召喚
俺こと黒江ダリアは苦悩していた。
いつまでたっても魔法が使えないことに。
魔力量測定器をエラー表示にするぐらいには持っているのに、使えない。
小学校に上がっても使えず、俺は『別にその内治るだろ』的な考えだったが、これを深刻に捉えた母に病院に連れて行かれた。
で、医師に説明されたが……赤い色を持っていれば炎を呼び出せ、青い色を持っていれば水を呼び出せるそうだ。でも俺は透明だから該当する魔法が無いとの事。へぇ~。
それよりも近くにあった人体模型に興味深々だったね。
しかし、これが中々の死活問題。
小学校の中学年からは異端児扱いされてイジメの対象に早変わりだ。まあ俺自身が結構図太かったから、余り気にはしなかった。
中学生になった頃には悟りを開いた。これでみんな団結出来るな、と。俺以外だが。あと、ぼっちにも慣れた。
高校生になってもイジメは続いた。実家を離れてそれなりの学校に入学したが、ビックリするぐらいみんなの団結力が凄かった。いつからそんなに仲良いんだよ、的な。
頭良いのに靴隠すの?
高校生にもなって机に落書きすんの?
……これは偏見だろうか。まあスルースキルが高いので大したことじゃないが。
更に凄いのが、小学生にケンカをフラれた時の土下座だ。朝飯前だ。
それで何故か職質された事がある。
理不尽だろ……アレ。俺おっさんに見えんのかな……。
努力はしているつもりだ。親下を離れ、それなりの高校に筆記試験と面接で入学した。周りが結構なエリート達の為、揉まれれば何かが開花すると、自分に言い聞かせて。
しかしなぜかな。幼稚園児ですら使える生活用魔法すら、未だに使えない。
俺の中に存在する魔法という概念はもはや虫の息。みんなが大変だと言って必死こいて覚えている魔法の凄さが良く分からない。
転機が来たのは今年の春だ。
身体検査───と同時に行われるレベル測定だ。これは総合的な戦闘力であり、国の統計の結果、7:3の比率でレベルの高い奴が勝つ。レベル差が大きければ……言わずもがな。
で
俺は
Lv.7を叩き出した。
小学校2・3年生くらい。
爆笑だった。
滑稽だった。
自分の人生が馬鹿らしかった。
自分を律儀に育ててくれた両親が阿呆らしかった。
そして……自分が惨めだった。
『魔法が使えなくなるくらいなら両腕を切り落とす』
『眼が無くなってもいいからまた魔法を使える様にしてくれ』
『生きる事が出来ないから殺してくれ』
なんらかの理由で“零魔法症”と呼ばれる魔力が枯渇し、魔法が使えなくなった病人達の言葉である。自殺者も少なくない。
それほどに魔法は世に浸透している。
俺もこの病気の予備軍だ。だが魔力は持っているので確定はしていない。使えないなら似たようなものだ。
この“零魔法症”の診断を受けた子供達は、施設に預けられたり捨てられたりするのが大半だ。
だから俺は恵まれてる。
親は俺を気に掛けてくれるし、兄ちゃんもよく遊んでくれた。そう言えば兄ちゃんは絵が上手かったな。
育ててくれた親の為に良い職に就きたかったが……駄目だな。決心がついた。卒業したら実家に帰って仕事を捜そう。
もう魔法の事は諦めよう。寧ろ元から使え無かったのは逆に幸運じゃないか。それが当然で生きてんだから。
あと少しで学校も夏休み。
あと半年とちょっとで卒業だ。
「あっれー? ダリアく~ん。魔法使って来ないの? 反撃しないの?」
「おい止めておけって。気持ち悪い眼で睨まれんぜ?」
「マジキモいよな! なんで右と左で眼の色違うの? 病気だから? 病気だから!?」
「取り敢えずダリアよー。俺ら優しいからあと一週間待ってやるわ。言われた額、耳揃えて持って来いよ?」
男子生徒4人が校舎裏から居なくなり、笑い声が青空を駆け抜ける。
そんな憎たらしい空を仰向けで見上げながら、呟く。
「……ダンゴムシが口に入ったじゃねーかよチクショー……」
でもやっぱ使いたいな、魔法……。
☆
「くっそ……」
顔の腫れを擦りながら鍵を開ける。
俺の住まいは学校から徒歩と乗り物を使い約40分の場所にある。1kで部屋数6つの少しボロいアパートだ。その2階の一番奥が俺の部屋だ。
親の事を悪く言ってるようで心苦しいが、こんなアパートに住んでる俺に、そんな大金は無い。
と言うのも、先程の4人組のイジメっこ達の事である。5万も持って来いとか、正気じゃねーよあいつら。精神科行って来いよ。
何も最初から暴力の被害受けていた訳では無い。
高1、高2は案外順調だった。確かに魔法の実践授業である“魔法実技学”は特別枠として自習していたし、普段から魔法を使っていなかったので“零魔法症”と勘繰られはした。
それに親が送って来た護身用の魔法具のおかげで魔法を使えると錯覚させたりした。
しかし一変。今年の春のレベル測定での俺の診察結果が漏れたのだ。
てかイジメっこ達に見られた。プライバシーがあるだろうに。
で、完全に目を付けられた訳である。
先生に言っても……まあ頼りにならないだろうな。寧ろ自分でなんとか解決したい気持ちだ。
帰路の中でずっと考えていた。
どうすれば良いのか。
やはり“零魔法症”では無いことを証明するのが手っ取り早いだろう。
それが根本的な解決になるかは分からないが、魔法が使えれば“魔法実技学”に出席でき、評価が得られる。それに一般教養を加えれば、学年でも上の順位になるだろう。
馬鹿でも実績のある奴に手は出さないだろう。
……出さないよね。
……出さないよな?
