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最弱の代行者  作者: ひとみ
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引っ越し

朝の3時。まだ太陽が顔を出さない時間帯だ。


俺の朝は早い。俺に睡眠は必要無いのだ。だって堕天使だから。エネルギー効率がハンパないんだ。


場所は屋敷の外。完成した屋敷をバックに置き、前で眠そうに目をこする女共を見下す。シロとナイトとリュウだ。叩き起こしてきた。


シロは寝覚めが良くて確り立っているのだが、ナイトとリュウは別だ。こんな素晴らしい日が来たというのに、腑抜けたツラで欠伸をかいている。


「おいテメーら。今日からダリア様がここに住む事になるが、覚悟はできてんだろうな? おいそこ2人、お前達に言ってんだよ!」


キレた俺は足下の石ころをナイトとリュウの頭に向かって投げつける。


石ころは見事に2人の額に直撃し、リュウがそのまま倒れた。


「……ねえ、ルシファー。まだ3時なんだけど」


額を押さえたナイトが愚痴を叩く。まだ覚醒しきってないせいか、身だしなみがだらしない。


「もう3時、の間違いだろ」


「いや、貴方の常識は私達に通用しないから。まだお休みの時間なの」


「……そーだそーだ、横暴だ。訴えてやる……!」


リュウが応戦してきた。


「……ボクらは睡眠が必要なんだよ、キミと違ってね。寝不足は美容の大敵なんだよ……? ボクの成長が止まったら、ルシファーはどう責任取ってくれるの……?」


「俺の髪の毛1本やるよ」


「それより、私達をなんで起こしたの? 暇潰しの相手でもして欲しいの?」


「ちげーよナイト。ほらアレだよ、決意表明。ダリア様が来る前の最終確認だ」


「それ今やらなきゃ駄目なの? なんでこの時間なの?」


「バカ野郎! 決意表明は今の時間じゃなきゃ意味無いんだよ!」


「なんで?」


ナイトの口調に疲れが見え始めてきた。イラつき度も溜まっていそうだ。リュウなんかさっきから黒いオーラ出してるし。


仕方無いからナイトの質問に答えるか。


「だって今起こせばお前達の面白い顔とか見れんじゃん?」


「は?」


「暇潰しに付き合ってくれてありがとう。大変満足しました。あ、お前達のダリア様へ忠誠心は死ぬほど知ってるからやっぱ決意表明は無しで。もう寝ていいよ。解散!」


笑いながら手で虫を払うようにヒラヒラ動かすと、ナイトがキレて頭突きしてきた。


「……あ、ちょ、待てって。遊び心だったんですって」


「私は遊ぶ時はいつも全力よ」


ナイトが眉間にシワを寄せてひたすら肩パンしてくる。痛いな、止めろよ。


追い討ちをかけるようにリュウが俺の天使の翼に噛み付いてきた。


「あ、待ちなさいリュウ、噛むなよ。手入れしてんのが無駄になるじゃんかよ」


「……心外だなぁ。ボクは手入れをしてるんだよ」


そう言ってほくそ笑み、リュウが俺の羽をむしり出す。流石にそれは止めて欲しいので、謝罪をしてみる。


「ごめん、悪かったって───痛っ! ちょ、謝ってんじゃん! 腹パンはないわ!」


「遺言はそれだけでいいの?」


「はい。ごめんなさいです」


ナイトの圧に潰されて土下座してやった。反省は別にしてない。


「俺が悪かったです。でも、暇な時にまた起こしに行くのでその時は宜しくお願いします」


そう丁寧にお願いしたにも関わらず、ナイトとリュウが蹴ってきやがった。ふざけんな。俺が悪いみたいじゃないか。


「待てって! 話を聞け!」


痛いのは嫌なので弁解を試みる。


「シロを見てみろ! 夜中に起こされてもお前達と違って全く怒っていない。それに綺麗な姿勢を保ち続けている。それに比べお前達はなんだ? 身なりがだらしない上に平気で欠伸をする。女性としての恥じらいはないのか?」


