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ゴースト・ヒーロー ~二人いるけど、ぼっちで異世界を巡ります~  作者: まずくるるスイカバー
第一章:例えるなら、ゴーストライター!?
8/10

7.「「「「「○▼※△☆▲※◎★●・・・・・!?」」」」」

今回はいつもより少し長めです。これが小説家になろうでの普通の分量らしいんですけれど……よく皆さん書けますよね。

 その頃戦場では。

 薄気味悪い濁った緑色の肌で筋骨隆々な体をもつ魔物、オークの群れが騎士たちに襲い掛かっていた。


 第一前線の拠点はオークの群れのボス、オークレッド


 ――その名の通り、通常オークとは異体の赤い肌を持つもの――


 の炎によって焼き尽くされてしまい、ここの第二前線を引けば、残るは街が荒らされる未来のみだ。


「どうして、こんなタイミングにッ」


 最前線に立つ勇敢な男の一人が吐き捨てる。


 今日は朝から

『異世界より召喚されし勇者様のパレード』

 だとかなんかのせいで第二前線の皆と第一前線の約半数がいないのだ。


 仲間の騎士の一人に王宮に行って緊急応援を要請するよう指示したが、それもいつ来るかは分らない。


 つまりは、自分を含めるこの20人ぽっちの騎士でざっと40を超えるオークの群れから街を防衛しなければならないのだ。

 

 ここから数時間もの間。

 通常時でさえ、オークはその高い耐久値と攻撃力ゆえ討伐に時間がかかり苦労する魔物だというのに。


「ったく…無茶が過ぎんだろーが!行くぞ!」


 男の掛け声で最前線に立つ第一部隊10人が100mほど先のオークたちに向かって突っ込んでいく。

 目的は時間稼ぎではない。

 長期戦に持ち込んだら、体力と手数が少ないこちらが負けるのは明白だ。


「魔術部隊は後方から援護を頼む。手段は問わない!全員まとめてぶっ殺すぞッ」

「「「おうッ」」」


 叫び、士気を高める。

 皆自然と、柄を握る手に力が籠った。

 オーク軍もこちらが攻めてくるのをみて、行軍速度を上げてきている。

 

 両軍がぶつかる、その瞬間に全てが決まる―――そう思っていた。


 見上げた夜空から、


「うわあああああああああああああ!」


 叫びながら一人の少年が落ちてくるまでは。

 

――――――――――――――


「うわあああああ~あっ」

 

 あっ、と声を漏らすタイミングで体が再び宙に浮く。

 そして、頭を下に地面に真っ逆さまの状態から鉄棒の大車輪みたいな要領で僕らは回転。

 足が下、頭が上のいつもの体勢になって華麗に着陸した。

 

 したけれども、


「足すごくガクガクする……」

「あはははははは!」

「おい、笑うなよ!こっちは必死なんだぞ!」

「だって…だって……ははは!大丈夫?ちゃんと歩けるの?」

「た、多分ね……」

「多分って、ねえ知ってる?ここ戦場だよ」

「忘れてた!」

 

 後ろには歩みを止めて訝しげな眼でこちらを窺う、鎧をまとった騎士一同。

 前からは……


「明らかに強そうなやつ来てんだけど!どうすんの!初っ端から死にたくない!」

「まあまあ、見ててよ。初めての仕事だし気合い入れ――」

 

「おい、どけ!状況が分かっているのか!」


 僕の嘆きに応えるメルを遮ったのは騎士団のリーダーと思われる人物。

 すごい剣幕で怒鳴っている。

 それもそのはず。ここは現在交戦真っ只中、その間に突然割り込んできた僕らは邪魔以外の何者でもない。

 

「メル。迷惑かけてるから一旦退こうよ!」

「あ~~!今せっかくいいとこだったのにいいい!かっこいい台詞は最後まで言わせてよ~~!」

「え?」

 

 いいとこだったのに~!?

 何でゲーム機を強制終了されたときの子供みたいな台詞をわざわざここで言ってるんだよ!

 緊迫感を欠片も感じねえよ!

