初めてのライブ 前編
突然だが、本日、兄が遊びに来るそうだ。
『ダリアお前確かアレだよな。鳴滝ポルポちゃんのファンだったよな?』
『鳴滝……? ああ、あの歌姫とか言う安直な表現で呼ばれてる人?』
『手厳しいな。そうそう』
『いや違うけど』
『え? だってお前、彼女の“夢追いし孤狼”って歌、好きだっつってたじゃん』
『歌だけな。俺が好きなのは曲自体であって歌手じゃないから』
『えーっ! 興味無いの? 運良く仕事先でチケット貰ったんだぜ? 折角貰ったのによー』
『行く』
『お前のそういう素直なところ好きだぜ』
───てな訳で、兄ちゃんが来る。今日王都に着くそうだ。
しかし、一つ問題が生じた。俺はまだ、両親にも兄にも引っ越しの事を伝えていなければ、召喚魔法が成功した事も伝えていない。
召喚魔法の成功に関しては別に教えても問題は無いだろう。電話でいつでも報告できるからとついつい先伸ばしにしてしまった。
だが引っ越しは別だ。親の了解を得ずにしてしまった。言ったら心配されるだろう。親が送ってくる荷物を自宅にではなく店頭受取にする為に連絡は入れたが、やはり不思議がられた。
まあ先ずは目先の問題だ。兄ちゃんの事だ、待ち合わせ場所は王都の南口だが、高確率で家に来たいと言うだろう。
何か対策を考えなければ。
何か当たり障りのいい口実を作らねば。
何か手を考えろ。
……いっその事、本当の事をぶちまけようか? いずれ言わなければならない事だし。まあ俺の家族は変なところでスルースキルが高いから、兄ちゃんも素っ気ない態度で終わるだろう。
朝のニュースを歯を磨きながら眺めながら、そんな事を考える。
『───マルーシ街を襲った吸血鬼。マルーシ街を半壊させたその存在は、世間に大混乱を招いています!』
『いやー、怖いね。これ10年前みたいになるんじゃないの? しかも2体いるみたいじゃない』
『軍も動いたらしいですが、住民の避難を優先していましたからね。それでも郊外に追いやる事には成功したんですから、レベルも低いんじゃないですか?』
『いえ。過去の資料によると、吸血鬼は全てLv.40を超えています。油断はできませんよ』
『でも吸血鬼は弱点も多い魔物だし、そこを突けば私達でも対処ができるよ』
『はい! と言うことで、吸血鬼の専門家であるこのお方に、出会ってしまった時の吸血鬼の対処方法についてお聞きしましょう!』
ニュースの内容も右から左に抜けていく。
ふとある事を思い出し、イサメに目を向ける。
「あの、イサメ」
「磨き終わってからにして下さい」
「ご、ごめん。でも前は怒らなかった、のに……」
頭に甦るのは、イジメっこ達を制裁した日の事。確かあの日は歯を磨きながら喋っていた覚えがある。
「夏休みの3日目の朝でしたか? あの日はわたくしから口を切り出したので、流石にそのような理不尽な強要はしません」
「そ、そう」
言われた通りに歯磨きを終了し、イサメの前に腰を下ろす。
「はい。どうされましたか?」
「今日、出掛けるから」
「鳴滝ポルポのコンサート……でしたか? ダリア様の兄君がいらっしゃるようですね」
なんで知ってんだよ。俺が電話してる時いなかったじゃん。
見透かされた発言に動揺していると、イサメが誇らしげに語り出す。
「ダリア様の動向を知らずして何がメイドですか。メイドとは、主人に全身全霊をかけて奉仕させていただく事、おはようからおやすみまでとは言わずおはようからおはようまで終始お側に仕えるのが役目にございます。ダリア様に尽くす事こそ至上の喜び。ダリア様の事ならば、例えスリーサイズだろうとも把握しております」
何それ怖い。俺のスリーサイズを知ってどうしたいんだよ。
「これは周知の事実。そうでしょう、コロネ殿?」
イサメが影の深い部屋の隅に目をやると、それに応じてコロネが影から顔を出した。
「それはスリーサイズの話か? 俺は知らんぞ、そんなもの」
「えっ」
「えっ」
なんだこの温度差。
「コロネ殿、まさかダリア様のスリーサイズをご存知ないのですか? 知らぬ存ぜぬでは済みませんよ?」
「ご存知ないな」
「忠義を尽くす者としての当然の義務ではありませんか。ダリア様のお身体の状態を常に把握し、何か異変があれば即座に対応するのが我々の役目。スリーサイズはそれを見極める為の手段の1つです」
なるほど。そういう理由があるのか。そう言われればスリーサイズも侮れないな。
イサメの意見に少し感心していると、掃き出し窓がガラリと開かれ心地よい風が入ってきた。そして、赤いツインテールをなびかせ、ナイトがベランダから姿を現す。
「じゃあ選手交替ね、イサメ」
「ナイト殿、ベランダは入口ではないのですが……」