「……ねえルシファー、キミかなり無茶苦茶な事を言ってるよ?」


自分を正当化しようとしたらリュウに指摘されてしまった。いいんだよ、無茶が過ぎれば道理が引っ込むんだよ。


「あと言っておくけど」とナイト。「シロ寝てるからね」


マジかよ。分かりにくいな。


本当に寝ているのか確認する為、そののっぺらぼうに油性ペンで顔を描いてあげた。しかし反応が無く寝息も微かに聞こえるので、本当に寝ている。マジで分かりにくい。



ま、この後みんなにこっぴどく叱られたけど。



 ☆



さて、今日も晴天である。雲一つ無い青空だ。今日は最高気温更新らしい。雨は嫌いだが、こうも暑い日が続くと恋しくなる。雨降ると涼しくなるし。


で、話は変わるが、ついに城が完成したらしい。宣言通り2週間キッカリで。ナイトが嬉しそうに知らせに来た。


規模的には城じゃなくて屋敷に近いらしいが。どちらにしても尋常じゃない速さだ。一体どんな手品使ったんだよ。


まあそんな訳なので、俺とイサメとナイトで荷造りをしている。猫ちゃんはダンボールに入って毛繕いしてる。


王都に引っ越して来る時にはダンボール4つで済んだ筈なのに、2年半経った今では物置が溢れ返っていてビックリした。


中は漫画とか雑誌関係ばかりだ。そういやイサメに、綺麗にしたいから仕分けしてくれ、と言われてた気がしないでもない。


勿体無いじゃん、って言ったらイサメが黙っちゃったような記憶もある。


貧乏性なんです、はい。ゴメンねイサメ。



「……えーっと、なんだコレ」


荷物を年末の大掃除並みに整理していたら、懐かしい物を見付けた。


刀身は柄からもげていて使い物にならない木刀である。


夏休みに入る前のあの日の事が頭をよぎる。イサメ達を召喚したあの日だ。護身用で持って行くも火の玉にあえなく敗北した思い出が目蓋の裏に甦る。


ついでにビビりまくっていた自分の事も思い出してしまったので、直ぐに頭を切り替えた。


要らないのでゴミ袋に突っ込むと、


「ダリア様」


イサメがそのゴミ袋から木刀を回収した。


「ん? 何?」


「この木刀は廃棄されてしまうのですか?」


「だってそれ折れてるからね。使えないでしょ」


「わたくしが戴いても宜しいでしょうか?」


「え」


言葉が詰まった。使い道ないだろ、それ。


「な、何に使うの?」


「ダリア様の恩恵を受けた木刀です。刀身と柄を接着し、肌身離さず常時帯刀させて頂きます」


恩恵ってなんだし。それ土産で買っただけなんだけど。


「そ、そうか。欲しいならあげるよ」


「ありがとうございます」


廃棄物をあげただけなのにイサメがひざまづいて頭を垂れてきた。だからオーバーリアクション過ぎんぜ、君。


「なあコレ、荷物ってどうやって運ぶの?」


俺はふと気になったので聞いてみる。ナイトが飛行魔法で飛ばしてくれんかな?