あ、やっべ。この作戦駄目な気がしてきた。
とにもかくにも、色を持たない俺が魔法を使えるようにする為には、とある事を成功させなければならない。
俺としては、俺と同じ境遇の『星呼び』がどうやって魔法を行使しているのかが知りたい所だ。
『王国の護り手』とも謳われる彼も、色を持たない魔力の持ち主だそうだ。しかし魔法の使用方法については黙秘を貫いてるらしい。非協力的な人なのだ。
俺の憧れの人だが、俺は別の方法を取る。
俺に可能性を与えるその方法は───
“召喚魔法”である。
まあ一回失敗してるけど。
☆
場所は人気の無い森っぽい場所。アパートから自転車を飛ばして1時間と30分くらい掛けて来た。もう20時を過ぎている為辺りが暗い。恐怖心が身震いを起こす。
まあ……魔物は出て来ないよな。ちょっと行ったら人が住んでる所に出るし……。自転車で20分くらい掛かるけど。
それより、さっさとしないとアパートに着くのが22時過ぎてしまう。補導されるのは避けたい。
明日から夏休みだし、とノリで来てしまったが、失敗だった。明日にすりゃ良かった。
近くの安定した足場にランプを置き、テープでつぎはぎした一坪程の紙を広げる。紙には面積一杯の円と解読出来ない文字が規則性無く描いてある。
手作り感満載のこの魔法陣は、半年ぐらい前に俺が描いたやつだ。前にやった時に魔法陣が消えてしまったので描き直した。
左手には自由ノートを抱え、右手で“聖女の書物”を開く。
召喚魔法には“展開式”と“代行式”の2つがある。“展開式”は大量に召喚出来るが個体が弱い。“代行式”はその逆。
この魔法を専門とする召喚士の中には、代行式でとんでもない数を使役出来る人もいるが。
あと、召喚出来る存在が、自分でつくるものと既存するものの2つである。既存するものと言うのは、魔物や聖獣などの事だ。それらを呼び出し使役する事が出来る。
俺が行うのは、代行式で自分でつくる召喚魔法。
代行式には利点がある。自分の魔力を代わりに使わせる事が出来るのだ。“代行獣”や、獣と表現しにくいものは“代行者”とも呼ばれる。俺の大量の魔力のおかげで代行者は多分強いのが出来る。
因みに、2年前に既存するものを召喚しようとしたら、変なのが出て来て退治するのが大変だった。
だから今回は自分でつくろうと思う。その為に自由ノートを持ってきた。
つくる為には想像力が重要になってくる。あやふやなままでは変なのが出来てしまう。この自由ノートには兄ちゃんのデザインしたキャラクターと俺の変な落書きが描いてある。
イメージを明確にする為、ノートを開く。
久しぶりに見るけど……懐かしいなぁ。色々と謎設定書き殴ってたな。
なるべくシンプルなのが良いよな。あと強そうなの。
パラパラとページを捲って行くと、いい感じのキャラクターを見付けた。丸みを帯びた黒い鎧のキャラクターだ。
今度は“聖女の書物”に目を通し、書かれた文を読み上げる。
「--------」
これは詠唱と呼ばれる行為だ。放つ言葉に意味は無く、錠を解くために鍵を開ける様な行為だ。
「--------」
一回召喚が出来てしまえば、魔法陣と詠唱の仮定をすっ飛ばして召喚する事が可能になる。王国最強の召喚士は数万の兵を1秒足らずで召喚出来るとか。羨ましい。
「--------」
……あー、来週どうすっかな。お金。まあ召喚魔法は失敗するだろうな。
俺が魔法を使える……いや、代わりに使わせる、が正しいか。最後の頼みの綱だったけど、全然魔法陣に反応無いし。
「--------」
詠唱が終わったが、反応無し。
みんなにギャフンと言わせられる、とか考えたけど……やっぱり俺は波風立てないで生きるのが賢明って事だな。
そうだな、と自分に言い聞かせる。
あと半年ちょっと……頑張るか。
「……ん?」
しばらく眺めていると、魔法陣に変化が起きた。紫色に、妖しく、光出したのだ。
その直後、