「細かい事は気にしないの」
「常識を気にして下さい。それで選手交替とはどういう事ですか?」
「私もダリア様のスリーサイズを知らないんだけど、でもそれじゃあダリア様に仕えるには不十分だって事でしょ? なら、実際に私1人で実証すればいいわけよね!」
「勝手な解釈をしないで下さい。だいいちナイト殿の家事全般の能力はわたくしより乏しいではないですか」
「そうだけど……それはイサメが優秀過ぎるからであって、私だって並みにはできるわよ」
「それでは困るのですよ。それに、ダリア様への忠義もわたくしの方が勝っています。貴女がわたくしより優れている点と言えば、胸だけです」
「待って待って。なんで胸を引き合いに出したの? 私が絡むと胸の話題になる率高くない?」
そんな言い合いをする2人を見て、俺は思う。
……話に入りづらい。
俺、用事あんだけど。出掛けたいんだけど。流れるように言い合いが続くもんだから全然混ざれない。
そもそも波に乗る能力が0に等しい俺は、どのタイミングで会話に乗っていいのか分からない。人と話すにしても勇気を出さなければならない。
どこだ? どこで入ればいいんだ? てか自室でアウェイってどういう事だよ。
「止めないか2人共」
そう鶴の一声を上げたのはコロネだ。
「そういうのは別所でやれ、みっともない。ダリア様が苦笑されているぞ? それと、ダリア様の用事も聞かずに蚊帳の外に置くのは褒められる事ではないな」
コロネの発言にイサメとナイトは顔を見合わせたかと思うと、一気に顔面蒼白なり俺の眼前でひざまづき頭を垂れる。
「……も、申し訳ありませんダリア様。度重なる醜態はわたくしの恥じるところ。いかなる処罰をも受ける覚悟にございます」
とイサメが掠れた声で反省を示し、
「……ダリア様」
そうナイトが口を開いたところで、俺は待ったをかけた。
「す、ストップ! 何度も言ってるけどさ、そういうの全然大丈夫だから」
「で、ですがダリア様……無礼は無礼です。何度も許しを得ているようでは、合わせる顔がありません……」
と言って、ナイトはどうやら腑に落ちないご様子。
なんだよこいつら。俺が神様にでも見えてんのか? ちょっと眼科行ってこいよ。いやマジで。
分かったよ。なんか罰を与えればいいんだろ? 膝カックンとかすればいいんだろ? しっぺでも可か? 個人的にはコサックダンスを所望したい。
あ、やっぱ縄跳びがいい。特に意味はないがナイトにメッチャ跳んでもらいたい。加えて言うが、特に意味はない。
頭をゆっくり回しながら思考し、処罰を吟味する。
「そ、そうねぇ……じゃあ、今日留守番ね」
まあ俺にそんな罰を下す勇気はなかった。
「お言葉ですがダリア様、それに従う事はできません」
「え」
イサメに即答された。なんでじゃ。いいじゃん留守番くらい。
「外出すると仰っていましたが、外出先で万が一の事が起きた場合に対処ができません」
「いや、別に、転んだとしても死ぬわけじゃないんだし。それにコロネも付いて来てくれるんだし」
「なりません、絶対に。わたくしもご一緒します」
「は……はい」
イサメの鋭い眼光に怯み、無意識に肯定の言葉が出てしまった。
蛇に睨まれた蛙の気持ちが分かった。確かにこれは動けないわ。
「あ、ズルい」
ナイトが声を漏らす。
「私もご一緒します! イサメとコロネだけでは不安ですから」
「ナイト殿、一体何を言っているのですか? そんな私欲でついて来られては指揮に影響します。それに───」
「私はダリア様に聞いてるの。……ダリア様、私も大丈夫ですか?」
ナイトはイサメの言葉を遮り、不安そうに尋ねてきた。
「え? あ、うん。別にいいけど、俺から離れててもらう感じになるんだけど……」
「離れて……? どうしてですか?」
「いやだって……君らの事説明しにくいし」
と言うのも、前にもコロネの話にあったように、代行者達は皆つくられたものとしては常軌を逸しているのだ。
容姿であったり、能力であったり、心であったり。
そんなんどうやって兄ちゃんに説明すんだよ。コロネはまだペットないし召喚獣と説明しても納得がいくが……イサメとナイト、君らは駄目だ。友達という案もあるが、残念な事に俺に友達はいない。
……いや、兄ちゃんの事だから小難しい事は気にしないだろうけど、自分の気持ちを整理してから打ち明けたい。
「……そう、ですか」
俺の内を察したのか、ナイトはうつむいて黙り込んだ。かと思うと、なぜか顔をほんのり赤く染まり、目が泳ぎだした。
口元がもごもごと動いている。何か言いたいんだろうか。
「えっと……何?」
俺は気になり、助け船を出してみた。
「……わ、私ぎゃ、私が! 彼女とひうのはアリゃ、アリですか!?」
えっ、なんて?