「荷物ですか? こうします」


ナイトはそう言ってガムテープで封をしたダンボールを膝ぐらいまで持ち上げる。


「よいしょ」


そのまま荷物を積み上げるような動作をしたかと思うと、ダンボールがぐにゃりと歪み、消えた。


「……え?」


状況が理解できずに目をこする俺。……あれ、可笑しいな。視力落ちたかな。


「な、に、したん?」


「えっと、異空間を造りました。ほらこの通り」


ナイトが虚空に向かって腕を伸ばすと、肘から先が消えた。


「ここ、少しですけど陽炎みたいに揺れてますよね? 異空間に繋げて収納スペースを作りました。荷物はここに入れるので大丈夫ですよ」


「へ、へぇ~」


相変わらず凄い魔法使うな、この人。全国の主婦&主夫の方々が喜びそうな魔法だ。


「あとさ、ナイト。もう1つ聞いていい?」


「なんですか?」


「君の髪の毛……独りでに動いてない?」


さっきから気になっていた。ナイトの赤のツインテールが意思を持っているかのようにダンボールに荷物をまとめているのだ。


「魔法ですね。操作系の」


「ナイト殿、その髪の毛が蛇みたいで気持ち悪いそうですよ。ダリア様を傷心させるとは何事でございますか?」


イサメがキッとした目でナイトを睨み付ける。


……いや、気持ち悪いなんて思ってないし、そんなんで傷心するほどメンタル弱くないんだけど。


「……切ります」


ナイトが消沈しそうな声でツインテールを掴んでハサミを取り出したので、焦った俺は制止を試みる。


「い、いや待て! 大丈夫! 綺麗だから! そりゃあもう宝石みたいに!」


「綺麗……ですか?」


「あ、うん。綺麗」


「綺麗……私が?」


「いやうん、髪だよ、髪。美人だとも思うけど」


「び、美人……!?」


ナイトは『美人』と言う言葉を復唱しながら両手を頬に当て、顔を真っ赤にしてくねくねと動き出す。


「……いや、そんな、美人だなんて! そんな……もうダリア様! 美人だなんて!」


ナイトがバグった。


しかもツインテールで器用にハートまで作っているというオマケ付き。


「……はぁ、全く」


イサメがやれやれといった感じで溜め息を吐いた。


「ナイト殿、ダリア様の前でそのような醜態を晒すのはどうかと思いますが」


イサメがブーメラン発言してる気がする。ちょくちょく鼻血出す君が言える事ではないな。


よし、君も褒めてあげよう。


「でもさ、イサメも美人だよね。スタイルも良いし───って、ああああああああああああああああ!!?」


イサメの頭が落ちた。


いや、マジで。


鼻血出しながら首がグルングルンと高速回転して落ちた。鼻血撒き散らしながら床をバウンドして転がって、ナイトにぶつかってようやく止まった。


そんな光景見たら耐性の無い奴は誰でも叫ぶだろう。尻餅もつくだろう。軽くホラーだよ。そういやこいつ自動人形とか言ってたな。


ナイトがイサメの頭を拾い上げ、目を合わせる。


「ねえイサメ。貴女、人の事言えるかしら?」


「……言えませんね。申し訳ありません。ですが、喜ばずにはいられますか?」


「それ分かる」


「お前らダリア様の前だぞ。いつまで遊んでいるつもりだ?」


不意にコロネの低い声が響く。


その言葉を聞いたイサメとナイトの表情は青ざめたものに変わり、マッハでひざまづいてきた。


「も、申し訳ございませんダリア様。この失態は許されるものではありません。如何なる処罰をも受けます」


「こ、この失態を返上する機会を下さい! お願いします! 私のわがままを、どうか……」


消え入るように小さくなるイサメとナイト。そんな2人を見て困惑する俺。


別に土下座する事じゃないでしょうに。今まで土下座する側だった俺からすれば、土下座されるのには抵抗がある。寧ろ謝られること事態に抵抗がある。


「き、気にしてないから。大丈夫だから。だから引っ越しの準備しちゃおう。ね?」


「あ、ありがとうございます! 寛大なるそのお心に見合えるよう、精進致します」


「ダリア様……一生付いていきます!」



謝られる度にこの下り毎回やるけど……凄い疲れる。



荷物を整理を続けていると、またも目が釘付けになる物を見付けた。


大量の飴だ。


ただの飴ではない。サポートツールと呼ばれる、魔法を使えない人達への救済措置の道具だ。


照明をつけるにしても、湯船を張るにしても、魔法は必要になる。


電源を入れる時、蛇口のバルブを捻る時、一度魔法を介さなければそういったものが使用できない。


この時に使うのが“生活用魔法”だ。


体内にある魔力を、何の威力も効果も無い魔法へと変換させる。たったそれだけの魔法。


そう。たったそれだけの魔法。赤ちゃんが2本足で歩く頃には自然に覚える、人の本能に刻まれたような魔法。誰しもが一番最初に使うであろう魔法。魔法の原点だ。


で、この飴は母のお手製で、生活用魔法の術式を組み込んだものだ。


母が飴に魔力を込めていて、食べる事で母の魔力が俺の体内に残る。その魔力が、生活用魔法となるのだ。1個舐めれば1日は持つ。


サポートツールの形は飴だけではない。腕輪だったり指輪だったり色々ある。俺が装飾品が好きじゃないだけだ。


この飴は生活必需品で俺の身体の一部みたいなものだが、最近は舐めてない。イサメが肩代わりしてくれているからだ。


照明のスイッチを押せばイサメの魔法が届く範囲内であれば反応してくれる。イサメは四六時中俺の側にいるし、その範囲が相当広いらしいので飴はお役後免となった。



「……終わり、かな」


俺は部屋を見回し、忘れ物が無い事を確認する。2年と3ヶ月も付き合ったんだ、名残惜しさが込み上げ……ないが、まさか夏休みに引っ越しするとは思ってなかった。


「あ、ちょっと待ってて。管理人さんに鍵返してくるから」


「ダリア様がわざわざ足を運ぶ必要はございません。わたくしが行って参ります」


なんて事をイサメが言っているが、君が行ったら管理人さんがビックリしちゃうだろ。


俺は苦笑いで誤魔化し、そのまま部屋を出ようとするも、


「あ、ダリア様お待ちを! せめてお側に!」


「イサメだけでは不安ですので私も!」


イサメとナイトが止めてきた。なんで鍵を返しに行くだけなのにそんなに全力なん? 方向性間違ってない?


「い、いや……あの、鍵返しに行くだけだから。す、直ぐだから」


言い切り、部屋を出て管理人さんに鍵を渡しに向かった。


……待てよ。イサメだけですら対応に困っているのにあと更に4人加わるのか? 常に俺の側にいんのか? 気が休まらないぞ。



 ☆



ナイトの空間転移魔法で移動して屋敷の玄関前に一瞬で到着したが、目の前に広がった光景に圧倒され、目が眩んだ。


まず屋敷がヤバい。周囲が湖に支配されている為に丸い浮島のような土地を有し、そのど真ん中には噴水が設けてある。その噴水を中心にして三日月を描くようにして屋敷が高々と立っている。


窓の位置からして5、6階ぐらいだろうか。高さだけで言うなら俺が通ってる学校より高い。


そして、俺の目の前で頭を下げる者達。


ルシファーとリュウとシロが出迎えてくれたのだ。 だが、その後ろに白い人影がズラリと整列していた。白い人影はみんな煙のように揺れているが、メイドのような格好をしている。


なんだよあのメイドさん達。どっから連れて来たんだよ。誰かの召喚魔法か?