 

 しょうもない掛け合いをしている内にも、体長2mにも及ぶ異世界の魔物?は迫ってきているのだ。

 おちおちしている場合じゃないのだ。


「あの~メルさん、ここは騎士の人たちに任せて――」

「はぁ…騎士の人たちに任せるって……何のためにわざわざここまで来たのさ。一応、偽でも勇者なんだから胸張って立っとくくらいのことはしよ~よ」


 呆れた顔の後に胸にコツンと一発軽いパンチが飛んできた。

 

「いや、でももう!」


 しかし、僕も負けじと食い下がる。

 なんかいい感じになった雰囲気で流されたくない!

 

 僕らがここに着いたときから徐々に加速していた魔物たち。

 そいつらが、向かう第一交戦に備え、今にも走り出しそうな勢いで進んできている。

 僕らがぐちゃぐちゃにされるのも後十数秒と言ったところだ。

 

 後ろの騎士たちの緊張感が明らかに増すのを背中で感じた。

 

 「クソがッ!あいつ頭可笑しいのか!?」

 「団長、このままじゃあいつ……」

 「もう待ってられん!行くぞ!マグは奴を安全な所まで運べ!」


 焦り、恐怖、怒り、様々な感情がこもった声が聞こえてくる。

 自分だけでも逃げてやろうか、とも考えるけれどそうも行かない。

 僕の両足は、鬼気迫る生物を目の前にその機能を失っていた。

 偉そうなことを言ってた癖に情けない。


 正直、もうちびりそうなくらい怖いです。はい。


 そしていよいよ、僕がそうやってなんて言って説得すれば……

 と優柔不断に悩んでいる隙に、


「んじゃ~ちょっくら仕事してくるよ。騎士団の皆さんにはなんか適当なこと言って止めといて、それがアキツキの勇者初仕事ってことで!」

「おいいいいいいいいいい!メルさん!?!?」

「しっかり働いてね、勇者さん♪」


 満面の笑みでメルがスタートダッシュ。

 その風で黒い地面の砂利が軽く宙に浮く。

 砂が目に入りそうだったので僕は左腕で風から目をかばった。

 着ていたジャージがひらひらと揺らいだ。


 ……行っちゃったか。

 ったく向こう見ずというかポジティブの塊というか。


 でも、不思議なことにそんなメルの背中を見ても心配にはならなかった。

 

 むしろ地面を蹴って、飛ぶようにして荒野を駆けるメルを見ていると、何か変な気持ちがこみ上げてきて、僕の内側で何かがプツリと切れる気がした。


 両足が軽くなっていた。


「はぁ~~?はぁ~~」


 右、左と交互にあげてその事実を受け入れると、そんな情けない声が出て来た。

 結局いい感じの雰囲気に流されてしまって、いい感じに心が楽になってしまっている。

 

 僕の世界はメルを中心に回っているんじゃないかと錯覚するほどに、いいように扱われている気がしたので、少し悔しい。

 是非ともこの戦いが終わったら一発叩いてやりたい所存。


 タ・タ・タ・タ。

 テンポの速い4拍子。

 

 遅れて、騎士たちが僕の元に来た。

 そりゃそうだ、一般人が戦場に勝手に来てあろうことか、丸腰で敵に向かっているのだ。来ない方がおかしい。

 で、僕の役目はこの人たちをこれ以上先には行かせないようにすることなんだけど。

 なんて言おうかな……。

 

 力が入らない脳内をフル回転させて考える。しかしもう迷っている暇はない。迷いたくない。


「すみません!ここはあいつを信頼してやってください!あいつ多分強いんで!」

 

 先手必勝。

 というわけで、振り返り頭を下げて、想いを正直に述べる。

 気持ちを込めれば、必死に頼めば、止まってくれると信じてみる。


 すると、残念なことに


 「頭可笑しいのもいい加減にしろよ!お前!お前だけならまだしもここで奴らを防げなかったら街全体がひどい目に合うんだぞ!わかってんのかッ!」

  

 一人の男にお姫様抱っこされながら罵倒されるという最悪なオチが待っていた。


 さすがは街を守る騎士だ。その腕からはツーンと酸っぱい野性的な匂いが漂ってくる。


 畜生!こんな毛むくじゃらの男に抱きかかえられるとかい形で、こんなんで僕の勇者初仕事が終わってたまるか!