「……立場を弁えなさい」
凍り付くようなトーンで、イサメからドス黒いオーラが溢れる。そのまま磁石のようにナイトの額に自分の額を合わせ、牙を剥く。
「発情期ですか貴女は。獣風情がダリア様の彼女などとおこがましい。軽率な発言は控えて下さいませんか?」
「お、おい……」
「け、獣で悪かったわね。私は案の1つを進言しただけよ」
「それが愚かなのですよ。まさか貴女は、ご自分がダリア様に見合えると思っているのですか? 一度鏡をご覧になった方が宜しいのでは?」
「あ、あの……」
「じゃあイサメ、仮でもいいからダリア様のそんな関係になりたくは?」
「是非もない」
「つまりそういう事よ」
「成る程。哲学ですね」
「………」
どうやら話は決したみたいだ。今の話のどこに哲学があったんだよ。
頑張って止めようとした俺の努力はなんだったのか。
「見ていられんな。ダリア様、さっさと行こうか。少々ぐらつくが我慢して欲しい」
痺れを切らしたのか、少し荒い口調のコロネが自分の影に沈んでいく。その様子を眺めていたら、俺の目線がだんだん低くなっているのに気付いた。
ふと下を見てみると、
「え、あ、ちょっ……」
俺も自分の影に沈んでいた。いや待って何これ怖い。
多分影の中を移動する魔法だろうけど、やるなら先に言って欲しかった。心の準備ができてないのに。
間もなくして、俺の景色が暗転した。
まあ正確には真夜中に目を覚ましたような感じだ。暗順応と言う自律機能があるが、それに近い。暗闇だが確かにハッキリと物体の存在が目視できる。
『あ、ダリア様がいなくなってる!』
『コロネ殿の仕業ですね。捜しましょう』
だから当然、俺が突然消えて慌てた様子を見せるナイトと、平然を保つイサメの姿も確認できる。
『独断でダリア様を連れ出すなど言語道断。今日の夕食は抜きですね』
『後でイヤって言うほどにこねくり回してやるわ。とくにお腹回りを』
捨て台詞みたいな事を吐きながら、2人は軽快な動きで部屋を出ていった。
「……行こうか」
やれやれと言った感じで、コロネが床を水中さながらに潜っていく。
「え? ちょ、待っ、どうやったら潜れんの? ……あ、行けた」
こんな体験は初めてだったが、足に力を少し入れたら普通に沈んだ。
てか浮いたりできて自在に動ける。空中を泳いでるみたいだ。あ、やっべ、結構楽しい。
「どうした?」
そんな事をしていたからコロネが床から首を生やしてきた。
「あ、ごめん。直ぐ行く」
───屋敷の玄関口に差し掛かると、光が漏れ色のついた空間が目に入った。
「あそこだ。先に出るぞ」
あの場所からこの影の空間を出られるらしい。
先導してくれるコロネの後を追ってその空間に飛び込む。すると、一瞬で暗闇のだった世界が色彩を取り戻した。その光景に一瞬目が眩んで目を瞑る。
そして目を開けた時には、太陽の光が遮られ影が深い屋敷の陰に俺は立っていた。
どうやら屋敷の外に出たみたいだ。屋敷の庭が俺の視界に広がり、その光景にまたも眩んで目を軽く擦る。
てか、庭と言うより庭園だ。昨日来たときはよく見なかったが、これは観光客でも呼べるんじゃなかろうか。
でもそう言えばここ強力な魔物が生息する危険地帯なんだよな。メッチャ忘れてたけど。……あ、やっべ、そう考えたら身震いしてきた。
急に寒気がしたので両腕で自分の身体を抱き、先に出たコロネを捜そうと思い首を回そうとした瞬間、
「───ダリア様おはようございます!」
遠くの方から挨拶が飛んできた。
声の方に振り向くと、約100m先に6枚の翼を持つ人影を発見した。
ルシファーである。
いや、遠いな。もうちょっと近付いてから挨拶するもんじゃね? 麦わら帽子みたいなの被ってるけど、ここで何してんだろ。
そんな事を考えながらパチリとまばたきをする。
「今日も清々しい朝で」
呼吸を合わせられたかのように、いつの間にか俺の眼前にはニコやかなルシファーがいた。