てか、どんだけ立派な建物建ててんだよ。2週間だぜ? おかしいよ絶対。これ欠陥工事なんじゃないの? てか、デカ過ぎじゃね? 絶対要らない部屋がいっぱいあるだろ。


などと脳内をグルグルさせていると、


「ダリア様、お待ちしておりました」


ルシファーがグルグルを止めてきた。相変わらず聞きやすい声だ。


「移住して欲しいという我々の我が儘を聞いて頂き、ありがとうございます」


「お、おう」


「何分未熟な身ではありますが、ダリア様が安らぎ喜んで頂けるよう全力で尽くさせて頂きます。何か不備がありましたら直ぐに対処しますので、お手数ですがお呼び下さい」


「そ、そうか」


俺的には全力を出さないで欲しいんだけど。適当でいいよ、適当で。放っといても生きてるような人間だからさ、俺。


てな事を言いたいが、内気なので言葉を返せない。みんな頑張ってるんだからその好意は有りがたく貰っておくのが筋だろう。


「では早速屋敷内を案内しましょう。これが間取り図になります」


「は、はぁ……」


ルシファーから間取り図の挟まったファイルを受け取って適当に捲ってみたが、なんか迷路みたいにゴチャゴチャしてる。めまいがしたので直ぐに閉じた。


「あ、あの、さ……」


「はっ。なんなりと」


「後ろのメイドさんって、誰かの召喚魔法で?」


「はい。シロの霧の兵になります」


「そ、そうか。じゃあここ、俺達しか住まないって事だよね?」


「その通りです」


「建築面積と人口が比例してなくない?」


「やはりそう思われますか……」


ルシファーはガックリと肩を落とし、両脇に立つリュウとシロが肘で軽くつつく。


「……だからボク、は、もうちょっと大きくしようって、言ったんだよ……」


「呆れられてますわよ、ルシファー」


「ダリアが住むには、小さいよ……」


「私もそう思いますわ。2週間の工期だったけれど、もうちょっと頑張れたのではなくて?」


リュウとシロが小声で喋っているが、バッチリ聞こえてる。なんか俺の思いとは真逆の方向に話が進んでる気がする。


俺はもうちょっと小さくても良かったんじゃない? って事を言いたいの。これ以上デカくしたら建造目的が分からなくなるよ。


リュウとシロの指摘を受けたルシファーは崩れるように地面に膝をつき、そのまま手のひらをつく。


「申し訳ありません、ダリア様。2週間もの時間を戴いたのにご期待に添えぬ事ができず……」


「勝手を言いますが、もう少し工期を頂ければ満足の行くものを建ててみせます!」


俺の後ろにいたナイトがそう言って膝をつき、


「私からもお願いしますわ」


シロも同時に膝をついた。


「いや、いい。指揮を取ったのは俺だ。俺に責任がある」


「……ねーねーダリアぁ……」


リュウが落胆するルシファーを横目に、俺の下に来て裾を引っ張ってきた。


前も思ったが、上目遣いで見てくるその瞳に吸い込まれそうになるな。常に色が変化していて見とれてしまいそうになるが、悲しそうな色を保ち続けていて目を合わせられない。


「……ルシファーは、馬鹿で、嫌な奴だけど、ダリアの為に、頑張ったよ……?」


うん。馬鹿かどうかは知らんけど、頑張ったのは分かる。


「……だから、ボクを代わりに、叱って……? 手伝ってた、ボクも悪いから……」


「え? あ、いや……」


「……なんでも命令してよ。腕立て伏せ、10回くらいなら多分、頑張れるよ……? 1日、なら睡眠禁止にしても、多分平気だよ……? お風呂で、背中流すよ……?」


「そ、そうだねぇ……」


言葉が詰まる。お風呂はマズいんじゃなかろうか。


『建築面積と人口が比例してなくない?』って言っただけだぞ。どっから話が大袈裟になったんだ。


なんか言わないといけないだろ、これ。褒めたら機嫌が直ぐになおるのはイサメで実証されている。


さあ、ボキャブラリーを絞り出せ、俺!


「い、いや! バッチリ! 想像の遥か上を行っててビックリしたっていうか……あー、もうね、ヤバいね。ビックリだね。バッチリだね。……えーっと、満足満足! もう十分過ぎるくらいに満足!」


これが俺の全力だ。普段から会話してないから出てきた言葉が安っぽいが、これが俺の全力だ。


「勿体無いお言葉……」


「あ、ありがとうございます」


「ダリア様の意向に添えられたようで何よりですわ」


ルシファー、ナイト、シロが深々と頭を下げる。どうやら納得してくれたみたいだ。


「……ボク、逆立ちしなくて、いい、の……?」


と銀髪娘が首を傾げて聞いてくるが、どこから逆立ちというチョイスが出たんだろうか。


「え、逆立ち? いや、しなくていいよ」


「……喜んでくれた?」


「あ、うん」


喜びより驚きの方が強いけど。


「……そっか。なら良かったよ……」


「ではダリア様、屋敷内へどうぞ」


切り替えの早いルシファーがリュウの言葉に繋がるように声を発し、それを合図に霧のメイドさん達が一斉に動き出し、玄関までの道を作った。



 ☆



「───で、こちらが浴室になります」


ルシファーのこの発言だが、かれこれ12回目になる。どんだけ風呂あんだよ。『こちらが』より『こちらも』の方が文法的に正しいんじゃなかろうか。


トイレに至ってはカウントするのを止めた。部屋数も多すぎて数える気がしない。


今俺達がいるのは5階だ。内観はピカピカしてて庶民の俺の感想としては、とても眩しいの一言に尽きる。場違いもいいところだ。


1階の玄関入って直ぐのところには滝が流れてたし、2階には川が流れてた。魚泳いでたわ。ステンドグラスが張り巡らされた部屋もあったし、床一面ガラス張りの部屋もあった。あと階段とか廊下が浮いてたりとかね。