「あっつ……!」
小遣い叩いて買った“聖女の書物”がいきなり発火した。
「ちょっ……!」
ついでに自由ノートも発火した。
あ、いや、え? 駄目だって 。自由ノートは思い出の品なんだから止めて。いやマジで。
“聖女の書物”は落下して魔法陣に引火し、自由ノートは中空で六つの火の塊に分列した。
「な、ナニコレ……」
ちょ、ちょっと待って。てかなんで燃えてんの? こんなの“聖女の書物”には載ってなかった。
失敗の可能性は無いと行っていい。自分の実力にあった使役出来るものを呼び出す召喚魔法だからだ。
失敗した場合は何も召喚されないか、俺の時みたいに主人に反抗する変な奴が出るだけだ。それも自分で対処出来るレベルの。
一応例外はある。更に高位の召喚魔法で上位の存在を呼び出した場合、呼び出したもののレベルが高過ぎて制御出来ず、暴れ出すケースだ。
……しかし、なんだろうか。この異様な空気は。
持って来たランプが割れ、虫が飛び立ち、小動物が逃げ出し、木々が揺らめき、地鳴りが響く。何より際立ったのが───
「はっ……」
月が3倍くらいデカくなっていた事だ。
これはヤバい。絶対。
Lv.7の俺が言うのもなんだが、ヤバい。生物的な本能だ。
取り敢えず魔法陣を片付けよう。家族旅行で買った木刀で木っ端微塵にしてやる。覚悟しろ。
木刀を振り上げ、思い切り降り下ろす。
「……あ」
……折れた。
宙に浮いてる火の塊にやられた。や、やるなこいつ。
……い、いや。まだ分からないぞ。召喚が成功したかもしれないじゃないか。失敗して変なのが出て来ても、勝てる筈だ。前回勝ったんだから。
折れた木刀を構え、燃え続ける魔法陣を睨む。
魔法陣の印が次々に書き換えられている……。俺が頑張って描いた魔法陣の原型が、そこには無い。別の、より複雑な魔法陣がそこには描かれていた。
宙に浮く六つの火の塊はそれぞれが虚空に向かって何か文字を連ねている。と思ったら、弾けて魔法陣に吸収されてしまった。
俺は思わず神に祈った。
だが、俺の祈りも虚しく、魔法陣はその存在をより強大にする。
雷が起こり、木々が凍り付き、地面が焼け、月が赤く染まり───
音が消えた。
視界が消えた。
そして、魂が抜けた。
───気が付くと、森っぽい場所に立っていた。さっきと同じ場所だ。ランプは割れたままである。
ふと時間を確認すると、20時49分。少し進んでいる。
何も起こってない……。な、なんだよ……。失敗かよ……。
「はぁぁ……」
安堵の溜め息を吐いた瞬間、ある気配に気付いた。気配の出所は、魔法陣のあった場所。
俺が振り向くより先に、気配の方から男性の声が届く。
「我等が偉大なる主よ。その呼び掛けに、微力ながら馳せ参じました」
腰の低い発言に目を丸くしながら、魔法陣のあった所にいるもの達を見下ろす。
月明かりで照らされ、そのもの達を確認出来た。数は5人と1匹。
そして、俺が召喚したもの達は、皆膝をつき頭を垂れている、という異様な風景を作り出していた。
「えーっと……」
なんだしコレ……こんなに召喚した覚え無いんだけど。主人に反抗してこない所を見ると、一応召喚魔法は成功してはいるんだろうな。
一先ず安心だな。
「あー……」
なんて切り出そうか。てか6体も召喚出来たのか。スゲーな、俺。
まあ別に、6体という数字は凄い訳ではない。さっきも言ったように、名の知れた召喚士なら数百は呼べる。
それでも疑問は残る。俺のつくろうとした黒い鎧のキャラがいない。全くイメージを持っていなかった代行者が召喚されてしまった。
考えていると、不意に声が飛んできた。
「申し訳ありません。配慮が足らず……」
先程と同じ男性の声だ。
パチン、と指を鳴らす音が聞こえたと思ったら、一変。月明かりで微かに照らされていた辺りが、真昼の様な明るさを取り戻した。
マジかよ。どんな魔法だよ、コレ。
「と、取り敢えず頭上げて……下さい」
