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ゴースト・ヒーロー ~二人いるけど、ぼっちで異世界を巡ります~  作者: まずくるるスイカバー
第一章:例えるなら、ゴーストライター!?
6/10

5.そーれっ!フローティング・アップ!空を舞わせて!

「僕がメルと一緒に本物の勇者になる?」

「うん、そう」

「それってどういう……あれ?ねえちょっと待って」

 

 聞き流せない一言が入っていた。

 混乱状態にある脳内の暴走を声に出して、止める。


「どうしたの?」

「どうして、どうして僕が偽の勇者だって知ってんの!?」

 

 止められなかった。


「え!?そんなに演技下手くそだった?あれでも精一杯僕の中の勇者像になりきったつもりだったんだけど、え!?え!?いつから、いつからばれてた?あ、さっきかさっき見られて――」

「いややや、ちょっと待って待って。すとーっぷ」


 まくしたてれば、まくしたてるほど、徐々に最初の正座から腰が浮いていく僕の体を再びメルが沈める。鎮める。


「ちょっと、想像以上に小物感すごいね。アキツキ」

「重々自覚しております」

 

 冷静にしようとして冷静になれなかったなんて、勇者にならない方が良かったと思えてきた始末だ。

 頭を垂らして、メルの話に耳を傾ける姿勢をとる。


「まず一つ目。安心して、アキツキが偽の勇者だってこと、街のみんなにはばれてないよ。言いふらす気もないし」

「はい。ありがとうございます」

「次に二つ目。どうして私が、アキツキが偽の勇者だって知っているかと言いますと」

「はい」

「あのーえっと……」

「はい」

「昼間、ぶつかった時からずっとアキツキの後ろをつけてたというかなんというか」

「はい」


 ん?つけてた?首を縦に振る機械に異物が混入して、作業は一時中断。

 僕はゆっくり顔を上げた。


「は?」


 こっわ。何いきなりとんでもないこと言い出してんだ、この子は。


「や、違うの」

「違いますよね」

「あのー付けてたは付けてたんですけど」

「は?」

「……理由が!理由がありまして」

「うんうん」

 

「私、久しぶりに人と会話できてうれしかったんですよ!だからもっと仲良くなりたいなーと」

「はぁ………」

 

 わからん。一ミリたりともわかんない。

 

 そもそも窓から入ってくる時点で割と察してたけど、もしかして僕は現在進行形で相当おかしな子に絡まれてるのかもしれない。


 ぶつかったのを運命の出会いだとかいって因縁つけて、ストーキングして、今現在部屋に押しかけている、メルヘンチックとかいうレベルじゃない……。

 もしかして、異世界の人って皆これが普通なの?これが世界基準の出会い方なの?


 けれども、僕はちょっと前まで日本人だったのだ。

 異世界人の倫理観とかをまだ完全には受け付けられない。

 受け入れられないのだ。許して貰おう。


「あのー本当にぶつかってしまったのは、申し訳ないと思っていますんで、これで、僕のこの土下座に免じて許してもらえないでしょうか?これ以上因縁をつけられましても、差し出せるものはないんですよ」


「え?なんでいきなりそんなへりくだって……。あれ?でもたしかに、道端でぶつかっただけの人の部屋に今、入り込んでいるってもしかして危ない子?客観的に見て、私って危ない子だったの?」


 メルが何かぶつぶつつぶやき始めて、僕は依然土下座を続けて、いよいよ会話の軌道が迷子になっていたその時、


「勇者殿、お食事を持ってきました」


 お手伝いさんの救いの手が差し伸べられた。

 勢いよく顔を上げると、視界が開けて瞳孔が輝くのを感じる。


 よし決めた、お手伝いさんにメルのことを伝えて今日の所は帰って貰おう。

 2秒とかからず、ベッドから降りてドアを開ける。

 しかし、お手伝いさんは顔を見せることもなく、少し空いたドアの隙間にプレートにのった食事を押し込んで、


「お食事を食べ終わりましたら、廊下に出しといてください。後で回収します。……あと、おだいじに~」

 

 事務的に連絡事項を告げて、足早に去って行った。


「ありがとうございまああす!って聞こえてないか、冷たいな~もう」

 

 僕が勇者ではないことが分かってから明らかにみんなの対応が変わっている。

 まあ、どの世界でもそういうもんか。でもなあ。

 