俺の今居るのは場所に至っては辺り一体が大理石でできている。終始戸惑ってるわ、俺。住む世界が違う。


屋敷内の移動は転移魔法で行われる。まあ広い上に迷路みたいだし、端から端まで徒歩で移動するとなると、結構な時間と労力を消費するだろう。


床や壁にナイトが転移魔法を組み込んだ魔法陣が至るところに描いてあり、それを用いて転移移動している。凄く便利だ。


で、転移座標を結ぶのが下手糞だった俺は、何回か目的の場所とは違う場所に飛んで、あとから追ってきた皆にメッチャ心配されたりした。



「次が最上階になります」


「あ、あの、ルシファー?」


「はっ」


「……ここまで来といて言うのもアレなんだけどさ」


「なんでしょうか?」


「別にみんな付いてこなくても……」


言いながら後ろを振り返る。


ルシファーを除く代行者達が俺を守るように並び、更にその後ろにはシロの召喚したらしい霧のメイド達が規則正しく列を成している。目測で30人くらい。


ルシファーの案内中、みんなずっと付いてきているのだ。


「皆ダリア様を心待ちにしていましたから、お許し下さい。それに屋敷内とはいえ油断はできません。万が一がありますので、人数が多いに越したことはありません」


「万が一?」


「例えば、階段を踏み外したり」


「まあ、あるかも」


「例えば、照明が落下してきたり」


「絶対無い、とは言い切れないな」


「例えば、ダリア様が廊下に落ちているバナナの皮で滑って後頭部を強打する、などが考えられます」


「う、ん?」


万が一にもその可能性は無いと思うよ。具体的過ぎて。


「ギャグみたいな話ですが、そうとも言い切れません。事実、落ちてますからね」


ルシファーの目線が俺からズレたのでそれを追うと、廊下に何かを見つけた。


大理石でできた廊下の中心で、堂々とその存在を示すそれは───バナナの皮だった。


人生初めてだよ、バナナの皮が落ちてる現場に巡り会うなんて。しかもちゃんと先の部分が上に向いてるし。


「誰でございますか? ゴミを放置して置く不届き者は? ダリア様の御前だというのに」


バナナの皮を視界に入れたイサメが眉間にシワを作る。その隣ではルシファーが目頭をつまみ、呆れた表情を浮かべていた。


「おいナイト、ゴミは片付けておくものだろう?」


「いや私じゃないけど。なんで私なのよ」


「だってお前、バナナが好物と言って……」


「言ってない。一言も」


ナイトが真っ向から否定し、同時にシロが挙手する。


「宜しいかしらルシファー? さっきリュウに『日頃の恨み!』とか言って投げつけてはなかった?」


「……そうだよ、ルシファー。ボクに、投げてた、よ……?」


「いや俺じゃ……ああ、俺か。俺だった」


ルシファーが天井を仰ぎながら納得し、バナナの皮に目線を戻して手を握り締める。すると、潰れるようにしてバナナの皮が消滅した。


「今後このような事が無いようにお願い致します、ルシファー殿」


イサメがジト目になりながら釘を刺す。その言葉にリュウがうんうんと頷き、俺の左手の小指を握って見上げてきた。


リュウの手って柔らかいな。一瞬ドキッとしたが、クールな俺は直ぐに平静を取り戻せた。


「……ねぇ、ダリアぁ?」


「ん?」


「ルシファー、酷いんだよ……?」


「へー」


「石、投げてくるし……スライディングしてくるし……バナナの皮、投げてくるし……。今朝なんか、夜中に起こされたんだよ……?」


「そ、そうか」


コメントに困る。


ルシファーの背筋は常に伸びているし、カンペを読んでるみたいにスラスラ言葉も出てくる。悪魔を象徴する容姿を見なければ、聖人君子という印象が強い。


そんな事をするようには見えない、ってのが本音だ。


「ダリア様、ルシファーは猫を被っているので今の姿が本性じゃないんですよ」


どうやらナイトに心を読まれてしまったみたいだ。


「暇潰しで起こしてきたんですよ? 酷くないですか? しかも私なんか胸が少し大きいからってだけで、無駄肉やら乳牛やらデカメロンやらツインテールやら悪口言われるんですよ?」


胸とツインテールの関連性が良く分かんないんだけど。


「私は上げるとキリがありませんけれど、今朝は油性のマジックで顔を描かれましたわね。思わずグーパンものでしたわよ」


シロはそう言って、ルシファーにジャブを向けながら怒りを表現する。


なんの事だかいまいち状況が掴めていないが、ルシファーが皆からズタボロに非難されているのは分かった。


今まで饒舌なルシファーだったが、いきなりの猛攻で黙秘を余儀なくされ、ここでようやく口を開いた。


「ダリア様に助けを乞うなど、己の程度の低さを認めているようなものだぞ? ダリア様に頼らず自分で来い! 相手してやる」


「言ったわね。その翼を手羽先にしてあげる」


「……髪の毛、全部抜いてやる……!」


「角をヘシ折ってやりますわ」


「待て。そういう物理的なのは止めて口喧嘩なんてどうだ? な?」


少し冷や汗を流したルシファーが念を押すように言う。


今までの話からしてルシファーが奇行に走っているのは本当みたいだ。俺の前だと紳士的なのにな。


「ダリア様」


不意にイサメが声を掛けてきた。


「皆様はどうやら取り込み中のようですし、先に最上階へ参りましょうか」


「え? いや、でも……」


「茶番の為にダリア様をいつまでもこの場に立たせている訳にはいきません」


「その通りだ。馬鹿は放っておこう」


黒猫が低い声と共にピョンと跳ね、イサメの肩に飛び乗る。


「長い時間歩いているのだ、早く休むべきだろう」


別に足は疲れてないが、驚いてばかりで心が休まる暇は無かったな。変な疲れがあるのは確かだ。


「ではダリア様、こちらへ」


イサメが俺を先導するように前に立って歩き出す。


ルシファーに代わって案内してくれるみたいだが、確かイサメは建築に関わっていなかった筈だ。なぜこんな迷路染みた屋敷の道が分かるのだろうと思ったら、ちゃんと屋敷の図面を持っていた。