「お、おう……おはよう」
なんだこいつ。いきなり距離詰めてくんなよ、ビビんじゃん。ナイトみたいに空間転移でも使えんのかな。
「早起きは良い事です」
もう8時回ってるけどな。
「ルシファーは、さ、何してんの?」
「ガーデニングです」
「え」
意外な言葉を返された。
確かにジョウロも持ってるし麦わら帽子も被ってちょっとさまになってるけどさ、ぶっちゃけ堕天使の前に悪魔だよね、君。悪魔がガーデニングとか、豪速球の変化球が脇腹に直撃した気分だ。
まあどうでもいいけど。
「いやー、中々植物は手入れが大変ですねぇ。しかし丹精を込めて世話をしております。それでダリアの御目に適えば、これほど喜ばしい事はありません」
「そ、そうか……」
「ダリア様はこれからお出掛けで?」
「あ、うん。人と会う、約束してる」
「そうですか。……護衛はコロネだけですか?」
ルシファーが目と目蓋を小刻みに動かして俺の周囲の確認しながら聞いてくる。
「あ、いや……多分、イサメとナイトも、来るんじゃないかな?」
「それは所謂、女性の身仕度でしょうか? 長いと言いますからね。全く、ダリア様を待たせるとは……」
「それは違う」
否定が入った。それは俺の足下で欠伸をかくコロネのものだ。
「あいつらは話が可笑しな方向に行き過ぎる。一々止めるのも面倒だから置いてきた」
「そうか、なるほどな。───ああそうだ」
何かを思い出したかの素振りを見せ、ルシファーが大きめのお守りを差し出してきた。
「僭越ながらお守りをご用意させて頂きました。どうぞお受け取り下さい」
「お守り?」
「簡易的に魔法を発動させる事のできる道具です。魔法名を唱えれば詠唱無しで即座に行使できます」
なんだそのチートアイテム。俺が使ってたサポートツールの上位版みたいなものか。
「私共の魔法から汎用性の高いものを30種程を封じ込めてあります。が、それぞれ1回限りしか発動できない使い捨てですので注意して下さい。万が一の事もあります。護身用にお持ち下さい」
「お、おう。悪いな」
好意に甘えて受け取っておいた。まあ使い道無いんだろうな。あとで暇な時にその魔法一覧とやらを見ておこう。
「少し待って頂きたいところですが、イサメとナイトは後から向かわせます。時間も押してるでしょうし」
そんな事ないよ。時間に結構余裕持つタイプだよ、俺。待っても別に支障ないよ。
吃りながらそう伝えると、
「はっ。ありがとうございます。2人に代わり感謝を申し上げます」
深々と頭を下げてきた。
そういうの慣れてないからいい加減止めて貰いたいと思いながらイサメとナイトを待つ。
さて。イサメとナイトが来るまでこの庭園でも見て回ってようかな。
「──あ、いた! イサメ、ダリア様を見付けたわよ!」
「大儀です、ナイト殿!」
そう思った矢先、イサメとナイトの隠れんぼみたいなノリの声高が背中に当たった。振り返ると、屋敷の3階の窓から2人して身を乗り出していた。
だが2人がそこに居たのも刹那の時で、いつの間にかナイトが俺の目の前に転移していた。
で、イサメは窓から身を投げたかと思うと、静かに外壁を蹴り弾丸並の早さでナイトの隣に無音で着地した。
この間、僅か1秒である。俺の体感で。
「……やっと来たか。ダリア様を見失ってから辿り着くまで、5分はかかったんじゃないか?」
「正確には4分21秒15です」
不機嫌な表情を見せるルシファーに対し、イサメがしれっと答える。
イサメは時計でも体内に仕込んでるのだろうか。秒より下の数字なんて測れないだろ、普通。
「どうやら不手際があったみたいだが、ダリア様がお急ぎだから今日は見逃す。次に何かしたらお前らの目の前で小一時間羽ばたいてやるから覚悟しろよ」
羽ばたくのにどんな圧力があんだよ。気になるな。
「分かったな?」
ルシファーがピシッと指を差して釘を刺す。
