6.翼が見えた気がした。
今回は会話文だけ読んだら、何書いてんのか訳わかんないんで、良かったら地の文も読んでくださると嬉しいです。
「もしかして怖いの?」
メルが微笑みかける。僕が急に力を入れたから何かを察したのだろう。
少し意外だった。てっきり馬鹿にされるのかと思っていたから。
「いや、別に……あ、うん。少し」
拍子抜けして意地もはれない。
「ふっ。安心したまえ、怖がることはない。全くもって大丈夫さ。……その右手を離さない限りねッ!」
メルの顔が得意げになって、ああやっぱり意地を張るべきだったと思った次の瞬間。
一気に高度は上昇。
「ぐああああああ!」
僕の情けない叫び声だけが地上に残されていく。
遠く彼方の雲か星かを目指して一直線で昇るその様はまるで、この世界の重力が一瞬の内に反転したかのようで。
月並みだけど空に落ちているみたいだった。
恐ろしい威力の風にやられそうな意識を気合いで保つ。
住宅街に密集したレンガ色の屋根やね。
一定の規則性のない区画の中央にぽかりと空いた広場。
噴水の前で誰かが楽器を弾いていた。
どうやら、瞬きしている間に、街全体を見渡せる高さに達したようだ。
昼の賑やかな雰囲気とは一転、
ぽつりぽつりと何百もの家から少しずつ漏れ出した温かい光と街灯が夜の街をほのかに照らしている。
まだ記憶に新しい、昼間歩いた大通りの石畳に等間隔で円形のスポットライトが当てられていた。
昔、姉さんに読んでもらった絵本の世界を思い出す。
「わあ~綺麗……」
「うん……」
ため息を吐きながら自然とそんなやり取りをしてしまう。
そして……視線を上げて現実を見る。
静謐な夜の街の少し先には燃え盛る争いの火が見えていた。
メルの言った通りだった。
風の音でかき消されているだけで、耳をすませば騎士たちの野太い咆哮すら聞こえてきそうなくらいの赤だ。
「あそこに行くんだよね」
「はっ!うん、そうだよ。危ない危ない、ゆっくりしてる場合じゃなかった……。じゃあ、行こっか!」
メルは大きく息吸って、気合いを入れると、
「んじゃ、安全運転かつ急いで。しっかり捕まっときなよ!」
まるでそこに透明な地面があるかのように空気を蹴って、お腹を下に地面と平行状態になる。
それに合わせて僕の体も勝手に、体が九十度前に回転され水平になった。
街全体が視界に入る。鳥になったみたいだ。
「行くよ!」
「おう!っつわあああああ!」
掛け声と同時にメルが加速し始めた。
眼下に広がる綺麗な夜景が一気に縦に伸びてはっきりとした形を失う。
家々や街灯からの光がまとまって、一つのぼやけた光の塊になって、物凄い勢いで流れる街の中で現れたり消えたりを繰り返す。
ほどなくして、その間隔が短くなって、僕は飛行速度が最大ギアに移行されたのを感じる。
全身に吹きつける少し強めの風。
形を失った通りの風景。
空を飛ぶためのエンジンなのか、足の方で轟轟となっている魔法の音。
「あははははは!」
底抜けに明るいメルの笑い声がそんな轟音の中から拾い上げられる。
そのたびに、興奮のせいか僕の鼓動は速くなっていく気がした。
夢にまで見た現実からの逃避と、異世界での冒険。
だけど、異世界に行ったところで結局僕は僕のままで勇者の偽物、代替品にすらなれなかった。
劣等感に苛まれた。
みんなから向けられた期待が辛かった。
嘘を吐くことの罪悪感が胸の奥で今までずっととぐろを巻いていた。
どう頑張っても先の見えない将来に不安しかなかった。
でも、がんじがらめになったそういった感情が、吹きつけられる風に乗って飛ばされていく気がする。
寒さの中感じるメルの手の温もり、それさえ放さなければどこにだって行ける気がする。
つまらない現実、いや現実をつまらなくしている僕自身から抜け出させてくれる気がする。
僕はなんだか楽しくなってきた。
「あはははははは!気持ちいい!」
大きな声で叫ぶ。息が続く限り叫び続ける。
そうやって異世界に来てから溜まり続けていた感情を空にぶつけきって、夜の澄んだ空気を大きく口を開けて吸い込んだ。
くすんだ脳が、視界が、心が、クリアになるのを感じる。
もっと楽しくなってきた。
「スピード!もっと上げて!」
勢いのまま叫ぶ。
「了解!でもあとで風邪引いてもしらないからね!」
その時。そう返したメルの背中に。
ピーターパンのように両手両足を広げるメルの背中に、翼が見えた気がした。
『次回、戦闘シーン』とは……!?
あらすじ改変の件といい、今回といい、展開詐欺が多いですね。天才詐欺師になりそうな勢いです。今、おもったんですけど展開詐欺と天才詐欺師ってちょっと似てますね。どうでもいいですね。
相変わらずの小出しですみません。毎日の息抜きとして書いているので、文章の稚拙さは目をつむって、感想欄で存分に叩いてくださると作者の励みになります(ドM)
次回、戦闘シーンです。94パーセントの確率で。