凄いな。俺なんか図面を見ても現在地すら分からないのに。


「あ、お待ち下さいダリア様!」


俺達に気付いたのか、ルシファーが呼び止めてくる。振り返ると、みんなひざまづいていた。


「ダリア様の御前であのような非礼を……お許し下さい」


「も、申し訳ありませんしダリア様。みっともない姿を晒してしまって……」


「……ごめん、なさい……」


「如何なる処罰をもお受けしますわ」


相変わらずの低姿勢である。で、相変わらず慣れない俺は返す言葉に困らせる。


そんな代行者達を見下ろし、イサメが溜め息を吐いた。


「ダリア様が呆れて声も出ないようです。しばらくそこで反省していたらどうですか? あとの案内はわたくしがしますのでご安心下さい」


「で、でもさ、反省してるみたいだしさ」


「寛大なるお心、流石にございます。ですがダリア様、甘やかしては付け上がってしまいます。言うべき時に言わなければ」


別に粗相はしてないと思うけど。


「だ、大丈夫。俺は気にしてないから」


「……そうですか。申し訳ありません、軽率な発言でした」



───場所は最上階の一室。豪華な装飾の施された扉をルシファーが開け放つ。


「さて、最後にこちらの部屋になりますが」


足を踏み入れ、俺は思う。


部屋が広すぎる。何世帯の家族が団欒できんだ、これ。目に見える窓全部が掃き出し窓だし、天井も高い。天窓には太陽が綺麗に収まっている。


この部屋の用途はなんだ? 憩いのスペースだろうか。まあそれなら頷け……


「ダリア様のお部屋になります」


全然違った。


「ぶふぉっ!?」


予想外の答えに吹き出す俺。


「ごふっ……! ごほっ……」


口と腹を押さえてむせ返る。危うく昼に食べたハンバーグが出そうになったが、なんとか堪えた。


「だ、ダリア様!? 体調が優れないのでしたら横に……」


「だ、大丈夫だイサメ。ちょっとむせただけだから。元気だから」


心配して俺の背中に手を回すイサメを(なだ)め、ルシファーに向き直る。


「えっ? 俺の部屋? ま、マジ?」


「はい、マジです。……ダリア様からすれば小さく見えるでしょうが、6階の床面積を考えたらこれが限界でして」


いや小さく見えないよ。大き過ぎるよ。これ個人で使う部屋の規模を超えてるよ。


「そ、そう……。あのさ、ルシファー?」


「はっ」


「……部屋広い、ね」


「ダリア様のお心に比べれば小さきものです」


「いや、そうじゃなくて……」


俺の言葉が途切れる。


無理だ。俺には無理だ。折角俺の為に用意してくれたのに、それに文句をつけるなんて俺にはできない。


かと言ってこんな部屋で毎日を過ごせと言わたら、やはり無理だ。なんかこう……心が落ち着かない。部屋のスペックに俺のスペックが見合っていない。


どうするよ俺。自分で召喚した者達にこんなに気を使うなんて思わなかったぞ。


ヤバい。俺が言葉を濁してるもんだから、皆が困った表情で顔を見合わせているぞ。


「……ダリア様が過ごされていた住居がどの様な場所かを、知っているか?」


突然、俺の足元から低い声が飛んできた。スッと俺の横を小さな影が抜ける。コロネだ。


「ああ、ナイトに話は聞いてはいる。1Kのアパートだとか。部屋も6畳半ぐらいだろう?」


「そうだルシファー。ダリア様はこの様な部屋に慣れていないのではないか? 勝手な解釈でダリア様に押し付けるのはどうかと思うぞ?」


助け船を出すとは猫さんやるね。俺の気持ちを代弁してくれてるみたいだ。君の株がうなぎ登りだよ。


コロネに感心していると、リュウが不意に袖を引っ張ってきた。


「……ダリア、小さい方が、良いの……?」


「そ、そうねぇ……。どちらかと言うと小さくて良いかな。欲を言うなら10畳ぐらい」


欲を言うなら漫画本沢山置きたい。


「はっ、直ぐにでも仕切りを設けましょう。もしもの事を考え、簡易間仕切は準備してあります。ナイト!」


ルシファーの呼び掛けにナイトは軽く頷き、


「≪クリアランス=リヴィリング≫」


凛とした声で呟きながら右腕を横に振る。


腕の動きに呼応するように四方八方に帯状の魔法陣が現れ───たかと思うと、魔法陣が弾け飛び一瞬で壁ができた。


簡易間仕切りなんて言うから、よく大型百貨店とかで見掛けるパーティションみたいなのを想像してたが、全然違った。普通に壁だ。見るからに分厚そうで遮音性能も高そう。


「あ、相変わらず凄い魔法使うね……」


いきなりの変化に俺は驚きを隠せない。いやホント、最近は毎日驚かされてばかりだ。


「大したことないですよ。予備で造っておいた壁を置いただけですから」


ナイトは謙遜を言いつつも、誇らしげに鼻をフフンと鳴らして胸を張る。


「あ、ダリア様? 10畳ぐらいと言っていたので5m×4mを目安に壁を置きましたが、こんな感じで良いですか?」