イサメとナイトはそんなルシファーを無視して膝を曲げたので、これは膝をついて謝ってくるパターンだな、と直感した俺は2人に待ったをかけた。
「ちょ、待って。あの……さ、俺の所に来るまでに、4分と半しか掛かってないんだから、わざわざ膝をつかなくても……」
「4分21秒15にございます」
「お、おう……」
「確かにコロネ殿の影を経由された事でダリア様の居場所の特定に手間取りましたが、お側から離れて任を疎かにしていた事に変わりありません」
イサメは頑なに自分を戒め、
「それに、ダリア様の前であのようなみっともない発言を……」
ナイトはどんどん小さくなっていく。
そのみっともない発言ってのは、彼女がうんたらかんたらの部分だろうか。
てか俺そんな細かい事気にしないんだけど。神経質じゃないんだし。
「あ、うん……。まさかさ、処罰下さい……とか言う流れ、かな?」
これまでの経験上、そう言ってくるのが大半なので先に切り出してみる。
「俺気にしてないからさ。あのー……そんなんで毎回謝られると、俺も困るというか……な?」
と、強くものを言えないのであやふやな感じで説明する。俺の気持ちを汲んでくれよ、とばかりに。
事あるごとに頭を下げられては俺も対応に困る。俺なんか気にしないで自由に行動してほしい。言葉なんかも砕けさせていいし。
「えーっとだな……つまりな、俺は小さい事は気にしないの。別にさ、悪口とか言われても、気にしないし」
「そのような者は生きる価値がありません」
厳しいなイサメ。
「しかし、我々を気遣ってのその言葉はダリア様の度量そのもの。不肖このイサメ、ダリア様の信頼をより厚くできるよう精進致します」
イサメが膝をついて頭を下げ、ナイトとコロネとルシファーも感銘を受けたような表情で頭を垂れた。
だからそういうの止めて下さいって言ってんのよ。ビビるんだよ。
「……ん?」
不意に声を漏らしたのはルシファーだ。
「このような行動が大袈裟だという事でしょうか?」
「お、おう。そうそう」
よく気づいてくれたなルシファー君。君の株が一気に上がったよ。
ルシファーは俺の返答を聞くなり立ち上がり、まだ膝をつく代行者達に向き直る。
「だ、そうだ。程度の低い失敗をしたと恥じたなら自分で自分にムチを打ち精進しろ。そんな糞みたいな理由でダリア様の時間を取らせるな。呆れさせるな。お前達の馬鹿が移るし顔も見たくなくなる───ですよね?」
ルシファーが俺に振り返りアイコンタクトを取ってくる。
いや思ってないんだけど。深読みし過ぎじゃね?
「なんか……私情入ってない? 馬鹿が移るとかとくに私情でしょ」
とナイトが言い切る。
「とにかくだ。ダリア様のご機嫌も伺えないようでは配下の者として……」
「あ、流した」
「ゴホン! 配下の者として能力不足だということだ。精進するなどというふざけた言葉ではなく行動で示せ、行動で」
「……なあ。それはそれとして、時間は大丈夫か?」
そんなコロネの一言で、ようやく屋敷を後にできたのだった。
☆
兄ちゃんとの待ち合わせは10時。王都の顔となる南東玄関口に集合だ。王都を出入りする時は大体の人がこの場所を通る。
で、そこから“魔動四輪車”と呼ばれる乗り物で移動する。馬車から馬を取って動力源を魔法に変えた乗り物だ。
5年ぐらい前から街中を走り出したが、見かけるのは大体が乗り合いの客を乗せている大型の魔動四輪車で、バスと呼ばれている。因みに俺はこれを使って学校に行っている。
ライブがあるからだろうか、やけに人入りが多い。屋台もそこかしこに並んでいて祭りみたいな雰囲気だ。
ふと時間が気になったので腕時計で時間を見れば、まだ余裕があった。
なのでたこ焼きを買って適当なベンチに腰掛けて兄ちゃんの来訪を待つ。
「なあ、たこ焼き食べる?」
自分だけ食べるのは気が引けるので、俺の隣で毛繕いをしているコロネに聞いてみる。てか猫ってたこ焼き食べていいのかな?
