ポーランドオペレーション8
ポーランド国内の港湾地区にはバルト海、ボスニア湾から来航する、船舶も多く、地区内では、荷揚げされた貨物品が多数、並んでいた。
そこに残っている人間でいえば、本来なら、港の関係者が大半を占めるが、
現在は港への出入り口周辺を武装した、警察や軍の保安要員の方が多かった。
その数は検問所の騒動以来、倍増されたが、マクナルディのトリックにかかったがために、戦力不足となっていた。
その港の中から、300メートル離れた、地点の海上に浮かぶ、小型漁船で、マクナルディとアンは周辺の監視、装備の点検をしていた。
マクナルディは、潜水用スーツと道具を体に身に付け、武器のレミントン狙撃銃を構えた。アンは暗視双眼鏡で目標の、行動を伝えた。
「311メートル、右のフェンスの近くに一人、左横10メートルにもう一人いるわ」。そう言い終えると、一旦、双眼鏡を下ろした。
「予定通り、地下の配水管を使うのね?」。
「そうだ」。
マクナルディは答えた。レコーダーのトリックは成功といえた。事前にアンの息のかかった、アンデレスの店長にことわって電話BOXであの音声を流し、ポーランド側を攪乱できた。
偽情報と連中は思っただろうが、半分は嘘ではない。アンの英語で録音したあの台詞は手作りの暗号を使い、大胆にもこの国の米国大使館に伝えられた。
暗号の仕組みはCIAのよく使うものにしたから、向こうもすぐ、対応できる。彼らがイギリス側に報告し、マクナルディたちが、脱出に使うはずだった、船の要員にそろそろ用件が伝わっているはずである。
しかし、マクナルディが船までに到着するための所要時間はきっちり一時間。決してゆっくりでは、いられない。
レミントンを手にSOFC隊員は暗視スコープを覗いた。アンも再び、双眼鏡を使い始めた。フェンスの所の見張りを確認すると、マクナルディはスコープの十字線をそれの眉間に合わせ、呼吸を静止し、ためらわず、トリガーを引いた。
見張りは後ろに、のけぞり、そのまま、倒れ伏した。その見張りの持っていたライフルが地面に落ち、音がした。
それに気付いたのだろう、左横にいた、もう一人の見張りが不審に思い、ゆっくり死体の所に歩み寄った。
次の瞬間、その者も死体と同じ運命をたどり、地に倒れた。それを漁船の二人は見届けると、マクナルディはレミントンをアンに手渡した。
「今まで、ありがとう。俗世であろうとなかろうと、この恩は返すよ、それまで俺が生きていられたらだが、、、」。
「あなたは約束に忠実なはずよ、慎重にね、ミスターSOFCマン、、」。
マクナルディは控えめに笑みを浮かべてから、海に飛び込み深く潜水し始めた。4分ほどした後、アンは漁船のエンジンを動かし、その場から姿を消し去った。
港の方ではヴィクトリア号という小型タンカーの内部でSOFC要員同士の会話が交わされ、
内容はポーランド内の英国大使館から伝えられた、
マクナルディの到着の件に
ついてだった。
「彼は来るでしょうか?」。若い要員の一人が腕時計をちらりと見て、もう一人のベテラン要員に話しかけた。
「マクナルディは人一倍、タフだよ、
グレシャム司令がこの任務に推薦した
ほどだから、それで、十分な保証になる」。
その言葉を聞き、若者はただ沈黙し、内心で自分でもよく分からないが、祈り出していた。
海中を潜行していた、その男はトンネルのような穴に近付くと、ライトで照らしてから、中に入り込んだ。
それは排水口の1つであった。男はパイプの中を進み、やがて、ある、地点で水中から顔を出し、上部にある、空洞を見上げた。
そして、近くにあった梯子に手をかけると、急ぎ、上昇していった。
5分ぐらいかかって、地上に出た
その男は、自分の葬った者の死体を海に音を立てないようにして、放り投げた。
男、マクナルディは潜水装備も海に捨て、身軽な状態へと変わった。黒ずくめの野戦服に身を固め、手に9ミリのSIG拳銃を持ち、周辺をうかがった。
目的地の船まで距離をざっと計測すると、SIGの安全装置を外し、音もなく、忍んで走った。
忍者映画のファンならそのリアルさに興奮しただろう。20メートルまで進んでから、付近のコンテナに隠れ、マクナルディは再度、周りを見た。
後方から会話する声がして、人が一人、ライト付きのカービンライフルを持っており、抗弾ベストを着用していた。その者は残りの保安要員だというのに、彼は気付いた。
歩行の速度からして、このまま、こちらに来るように思え、マクナルディは深呼吸して、息を止め、そして、待った。
警備の者が、彼の前まで来ると、マクナルディは後ろから素早く手を伸ばし、その人間の口を塞ぎ、SIGの銃口を突き付けた。
「これが見えるな、大人しくしろ」。