「え? あ、ああ。ありがとう。いいよ、こんな感じで」


これで20㎡って事か。これでも十分広いぞ。こんなに広いのか。甘く見てたわ。まあ散らかすのは得意だから直ぐに狭くなるかもな。……イサメに怒られそうだけど。



「───さて、ダリア様」


ルシファーが見取り図のファイルを閉じて頭を下げる。


「以上で屋敷の案内は終了となります。わざわざお付き合い下さりありがとうございます」


「い、いや。なんか……ごめんな、俺も我が儘言ってさ」


「そ、そんな……。ダリア様が謝ることなど何一つとしてありません。全ては私の至らなさゆえです。申し訳ありません」


ルシファーの歯切れが悪い。彼が悔やみながら膝を折りそうになったところで、俺は気付いた。


キョドってばかりでお礼を言ってないよな。『ありがとう』より先に『ごめん』が出るのは俺の悪い癖だと思う。


いやでもまあ、いきなりこんな待遇になったらビビるよ、普通。とくに俺みたいな奴は。


取り合えず、お礼は言った方がいいよな。みんな俺の為にしてくれているのに、俺の態度はそれを悪し様に言ってるようなものではないか。


ルシファーが膝を床につく直前に、俺はなんとか口を開けた。


「……あ、ありがとうなルシファー」


ルシファーはその言葉に反応して素早く顔を上げた。その表情は鳩が豆鉄砲を喰らったようなものだったが、


「おふっ!」


そのまま膝を勢いよく打ちつけて変な顔になった。


「ナイトもリュウもシロも、2週間で建てるなんて大変だったろ。ありがとうな、俺の為に」


ただ素直に感謝の意を述べる。


「こ、光栄です! ダリア様にそのような言葉を貰えるなんて!」


とナイトが太陽より輝く笑みを放ち、


「……ダリア、嬉しい。ボクの頭、撫でて……」


とリュウはいつも通り眠そうな眼で見上げてくるが、俺の手を握って振り子のように中々の速度で動かし、


「もう悔いはありませんわ!」


とシロはハンカチを顔に当てて発光しだした。


テンション高いなこいつら。てかシロがメッチャ眩しい。どういう身体の構造してんだよ。


「はぁ……」


後ろからイサメの静かな溜め息が聞こえてくる。


「……ダリア様がおられるというのに全く嘆かわしい。一言戴いただけでこんなに浮かれるようでは先が思いやられますね。どう思いますか、コロネ殿?」


「気持ちは分からんでもない。まあ俺なら自重はするさ」


「そうですね。もう少し抑えて欲しいものです」


イサメも大概だと思う。だって君、俺が誉めたりすると凄いよね。欣喜雀躍(きんきじゃくやく)するよね。


イサメとコロネにも言わないとだよな。今なら流れに乗ってるからすんなり言えるぜ。


「コロネもありがとうな、いつも気にかけてくれて」


しゃがんでコロネの頭を撫でる。毛並み良くて触り心地がいいんだよな。


「当然の事だ」


落ち着きのあるトーンで返されたが、その直後に大きく動き出した尻尾は喜びを示してるんじゃなかろうか。


で、そのまま立ち上がりイサメを見つめる。目を合わせるのは苦手だが、負けるつもりはない。


「どうされましたか?」


「イサメ、ありがとう」


「っ!?」


イサメが鼻血を噴射した。



 ☆



さて、時は変わり夜である。あれから解散になり俺は頭の整理の為に休む事を勧められ、ずっとベッドの上で漫画を読みながら時間を潰していた。


一応テレビもあるが、俺は基本的に見ない。なんとなくニュースを見るくらいだ。普及したのがここ数年で、面白いのが放送されてないのだ。


で、未だに状況を把握できない自分がいる。


「失礼します、ダリア様。夕食の時間でございます」


「あ、ああ」


イサメに呼ばれて部屋を出れば、長い廊下が姿を見せる。日も沈んだというのに壁に飾れた照明が昼間のように道を照らしている。それと、霧のメイドさん達。


異様な光景だ。


それはさておき、食事場所は俺の部屋から少し離れた所だ。その部屋の前に着くと、勝手に扉が開いた。


「……ダリアぁ、遊ぼ」


中からリュウがコロネを抱いて出てきた。コロネの毛がクシャクシャになっている。揉みくちゃにされたんだな。


「リュウ殿、ダリア様は今からお食事です。あとにして下さい」


「じゃあボクも、お食事に、する……」


「同席でございますか?」


「ん。一緒に、食べる……」


「とリュウ殿が言っているのですが……」


「ん? ああ、いいよ。一緒に食べようか」


リュウにそう返した瞬間、俺の視界が歪み、赤になった。視界が赤色に染まったのだ。


俺は思わず後退するも、その原因は直ぐに分かった。


「───本当ですか!? 一緒にいいんですか!?」


どうやらナイトが俺の眼前に転移してきたらしい。


