顔は――



 ――勇者だ。



 数年前に王国のパレードで見た顔だ、はっきり覚えている。

 小さい頃から、ずっと憧れてきたあの”勇者”だ。


 だけどなんでこんなところに!?

 勇者は基本、破壊的な害を及ぼす可能性のある魔物の討伐や重要任務の護衛でしか現れないはず。

 俺自身の目を疑い、もう一度目を凝らしてしっかり確認するが、やはり勇者だ。間違いない。


 王国から”勇者”の称号をもらっている人物は現時点で3人いるが、その1人である「勇者 ウェレサル」だ。

 剣一振りで大地を地形を変えるほどの威力だということを耳にしたことはある。本当かどうかは怪しいが。

 つい先日の戦いでも輝かしい戦績を残したとか。


「勇者様がなんでこんなところに?」


 歩み寄ってきた勇者ウェレサルに向かって質問を投げかけた。

 すると、俺の少し前方で歩みを止め、腰を落とし口を開いた。


「君がやったことは重罪だ」

「勇者様、俺はただその子に助けを求められたからこうして逃してやってるだけじゃないですか」

「罪人を逃していい法律があるとでも?」

「罪人?笑わせないでくださいよ、そいつがなんの罪を犯したと」


 俺は、昔から嘘を見破るのが得意だった。

 なんて言えばいいのか……、オーラ?的なものでなんとなく虚実がわかってしまう。

 誰にも信じてもらったことはないが……。

 

 実際に彼女を救う際にも、「何かやったのか?」と問いただした。

 その時は、しっかりと「何も……」と口にしていたし、嘘をついている目ではなかった。

 それは、俺にとって十分すぎるくらいの判断材料だった。


 ウェレサルは、目の前で呆れたと言わんばかりの顔をしてその場から腰を上げた。


「反省しているようなら少しは考えたのだが、これじゃ救いようがないな。バシアヌス陛下の命令通り君をこの場で仕留める」


 !!?


 耳を疑った。

 国王の命令で俺を殺せと!?


 ここまで連れてきたのは、無実の罪(あくまで独断)で拷問を受け助けを求めている彼女をあの場でほおって置けなかっただけだ。

 逃したことは悪事だとは理解している。

 しかし、この場で殺されるということがまずおかしな話だ。

 俺を縛り上げて、尋問などした後に重罪を科するのが妥当な判断のはずだ。

 なにか、不都合なことがあるのか。

 こうなってくると、そこの彼女が絡んでくることは間違いなしだがな。


 彼女の方に目をやると、拘束器具をつけられた腕を兵士に掴まれ今まさに連行されそうになっていた。

 そして、辛うじて開いている瞳で俺のことを見ていた。

 目が合う。

 そして、彼女の口が微かに動く。



(── た す け て)



 そう言ってる気がした。

 そして、彼女の濁りのない瞳。それを見たときそれが本心だと悟った。


「おらあああああああああああああぁ!!!」


 俺は大声を上げながら体を横に捻り、背中を踏みつけていた足を振りほどいた。


 考える間も無く、体が動いてしまっていた。

 それが、後先考えた行動ではないこともわかっていた。

 だが、義侠心が自制心を上回ってしまったら、もう体は止まらなかった。


 踏みつけていた兵士もこんな抵抗をしてくるとは思ってなかったのだろう、そのまま後方に蹌踉めいた。

 そして俺は、すかさず手足に力を入れその場から立ち上がり、目の前に居たウェレサルに向かって両手でどついた。


「うおっ!!」


 突然のことに身構えていなかったウェレサルが俺の渾身の攻撃をくらって後ろに数歩下がった。


 俺はそのまま、止まることなく彼女のもとへ全力で走った。


 彼女まであと数歩というところで、俺は全力で右手を伸ばした。

 横から止めにかかる兵士の姿が見えたが関係なかった。


 足がもつれて転びかける。


 体勢を崩しながら彼女に届けとばかりに、さらに前方に腕を伸ばしていた。


 指先が彼女の肩の辺りに触れた。


 その途端──



 あたり一面が、ありえないくらいの眩い光に包まれた。




 まわりの奴らも突然のことに、悲鳴に近い声を上げているのが聞こえてくる。


 それと同時に俺の体も力が入らなくなり、意識が遠ざかっていくのを感じた──。



次回は少し時系列が戻ります。

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