「お願いです!待ってくださいいい!」


 魔物に向かって走る騎士たちにそう叫ぶ。


「刺され!火柱!!」

 

 それに呼応するように聞こえたのは、メルの声。魔法の詠唱。

  

 少し先でメルが地面に手を置いているのが見えて最後、たちまち視界が眩い炎で覆われる。

 地上から天空までに突き刺さる火柱が大地を揺らし、凄まじい熱が飛んできた。


 魔物たちの悲痛な鳴き声までもをかき消すほどの音。

 燃え盛る炎の中で次々に倒れていく魔物を幾つも見つけた。


 ほんの数秒だったか、はたまた一分ほどだったか。

 とにかく、長かったそれが止むと魔物の約半分が地面に倒れていた。

 

 でも、それだけでは終わらない。


 大技を放った後でもメルは最前線に仁王立ちし続ける。

 そんな彼女を隙あり、と猛り狂った魔物が涎を垂らしながら次々と豪快なパンチで襲い掛かる。

 メルがいた地面に向かって繰り出される一発目。

 それを皮切りに、メルがいた空間に向かって何発もの拳が来襲する。

 

 でも、そのすべてが後出しとなった。


「フローティング・アップ!」


 浮遊魔法で華麗に交わして一発。

 それから、メルは飛んでくる拳一つ一つを丁寧に相手の筋肉の動きから先を予測する。

 自分の体二個分もあるそれを、ステップを踏み、体をひねってすれすれのところでかわし続ける。


 当たるか当たらないか、

 本当にぎりぎりのところを責めるが故に魔物の軍隊丸ごとが翻弄されてしまい、あんなにきれいだった隊列が見事に乱れていた。

 魔物同士が誤って強烈な打撃を叩き込み合うところまで、現れ始めた。

 

「グアアアアアアアアアアアアア!!」


 何匹もの魔物が遠吠えを共鳴して、争いはさらに激化していく。

 その渦中で、火柱の直撃を食らって倒れていたボス格の赤い魔物が立ち上がる。

 我が軍を襲った化け物じみた少女に気付かれないように、そっと。


 腕と舌をたらりと垂らして、はぁ、はぁ、と乱れた息を整える。満身創痍な体に鞭を打ち、ボスとしての意地を見せる。

 

 そして、後ろから少女に向かって起死回生の一発を叩き込む。

 死角からの一撃。本来避けようのないはずの一撃。

 

 大きく息を吸い込んだ火炎放射が、メルの体を焼かんとする。


 でもそれにさえ、メルは気づいていた。

 極限の集中状態にあるメルは魔物が起き上がる微かな音さえ逃さなかった。

 瞬時に思考を巡らせ、迫る炎に


「ウォーターボール!」


 水魔法をぶつけて相殺。

 すぐに魔物の背後に回り込み、そのうなじにもう一度、


「ウォーターボール!」


 ゼロ距離で強烈な魔法を叩き込んだ。

 

 さしもの耐久力の奴でもそればっかりはさすがに耐え切れなかった。

 受け身をとることなく前に倒れ込んだ。


 ドンッという衝撃と共に舞った嵐のような砂埃が、一時的に魔物たちの視野を狭窄する。

 一瞬、ほんの一瞬、魔物たちの拳の応酬が止んだ。


 その隙をメルが逃す訳がない。怯みに合わせてすかさずメルが天に向かって両手を掲げる。


「サウザンド・アイス・ペネトレート!貫いてッ!」


 夜の砂漠特有の湿度の高い空気中から捻出された水蒸気が冷やされ、何百個もの鋭い氷の槍が即座に形成される。


「いっけええええええええええええ!」


 空中で反り返って反動を付けてから、体を『く』の字に折り曲げる。

 瞬く間に、天井から幾つもの小さな氷の刃が降り注ぎ、的確に魔物たちの心臓を貫き抉った。


「ヅグオオオオオオオオオオオオ!!!」


 痛みにもがき苦しむ力強い咆哮が荒野全体に反響する。

 口を押さえたホースから水が飛ぶように、魔物たちの体から大量の緑色の血が噴き出す。

 

