ポーランドオペレーション3
駅の男二人の会合から40分ほどして、マクナルディとバーネットは市街の中の建設現場で待機していた。車のライトなど人気のない、ここでは目立つので消していた。バーネットはデジタル時計を10分ごとにライトアップして見ていた。一方、マクナルディは少し離れて双眼鏡で周辺を観察していた。あのKGBの元スタッフが来るなら、彼らからみて、11時の方向から現れるはずだった。元諜報員なら時間を厳守する。突然バーネットのポケットで携帯端末が震動した。彼は電話を手にし、通話モードにした。「やぁ、ジェシー、今からそっちにいくよ、見えるか?」、マクナルディの方でも確認できた。男が二人、何かの商店の前で煙草に火をつけ、たたずんでいた。ライターの火でだいたいの距離が分かった。バーネットは返答した。「分かったよエディ、来てくれ」。バーネットは電話を切り、置いていた車に乗り込み、マクナルディもそれにならった。さっきの電話での会話は傍受を警戒しての暗号化したものだった。車は貨物トラックで一般人からみればこの国でいくらでも目にできる類いのモデルだった。トラックは動き出すと、数分ほどで男二人の元へたどり着き、ゴロディエフは急いで荷台のドアを開けて、中に入り込んだ。この方が彼をうまく隠せるためである。ケスラーはそれを見届けると、運転席のマクナルディにOKサインを出した。そして亡命者の後に続き、荷台に乗り込んだ。トラックは建設現場を後にして道路を20分近く走行し、外国人街の中を通過したあと、港湾エリアに繋がるルートにさしかかった。しかしその時、英国人たちは自身の目を疑った。軍用の小火器、防弾スーツで武装した、歩兵部隊のような集団が車両やバリケードで道路を封鎖し、周辺のドライバーの身分を調べていた。「まずい、警察の検問だ、」バーネットは舌打ちして、憤りを隠さなかった。マクナルディも同様で全くの予定外の状況に怒った。任務前の説明ではこのエリアではこんな規模の検問はしかれていないはずで、ゴロディエフの件が発覚したとしても当局の対応が迅速すぎる。その時、地元警官のような男が英国工作員のトラックの近くにやって来て、顔を動かし、暫くトラックを見ていた。ナンバープレートを確認すると、立ち去り、英国人達にはわからないようにして無線機を取りだし、なにごとか喋り出した。そのことにマクナルディは気付くと、顔面が蒼白になった。そして検問所の警察は少しあわただしく動き出すと警官の一人が拡声器を使い、声を張り上げた。それが英語で訛りのやや強いものとしてもイギリス工作員達には意味がよく分かった。マクナルディは状況の真相がわかり、拳を膝に叩きつけた。「くそ!、待ち伏せだ、情報漏れだ!、、」警察は照明をマクナルディ達のトラックに向け、進路を照らすと、数人の武装警官がこっちに、多少、早足で接近し始めた。照明が眩しく昼のように明るい。拡声器からも大声で「出て、こっちに来い」と言っていた。それが耳障りで腹立たしかったが、マクナルディはすぐさま、端末を取りだし、荷台の中のケスラーに告げた。「これからUターンする、お前はあれを出せ。」素早くトラックは180度、回りだし、スピードを上げ、検問所から逃走し出した。接近していた警官たちは驚いて、火器の安全装置を外し、トラックに銃口を向けた。そして、トラックの荷台のドアが開放され、ケスラーが勢いよく、缶ジュースのような物体を警官達に投擲した。強力な催涙ガス弾であった。そのガス弾が地面に落ちると一気に黄色の煙幕のようなガスが辺り一面に充満し出した。警官たちは体を地面に叩きつけ、ほぼ全員が、悲鳴を口にした。