ポーランドオペレーション9
警備の要員は、まだ若い男で、マスクの下で怯えながら、求めに応じた。
さっとマクナルディはSIGの銃把で若者の後頭部を打ちつけ、気絶させた。
すぐに火器のライトを取り外し、動かないその男を調べると、胸のネームプレートにはウィエロスキーとあった。
マクナルディはとっさにあるプランを思い浮かべた。慣れた手つきで、ウィエロスキーというやつのマスクや防弾ベストを除くと、
また、周辺に注意し、目の前にあった、コンテナの錠前を消音器付きSIGで撃って、壊した。
コンテナの扉を開けると、気絶中の若者を担ぎ、中に進んで扉を閉めた。
それから10分は経過しただろうか、港湾内を巡回していたオロウェンという警備要員はある異変に気付いた。
少し前に話し合っていた、同僚のウィエロスキーが小用から戻って来ないのである。
彼は同僚が時間に気をつける男だとよく知っていた。迷った末に携帯無線機で呼びかけようと周波数を調整し始めようとした時だった。
「おい、兄弟、、、」。
突然の声にビクッとし、オロウェンは後ろに体を向けた。彼の見慣れた者がそこに立っていた。「心配したぞ、何してたんだ?」。
ウィエロスキーの名札を付けたその者は答えた。
「こいつを捕まえるのに必死だったんでね、、」。
ウィエロスキーはがっくりと頭を垂れ、動かない、マスクをした黒ずくめの男を肩に担いでいた。
「なんだ、そいつ?」。
「不審者だよ、盗みにでも
入ったんだろう、お前、ここはいいから、こいつを警備室に連れていけ」。
そう言うと、ウィエロスキーは同僚にその不審者なる者を預けた。
「マスクは取るなよ、気がついて、暴れ出すかもしれないからな」。
「分かった、任せろ」。
オロウェンは引き受けると、首にかけていた吊り紐付きのクリップボードを相手に渡した。
「停泊してる、船舶の出港時間と位置のリスト表だ、例のイギリス国籍の船は
まだ、いるみたいだ、
これ以上、いてもらってもこっちは困るだけだがね、、、」。
そう言われてウィエロスキーはマスクの下で吹き出した。
「言えてるね」。
オロウェンも同じように笑った後、こそ泥を引きずってその場を後にした。
それを見終えた、彼の同僚であるはずの男はクリップボードを手に、ある目的地に向かった。
ヴィクトリア号の船上で、若いSOFC要員は腕時計と、にらめっこするのに、そろそろ飽きていた。
眠気対策のコーヒーもあまり、効果がなく、苛立ちも増していた。
「やはり、まだ待つべきでしょか?」。
そう問われた、ベテラン要員の方は対照的に冷静であった。
「当たり前だ。そう命令されている。受ける側の我々が勝手に放棄してどうするね?」
ベテランは言ったが、若者の方は不満そうに黙りこくるだけであった。
その時、左の方角でライトの点滅するのが見え、若い要員は怪訝な表情を浮かべた。
「あれは、、、」
双眼鏡を手に船上の二人は光の元を調べ始めた。それはライトでの信号だった。
ベテランの要員は若い頃、海軍にいて、信号の解読法を習得していたので、意味が分かるのに、あまり時間をかけずに済んだ。
内容が判明して、ベテランのSOFCマンは思わず、一人、口走った。
「彼だ、、!、到着したんだ、回収するぞ、急げ!」。
同僚の若者は首を縦に振ると、ブリッジに急行した。
光信号を送った、マクナルディはヴィクトリア号のの探照灯の一つが点滅するのに、すぐ気付いた。
それも何を言っているか理解すると、一気に、しかし、音を立てずに、駆け出した。
イギリス船、ヴィクトリア号のオペレーターは港の管制官と通話していた。
「了解、ヴィクトリア号、出港を許可、安全を祈る」。
そう、管制官が言い終えると、通話は切られ、船のスクリューが回転してから、鋼鉄の海洋動物は黒のタールに塗られているような夜の港から旅立った。
船内で、マクナルディはSISのメンバーにこれまでの作戦下の状況、経緯、の説明をしていた。警備員を襲って、変装し、
声を真似て、船にたどり着いたこと、
見張りの殺害、これまでに、CIAのアンとどう、行動したかも、すべて語った。
彼は回収したSDカードを出し、中のデータを周囲の者たちに閲覧してもらった。
一同、顔面に興奮、苛立ちを隠さず、事あるごとに、秘密情報部の裏切り者を痛罵した。
データを本国に、送信するのは、タイミングがよくないので、入国後、その裏切り者に察知されず、慎重に逮捕に踏み切ることが検討された。
マクナルディは心中で、少し、満足した。これで、今は亡い、戦友たちに償いが出来たように思え、そうでもない気もした。
自分は命が尽きるまで、彼らに、己のミスの許しを乞い、生きることで、責任を背負う事になると思った。
説明の終了後、マクナルディは個室に案内され、休憩の許可をもらった。部屋に入り、ドアを閉めると、いつの間にか虚空を凝視している自分がいた。
部屋の中の小窓に歩み寄り、過ぎ去っていく、漆黒の景色の向こうにある国、
そこに残された、尊い命の亡骸を思い出すと、マクナルディの胸の内からは、熱っぽい感情が沸き上がり、
目元から、水滴が流れ落ち、頬をつたった。唇を噛み締め、
ブライアン マクナルディSOFC工作員はキリッと姿勢を正し、この世を去った、
友であり、愛国者の男たちに敬礼を送った。