何故か敬語になる俺。
首が壊れるんじゃないかという速さで代行者達が頭を上げる。皆が驚きの表情を浮かべ、汗を流している。
「我等に敬語などお止め下さい!」
1人が声を荒げる。
金髪の髪を肩で切り揃えた美少女だ。カチューシャを頭に着け、白のワンピースにエプロンを組み合わせた格好は、メイドのようだ。全身が見えないが、多分メイドだろう。
「我々は貴方様の支配を受ける身! その方に敬語を使われては我々の立場がありません!」
「おい」
「堂々と振るまわれて下さい! 我々への認識など、羽虫で結構でございます!」
「おい! ダリア様の前だぞ。弁えろ」
野太い声で金髪メイドを制止したのは、その隣でちょこんと座る黒猫だった。黒と赤のオッドアイは俺のとそっくりだ。可愛い。
「も、申し訳ございません……」
消沈するような声で、深々と頭を下げる金髪メイド。
「今の失言……如何様なる処罰も受けます。ですから、今一度、愚かなわたくしめに機会のほどを……」
処罰とか物騒だな。てか腰低過ぎるだろ。こっちも縮こまってしまう。
「あ……うん。大丈夫。気にしてない」
「ありがとうございます。寛大なるお心のお期待に応える様、努力して参ります」
ただでさえ低い頭が、更に低くなった。
「それで、ダリア様。その顔の傷は……?」
と、先程の男性。
この男性の容姿が凄い。整った顔立ち、褐色の肌、桃色の前髪は斜めで切り揃えられ、紅い瞳は宝石の様に輝き、大・中・小と左側のこめかみ部分に生えた紅い角。
そして、六枚の翼。右から生える三枚の翼は天使の翼を彷彿とさせ、神々しい。反対に生える三枚は、悪魔を連想させる禍々しい気を放っている。
なんか堕天使みたいな風貌だ。
「転んで側溝にはまったの」
嘘である。なんだよその状況。誤魔化すにしても他になんかなかったのか、俺。
「っ!? 直ぐに手当てを!!」
と勢い良く立ち上がったのはメイドさん。
「だ、大丈夫だって! 治り早いし」
「し、しかし……!」
なんか申し訳なかったから手当てを金髪メイドにしてもらった。直ぐに傷が癒えた。
「す、凄いな」
「ダリア様のお役に立てるのなら、これ以上の喜びはありません」
嬉しそうに言って、金髪メイドが膝をつく。
「ダリア様、これからのご予定は?」と堕天使。
「いや……無いな。帰るだけ」
「では付き従います」
堕天使が立ち上がると、他の者も腰を上げてお辞儀をする。
……い、いや。さっきから俺への対応が怖いな。逆にビビるわ。これが普通なんだろうか? 学校に召喚魔法を使う生徒は少ないから良く分からない。
「大丈夫だよ。魔物も出ないし。夜は遅いけど」
「しかしそれでは、何かあった時にダリア様を守れません。せめて私だけでも」
「待ちなさいルシファー」
堕天使の隣から凛とした声が上がる。
その声の主に顔を向けると、白が凄かった。
そう幼稚な表現をしたくなるくらいに、白かった。等身大の女性型デッサン人形を白一色で塗り潰した見た目に、継ぎ目の無いな滑らかな体躯。そしてのっぺらぼう。
そうそう。俺はこういうシンプルでつくりやすい奴を召喚したかったんだよ。俺がつくりたかったのは黒い鎧の奴だが。
「なんだ? 白井さん」
「気持ちは分かるけど、堕天使が街に出たら騒ぎになるのではなくて?」
「……ああ、確かにな。俺が付いて行きたかったが……仕方無い。別の奴にダリア様を任せよう」
「ではわたくしが」と一歩前に出る金髪メイド。
「わたくしがダリア様の懐刀を務めましょう。それに、わたくし以外にダリア様のお世話を出来る能力を持つ方はいらっしゃいませんしね」
「ねえメイドさん。然り気無く喧嘩売って来てないかしら?」
金髪メイドは俺の目の前で深々と頭を下げる。
「掃除洗濯料理、警護から害虫駆除、下の世話、なんなりとお申し付け下さいませ、ダリア様。何一つ不自由は無く過ごせる事を約束します」
「は、はぁ……」