ナイトは俺より背が高い上にヒールを履いて頭が一つ抜ける身長を持っている。猫背気味の俺の視線が自然とその谷間に向かう。


まあ、ただの言い訳である。こんだけ近ければ見ちゃうのが男の(さが)だろう。俺は何一つ間違ってはいない。


「だ、ダリア様……その……恥ずかしいんですが」


「あ、ああ、うん。ごめん。で、急に飛んで来たけどどうしたの?」


「お食事をご一緒できると聞いて!」


ナイトが少し背を曲げて俺に目線を同じ高さにし、キラキラした目を合わせてくる。


どこに居たのかは知らないが地獄耳だな。そう言えばアパートに顔を出しに来てた時は、俺に会いに来ただけだからと言って直ぐに帰ってたしな。


「それでダリア様、ご一緒していいんですか?」


「あ、うん。いいよ」


「ありがとうございます!」


ナイトは小躍りしながら部屋に入る。その後ろにイサメが続き、イサメに誘導されて俺とリュウとコロネも入室する。


部屋の中央には白いクロスの敷かれた長テーブルが置いてあり、古風な感じの木製の椅子が幾つも並べてある。


「ダリア様、あちらへどうぞ」


とイサメが奥の方を手で指し示す。その場所には、他のものより威厳を醸し出す椅子が据えられていた。


あれか。上座ってやつか。ぶっちゃけ一番手前でいいんだけど。まあその好意に甘えて上座に座らせてもらったけど。


椅子に座り顔を上げると、


「おいナイト、ダリア様と食事を一緒にできるからって料理は溢すなよ」


当たり前のようにルシファーが座ってた。あとシロも。いつから居たんだ? いつ来たんだ?


「紙エプロンつけてる貴方がそれを言う?」


「紙エプロンは関係無いだろうが馬鹿野郎。マナーは大事だ」


「私よりリュウを注意するべきでしょ。溢す頻度高いじゃない」


「……溢さない、もん……!」


俺の隣に座るリュウが頬を膨らませてぶすくれる。


「ほらほら、ダリア様の前なのだから慎みましょう」


そう言いながらシロは場を鎮めるようにポンと手を一つ叩き、


「シロ殿の言う通りでございます。食事中に私語は厳禁ですよ」


厨房からイサメが料理の乗ったキッチンワゴンを引いて出てきた。しかも不気味に笑って。


あのイサメの顔には少し嫌な思い出がある。口にものを入れた状態で喋ってたら、不潔極まりないと散々怒られた。しかもこの前なんか、口から食べ物が飛んだもんだから、しばらく正座させられた。


危うくチビるところだったよ。


普段は低姿勢過ぎるほど低姿勢なのに、いきなりスイッチが入るからな、イサメのやつ。沸点がよく分からない。


「ダリア様も……お分かりですね?」


「は、はい」


「談笑も必要なのは分かります。ですが、それは一旦口のものを無くしてからにしましょうか?」


「り、了解です」


ひーこえー。睨まないでよ。チビるじゃん。


「ダリアを、イジメないで……!」


俺を守るようにしてリュウが声を張って立ち上がった。いいぞリュウちゃんガツンと言ってやれ。


「………」


「……ごめんなさい」


リュウはイサメの無言の圧に押し潰され、俯いて座ってしまった。


「ではお食事の方をご用意致します」



 ☆



食事を終え、風呂に入り、今はアイスを食べながら夏休みの宿題をやっている。


そう言えば風呂に入る時、リュウが一緒に入りたいと言ってきたから冷や汗が流れたよ。流石にマズいので後で遊び相手になるという事で手は打っておいた。


「……ん?」


数学の証明に手こずっていると、来客が来た。


「……遊ぼ」


リュウだ。髪が濡れほんのり頬が赤く染まっているのを見るに、恐らく風呂上がりなんだろう。


にしても相変わらず綺麗な髪色だ。毛先にかけて虹をつくるなんて、どういう性質なんだろうか。


てか服が脱げそうだぞ、君。頭も拭きたまえ。


「リュウ殿!」


今度はイサメが入ってきた。


「あ、ダリア様申し訳ございません! リュウ殿、そのような格好で出歩かれては困ります! しかもダリア様の前でなど言語道断!」


「ボクは、気にしない、よ……?」


「なりません! ちゃんと身だしなみを整えて下さい!」


イサメはリュウを担ぎ上げ、嵐のように去って行った。


その様子をぼんやりと眺めていたら、急に電話が鳴り響いた。因みに固定電話である。


持ち運びできる小型の物が販売されているらしいが、これはまだ試作品であり個人で使うには魔法適性が必要な為、取扱店も少ないとか。


まあ俺には手堅い商品だ。


「はい、もしもし?」


電話に出ると、覚えのある声が返ってきた。


『こんばんはダリア君』


「……兄ちゃん?」


『当たり当たり。愛しのお兄ちゃんです。明日遊びに行くんでシクヨロ』



「……えっ?」



目の前が真っ暗になった。

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