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ゴースト・ヒーロー ~二人いるけど、ぼっちで異世界を巡ります~  作者: まずくるるスイカバー
第一章:例えるなら、ゴーストライター!?
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1.絨毯触ってるだけで満足だったんです

 長い夢から覚めると真っ先に、ふかふかすぎるベッドの感触に違和感を覚えた。


「……?」

 

 両目を開けて閉めて開けて。

 寝ぼけ眼をこすってもう一度閉めて開けて。

 そうして僕は知らない天井が視界いっぱいに広がっている事実を受け入れる。


 ここ、どこだ??


 腕で体を起こそうにもふかふか過ぎてどうにも力が入らない。

 仕方なく腹筋に力をこめ、筋トレみたくベッドから起き上がった。

 

 周りを見回してみる。


 まず、ベッド。

 マットレス、頭の方にある板、枕に至るまでそのすべてに装飾が施されており、四方を謎の薄いベールのようなものが取り囲んでいる。

 

 確か天蓋っていうんだっけ、実物で見るのは初めてだ。

 

 寝ぼけた頭はそんな淡白な感想を抱くだけで、自分がお姫様ベッドに寝ていたことなんかはそこまで気にならなかった。

 次は床に置いていたスリッパに脚を入れ、広すぎる部屋の中を徘徊してみることにした。


 金の刺繍が入った時計。

 白ベースでシックな雰囲気のドレッサー。

 この世のものとは思えないほどの温かさ、柔らかさを誇るこのスリッパと床の絨毯。


「こんなうちご近所さんにあったっけ……。あ、夢か。そしたらこの夢、現実感すごいな」


 純白の絨毯に手を置いて、平泳ぎの要領で触れてみる。

 わさわさ~、思わず天国に飛んで行ってるかのような幸福感が身を包む。


「ひとかき……ふたかき……さんかき……♪」


 深雪を踏みしめていくときのあの謎の背徳感も相まって、さらに気持ちいい。

 僕が触れたところだけ若干黒く染まってたりしないかな。大丈夫かな……。


「ま、いっか。よんかき、ごかき……」


 触れてしまったものは仕方ない。

 諦めて再び絨毯の感触を楽しんでいると、不意に。


 コンコン、カチャリ。


 部屋の中に数回のノック音が響き、出口のドアが控えめに開けられる音が聞こえた。


「あの~目を覚まされましたか?え……!?」


 ドアの隙間から覗いたお手伝いさんの顔にドン引きの四文字が浮かびあがった。

 

 見られた……。


 恥ずかしさで僕の顔が熱を帯びていくのを感じる。


 見られた!絨毯を恍惚とした表情で撫でいるところを!


「あははは、うちの絨毯に満足なさっているようで、嬉しいです」

 

 悶々としている僕をよそに部屋に入ってきたお手伝いさんもまだ完全には切り替えられないようで、顔にまだ苦笑の影が残っている。


「い、いえーこちらこそ……」


 絵の具を水に溶かした時みたいに、恥ずかしさと気まずさをごちゃまぜたものが胸の中にわーっと広がっていく。


「王様が呼んでおります。早速向かいましょうか、勇者様」


「はい。……勇者?勇者!?!?」


 熱で会話の内容にさほど集中できてなくても、その二文字は僕にとって衝撃的すぎて聞き逃せなかった。


「勇者ってどういう?あの、あれ、えっとー!そうですよね!」


 パニックで、薄っぺらすぎて訳わかんない言葉が飛び出る。


「落ち着いてください勇者様、王様の所で全てを話します」


「は、はい」

 

 上品な微笑で諭され、深呼吸を一つ。僕たちは王室へ歩き出した。


―――――――――――――


 さて、王室の前についたわけで。

 歩いてるうちにある程度、僕の意識も覚醒したわけですけれども。

 

 それでも、一つ!

 一つ言わせてください。大変なことになったな~って。


 大体、客室から広間まで数十メートルあるってどこの財閥!?

 廊下は廊下でなんかランプとか灯ってて、ほんのり薄暗い感じですげー荘厳な雰囲気漂ってるし?

 左側の廊下の壁、一面ガラス張りだったから外見えたけど、庭園あったぞ!?

 それも、恐竜一匹買えそうなくらい広い奴。


 恐竜見たことないけど!!!!


 怖い怖すぎる。

 夢ならいい加減覚めてくれ~~、っていう感じだ。

 僕はあの夢のような絨毯触ってるだけで満足だったんです~、っていう感じだ。


「どうしたんですか?入りますよ。緊張なさらなくても大丈夫です」


「ははは、はい」


 優しくリードしてくれるお手伝いさんに緊張どころじゃないよ!なんて言えなかった。


「では、行きますよ。勇者様がいらっしゃられた!扉を開けよ!」

 

 お手伝いさんの叫びに呼応して、僕の体の数倍はありそうな大きくて重い扉がゆっくりゆっくりと開かれていく。

 

「……ッ」


 薄暗い廊下とは打って変わって何十個ものシャンデリアが輝いている王室は少々眩しくて。

 思わず、目を細める。

 

 でも、そうするや否や前から左から右から、津波のような歓声が押し寄せてきた。


「勇者様ー!」「世界の救世主がいらっしゃられた!」「あああ、神よ~!」

 

 眩しいなんて言ってられない。

 歓声の返事をするべく、手で光を遮りながら目を見開く。


「………」

 

 言葉を失った。


 そこにはさらなる驚愕の光景が僕を待っていたのだ。

 

 王様と女王が佇んでいる玉座までの赤い絨毯。

 その両脇には目算数百にまでおよぶ騎士やお手伝いさんが僕に対してひざまずいていたのだ。


 そして、僕は全てを察した。

 ちょっと前、友達が嬉々として進めてきた小説が頭に浮かんでくる。


 ジャンルはファンタジー、だけどちょっと違ったもの。

 冴えない主人公がトラックに轢かれて……。


「異世界に召喚されたのか。僕」

こっから結構スローペースの更新です。許してください。

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