「……ったく、勇者じゃないにしても一応取引をしている相手同士なんだし、もうちょいコミュニケーションがあってもいいのに」

「……ふ、ふ」

 

 僕がそう愚痴ると、相手をおちょくる意識が込められた空気が漏れ出る音が返ってきた。


「おいそこ、何にやにやしてんだよ!」

「やー、私のことはお手伝いさん分かんないわけだし、部屋で一人で叫び続けるアキツキってどう見えたのかなって」

「あっ!そういうことかあああ!」


 メルはこの城に侵入してきたのだ。

 お手伝いさんがメルの存在を知ってるはずがない。

 だから、あれは僕が偽勇者だとかそういうこと関係なしに、


 ただ単純な頭のおかしい人に対するしかるべき三歩引いた対応だったということだ。


「おい、おいおいおい、勇者どころか偽勇者にすらなれてないんだけど!?変態の烙印そろそろ押されるとこなんだけど!?」

「まあまあ、ご飯食べたら落ち着くよ。プレートちょうだい。一緒に食べよ」

「はぁ~~~ベッド汚れるの嫌だからこぼさないでね」

 

 プレートに乗ってるのは表面にほんのりと焼目がついているステーキ(原材料不明)ナンに近いパンっぽい何か(原材料不明)危険な匂いがぷんぷんするスープ(原材料不明)の三品。


 異世界に来てから初めてのご飯で嬉しいし、今にもかぶりつきたいんだけど……。正直、怖い。特に紫色のスープ、大丈夫なのかこれ。


「わあああ!すごい豪勢!」


 メルの反応を見るに、多分高級な料理が出てるんだろうけど。


「えっとーこれ、食べても大丈夫なの?」

「んーんー!ううんんん!」

「ってもう食べてるし~」


 本当に無茶苦茶な人だ。

 でも……まあこんなえぐい見た目だけど、食べなきゃ生きていけないよな。

 お腹すいてるし。


「ふぅ~しゃーなし、いただきます」

 

 とりあえず、一番安全そうに見えるナン(仮)からちぎって一口。口に入れてみる。


「ん!おいしい!」


 一つ噛むごとに、表面に塗りたくられたバターが、もちもちとした食感の生地に馴染んでいく。

 噛むことによってバターがパンに練り込まれる分量が変わるのかな?

 

 詳しい事は全く分らないけど、おかしなことに味がころころと変わる。

 食べてて全く飽きない、噛むのが楽しくなってくる。


 異世界の料理いいかもしれない!次はステーキだ!

 

 目を中央の皿にやる。

 誰かさんによって律儀に半分だけ残してあるそれをナイフでさらに4等分。

 鰹のたたきのよう表面と中央の色がくっきりと分かれた見るからにおいしそうなそれにフォークを……ってあ~もう使われてるし。


 メルの手元に置かれたフォークの表面に滴る肉汁がキラリと光る。


 手が汚れるのは嫌だけれど、滴っているそれが本当に肉汁かも分らないあのフォークを使う方が色々と僕の神経がすり減りそうなので、仕方なく手づかみで一つとる。


 熱い、熱々だ。

 しかし、力を込めると肉汁が出てきてしまうので油断はできない。

 熱に耐えながら勢いよくそれを口に頬り込んだ。


「フォーク使わないの?」

「ぐふっ!ん!ん!ん!」


 一口も噛むことなく飲み込んでしまった。


「それ、君が言う?」

「私気にしないタイプだよ」

「僕が気にするんだよ!」

「何を?」

「じゃあ逆に何を気にしないの?」

「うーん……表面の肉汁の分だけアキツキは得をしている!ずるい!とかかな」

「ニヤニヤしながらとぼけられても困るんだけど……分かってるでしょ、絶対」

 

 肉汁一滴で得!とかどんだけ食に対して真摯なんだよ。

 お茶碗に米粒残ってるよっていうレベルじゃない。

 僕を勝手にそんなひもじい人間に仕立て上げられても困る。


「え~まあ、分かってるけどさ。めんどくさいな~~。はぁ……洗えばいいんでしょ洗えば、ウォーターボール!水よ~でてこーい」


 メルがそう言って気だるげに指を天井に向けると、先端に水が集まり球を形作り始めた。


「え?何してんの?何これ?」

「魔法だよ、アキツキのいた世界ではなかったの?物を焼けたり色々と便利だよ」

「魔法って……はぁー」

 