 真っ黒な荒野の地面にそれらが雨となって降り注いだ。

 ポツポツと濃い緑色の液体が落ちて、次々と滲んでいった。

 体にかかる返り血で吐きそうになる。結構、気持ち悪い。


 そうやって、大魔法は止んだ。残ったのは今にも崩れ落ちそうな魔物が一匹。


 そいつが力なく「ぐっ」と吠えて、そのまま倒れ込む。

 ストン、と軽い音が聞こえた。


 それを最後に、誰も何も発さない、発せない、そんな静寂が辺り一面に広がっていく。しとしと、と中々止まない雨の音が異様に響き渡る。

 

 ホバリング状態で空にふわふわ浮いている一人の少女は、文字通りの血の雨を、防御魔法を傘に応用して防いでいた。何百もの死体の上に立つその背中は、昔物語で読んだ戦闘狂の勇者にそっくりだった。

 

 数秒して、雨は止んだ。

 すると、機会を見計らっていたように皆が一斉に


「「「「「○▼※△☆▲※◎★●・・・・・!?」」」」」


 思い思いの言葉を発した。そして、その興奮は突如現れた救世主への賞賛に移り変わっていく。


「すげええ!すげえよ!メル!!かっこいい!!」

 

 僕も同様に叫ぶ。精一杯拍手してメルを称える。

 自分の5倍ほどの大きさの生物に対して、ばっさばっさと無双していく彼女に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。

 

 そして、興奮醒めぬまま騎士たちは



 『僕』の体を持ち上げて、胴上げを始めた。




「勇者様、ばんざーい!勇者様、ばんざーい!勇者様、ばんざーい!」

「さすがです。勇者様。あれほどの大魔法を無詠唱で、しかも手をかざすだけで発動するなんて!」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」


 体が揺れて目線が大きく揺れる。ぶれぶれの僕の脳内は混乱していた。


 どうして、僕が胴上げされてんの??

 されるなら普通はメルじゃない?セクハラとかそういう面の問題?

 でも、それでも僕が持ち上げられる理由にはならないよな。

 どういうことだ??


 その答えは、時を置かずに知ることとなる。

 

 目線を移したその先、いたずらっぽく微笑んだあの子が10m先から振り返ってぼそっと言った声は、むさ苦しい男たちの歓声の中でもはっきりと聞こえた。



「ふふっ、実はね……私の姿、君にしか見えないんだ。」

「!?」


 予想通りの表情をした、と嬉しそうに空中で飛び跳ねてメルは続ける。


「分かった?アキツキを本当の勇者にするってこういうこと。アキツキの代わりに私が戦ってアキツキを勇者にするの」


 そこまで言うと、メルは何を思ったのか僕に向かって急降下。

 そして、キリっとした表情で。


「例えるなら……ゴーストライター、みたいなもんだよね。私たちはゴースト・ゆう――ちょっと語感悪いな……。そう、ゴースト・ヒーローなのだ!」


「ゴースト……ヒーロー。」

 

 知らず、

 僕はそのカタカナ8文字を呟いて、それが指す意味を反芻していた。


 そしてその30分後。ようやくやってきた魔物討伐応援軍の馬車(馬の代わりに小型の竜だったから、竜車?)に乗って、僕たちは王宮へと帰ることになった。

 

 「明日何する?」だとか「アキツキの元いた世界ってどんなの?」だとか帰り道ではそんな他愛のない話をメルとずっと繰り広げていた。


 故意かたまたまか、その会話にはゴースト・ヒーロー「ゴ」の字すら出てこず、それは再度歓迎パーティーが執り行われた翌日でも、ポツポツ一日中雨が降り続けていた翌々日でも、同じだった。

 

 

いかがだったでしょうか?初の戦闘シーン!途中で自分の文才のなさに絶望して、戦闘シーン全カットとかいう暴挙を試みていたんですけど、なんとか納まるところに納まりました。


次回、日常回!だったらいいんですけどね……。

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