「いつ如何なる時もお側にお仕えします。これは例え偉大なる主の命でも拒否は認めません。宜しいですね?」
「は、はい」
勢いに負けて思わず肯定してしまった。俺にもプライバシーあるんすけど。
「ダリア様」と堕天使。
「お気を付けてお帰り下さい。我等も直ぐにダリア様の危機に駆け付けられるよう、お側におりますので」
そう言い残し、代行者達は姿を一瞬で消した。
「それで、ダリア様。自宅はどちらに?」
「自転車で1時間半の所にある」
「自転車……でございますか?」
「そう。あそこに寝てるやつ」
俺が指差す方向には、軸が変形した自転車の姿があった。
「あーあ。これ駄目だな。どうやって帰ろう……」
「お任せを」
何か手があるのか、金髪メイドが自転車の輪郭を指でなぞって行く。
「そう言えば名前聞いて無かったな」
いや、自分でつくったものには自分で名付けるんだっけか。
「はっ 。先ず、堕天使の方が『ルシファー』」
名前あるんだ。なんでだろう? 既存するものを召喚したのだろうか? 既存するものには種族名があるからな。
「次に、白い人型の彼女が『白井さん』」
それ名字じゃ……。
「次に、紅いツインテールの彼女が『ダイナ・マ・イトボディ』」
ああ……。居たな、そんな奴。ルシファーとやらの存在感が凄すぎてスルーしてた。
「次に、銀の長髪と二本の長い角を持つ彼女が『竜王ウロオボエ』」
ギャグみたいな名前だな。可哀想に。
「次に、黒猫の彼が『マックロネコ』」
そのまんまだな。可哀想に。
「そして私が、『メイドさん』でございます」
それ名前じゃなくね?
「誰に名付けられたの?」
気になったのでぶつけてみる。
「ダリア様でございます」
マジかよ。嘘だろ。ネーミングセンスどうなってんだよ。
いやしかし、名前を付けた記憶が無い。そもそも何故、頭の片隅にすら置かれていなかったこの者達が召喚されたのか。不思議で仕方がない。
「我々は皆、遠い昔にダリア様の想いによってつくられました」
「と、遠い……? 俺の小さい頃につくられたって事?」
「その通りでございます」
「へ、へー」
つまり子供の頃の記憶を元につくられたんだろう。確かに、この代行者達には見覚えがあった。よく覚えてないが、頭の根元がくすぶられる。
そう考えると、代行者達の名前にも納得はいく。即興でイメージした黒の鎧のキャラより、この代行者達のイメージの方が完成されていて、より強固なものだったのだろう。
それにしても俺への忠義具合が凄いよな。
「ダリア様、出来ました」
物思いに更けていてボヤけていた視界がメイドさんの声で鮮明を取り戻す。そこには新品に近い自転車が雄々しく自己主張していた。
「す、凄いな……」
「も、勿体無いお言葉!」
膝をつくメイドさん。
「じゃあ後ろに乗って。これ魔力で動く機能無いからさ」
「は? ……あ、いえ! 申し訳ございません! ダリア様に無礼な発言を!」
「い、いや。気にしてないから」
寧ろ学校じゃ日常茶飯事だし。
「ダリア様にその様な事をさせる訳にはいきません。ダリア様が後ろにお乗り下さい」
なんかそれは申し訳無いな。代行者とはいえ、見た目は華奢な女性だし。
しかしまあ、メイドさんの覇気に押される訳であって、
「では参りましょう、ダリア様」
抵抗はあるがメイドさんの腹に手を添え、足を軸に乗せる。
「な、なあ」
「な、なんでございましょうか」
「鼻血出てない?」
「ダリア様からの抱擁。これを喜ばずにいられましょうか!?」
軽く手を添えてるだけなんだけど。
メイドさんの叫びと共に、チェーンがぶっ壊れそうな速度で自転車が走り出した。
☆
アパート前である。無事に着いた。
鼻血を流しているメイドさんが俺の足元で四つん這いになっている。
「大丈夫?」
「ダリア様に心配を掛けるさせるとは……私の一生の恥。この至らぬ身に処罰の程を」
「……いや、しないよ」
ふと思ったことがある。
扱いにくい。