 やっぱりきっちりファンタジーしてんなーと感嘆の息が口を出ていく。

 思い返せばため息しか付いていなかった今日で、初めての有効な息の使い方かもしれない。


「よっと。これくらいでいいかな」


 大体野球ボールくらいの大きさにまでなった水の球の中にフォークを差し込み、ぐるぐると混ぜる。

 ゆらゆらと波打つ水面にフォークの表面の銀が揺らぐ。

 目を丸くしてそれを見ていると、突如球の中心部から空気が湧きたった。

 僕はそれを、昔姉さんが飼ってた金魚の水槽のポンプみたいで綺麗だな~。

 

 なんて思っていたのだが、


「あれ?おかしいな魔力の調整が…」


 顔色を変え、焦るメル。

 水の球はその内部で発生し続ける空気によって風船サイズにまで膨張。そして


 パンッ!!!


 大きな音を立てて破裂した。

 自然、油混じりの汚い水が辺りに飛び散る。

 ベッドから壁から絨毯から、水の近くにいた僕らは特にびしょ濡れだ。


「え?え?何してんの!全然便利じゃないじゃん魔法!」

「……アキツキ。来たよ」

「何が?」


 僕の悲痛な叫びを完全にスルーしたメルは不敵な笑みを顔に浮かばせながら一言。


「私たちの初仕事」


 互いに汚い水をぶっかけられて気持ち悪いはずなのに、僕は頭に浮かんだ無数のクエスチョンマークで、メルは何が嬉しいのか顔に笑みを浮かび続けていて、それには全く触れられなかった。


「さあ!行こう!」

 

 僕が詳しい説明を待っている内に、メルが僕の手をまた掴んだ。

 掴みとってガタン、と扉を蹴って、飛び出した。


「え!?え!?どうしたの?何してんの?」

「ここから街を出たところにある草原に強い魔力波を感じる!そんでもってすごい勢いで私たちの町に向かって来ている!さっき私の魔法が暴発したのもそれの衝撃のせいなの!」

「ということは?」


 次から次へと変わっていく状況に未だ全く頭が追いつかない。

 そんな僕を全速力で引っぱりながら王宮の廊下を駆け抜けるメルは叫ぶ。


「私たちが本当の勇者になれるチャンスが来たの!今から魔物討伐しに行くよ!」

「はああああ!?ちょっと、ちょっと!」

「止まらせないよ!」

「ええええええ!?」


 突如王宮に現れた不審者と今日異世界に来たばっかりの偽勇者が手を繋いで、神聖な所も時間も気にせずに走り回っている。

 その光景に掃除中のお手伝いや来客の貴族はおろか、修行中の騎士や王様からさえも視線を感じる。


「あはははっ!はははっ!はははははっ!」


 でも、そんなことおかまいなしに周りの目線なんて気にせず、むしろ心底それが嬉しいようにメルは幸せな笑い声をあげて、走る。奔る。


 いくつもの客室を追い越して。

 お手伝いさんたちや騎士の人たちの生活感溢れた寮部屋の数々を追い越して。

 煌びやかに装飾された食堂や応接間を追い越して。

 バカでかいと思った庭園なんて一瞬で過ぎ去って。

 昼の広間になんて目もくれずに、僕たちは走り続けた。


 そして、ようやく王宮の外へ。

 僕とメルに呆気にとられていた騎士たちが慌てて、僕らを制止するのよりも先に出ていく。

 引き上げられた跳ね橋を見て、どうすれば?と悩むのも束の間。口に出す前に


「あははは!ちゃんと捕まっといてよ!」


 メルが動く。


「え!ちょちょ!今度は何を!」

「そーれ!フローティング・アップ!空を舞わせて!」

「な!な!うわああああ」


 唱えると、ふわり。

 ジェットコースターに乗った時に感じるのとは比べ物にならなない無重力感が僕の体を襲った。


 体に力を入れられないまま、徐々に空に上がっていく。

 

 地面からつまさきが離れた。僕と地面とをつなぐものはなくなって、太平洋のど真ん中でもがいている気分だ。

 

 地面がどんどん遠くなっていく。

 今、手を放せば骨折程度で済むかもしれない。今ならまだ……。


 けれど、僕の手がメルから離れることはなかった。

 それどころか、目先で輝く非日常の存在に一層強くメルの手を握らされた。


書きたいこと書きまくってたら深夜三時三十分デスヨ現在。

次回、初の戦闘シーン入ります。

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