「有り難く頂戴しよう」
「熱いよ?」
「大丈夫だ」
パックの蓋を千切ってたこ焼きを乗せてコロネの前に置く。
猫舌という言葉があるが、どうやらコロネには通用しないようだ。そんな素振りも見せずに平らげたからな。
まあ猫舌の話はどうでもいい。俺の興味は別のところにある。
俺の視線の先、クレープの屋台付近に俺の興味が注がれている。
「……ナンパというやつか。暇な奴がいるものだな」
そう。コロネが今言ったように、イサメとナイトがナンパされているのだ。まあ2人共美人だしね。仕方ないね。
イサメは相変わらずのメイド服で、仕事してるんで的なオーラを醸し出しているが、迫られている。ナイトも白けた顔で対応している。
「……なあ、コロネ」
「なんだ?」
「ナイトってさ、見た目人間だけど違うんだよね?」
ナイトをぼけっと見ていたらそんな疑問が生じた。
昔の俺の記憶を元につくられてるらしいから思い出そうと頑張ってみたが、駄目だった。
幼少の記憶ってのは一昨日辺りの夕食を思い出そうとするぐらいにフワフワしている。何か出そうで、何も出ない。
てかよくそんなフワフワした記憶からあんなハッキリと存在を確立したイサメ達を召喚できたな、と俺自身に感心してしまう。
「まあ人間ではない。“天狐”を知っているだろう?」
「てんこ?」
一瞬、号令的な意味での“点呼”という言葉が頭を過ったが、話の流れ的にこれは無いな。だとすれば、
「ま、まさかとは思うけど……神獣のほうの天狐さん?」
恐る恐る尋ねると、コロネは首を縦に振った。
「そうだ」
「え? い、いやぁ、冗談キツいなぁ。ナイトが神獣ってそんなバナナ……」
“神獣”───神に等しいと言われる生き物だ。
否、神と表現しても間違いではない。
その知恵を授かればあらゆる分野で才覚を発揮し、
その力を振るえば街一つを軽く瓦礫の山に変え、
その恩恵を受ければ我が身に降りかかる災いをも吹き飛ばす。
つまり、とんでもない生き物だという事だ。
過去の話だが、かの王国最強の召喚士も神獣を使役してブイブイ言わせていたらしい。現役を引退して今は神獣との契約を解除しているそうだ。
しかし全盛期を過ぎた今でも召喚士の頂点に立っている。事実、クラスレジェンドに名を連ねている。
まあそんな事はどうでもいい。問題は俺が神獣を召喚したという事だ。しかも俺のイマジネーションから。
恐らくナイトは本当の神獣ではない。神獣の名を借りているんだろう。
てな感じで頭をくねらせていたら、コロネがぶっ飛んだ事を言ってきた。
「冗談ではないぞ? まあ確かにナイトが天狐では可笑しいな。もっと格上だ。世間一般で言う神獣とはワケが違う」
「え?」
「そうだなぁ……ルシファーに聞いた方が手っ取り早いかもしれないな」
「そ、そう」
ルシファーか。確かに頭良さそうだもんな。色々知ってそうだもんな。
帰ったら聞いてみようかな。
ま、俺は家に着くと謎の達成感が出ちゃってやろうとしてた事を忘れるから、その時に覚えてたら聞いてみよう。
話の区切りがいいところで俺は時間を確認する。待ち合わせ時間から10分経過だ。
この辺ゴチャゴチャしてるし人多いし兄ちゃん軽く方向音痴だし、まあ仕方ないっちゃあ仕方ない。想定済みだ。
ふと視線を感じたので右を見てみる。と、
「あれーっ!? 久しぶりじゃん!」
知らない男性に話を掛けられた。
俺の記憶が正しければ、こんなチャラチャラした知り合いはいない。てか友達すらいない。
人違いだろうと思い直ぐに目をそらすと、馴れ馴れしく俺の隣に座り、馴れ馴れしく肩を組んできた。そりゃあもう、一瞬友達かと錯覚するくらいに馴れ馴れしい。
友達いないけど。
「なあ俺の事覚えてる? ほら、この前に貸したじゃん?」
馴れ馴れしく顔を近付けてきて小声で聞いてくるチャラ男。
「……あの、何を、ですか?」
「金だよ、金」
「え?」
チャラ男の答えを聞き、俺は理解した。
これカツアゲじゃん。
マジかよ。なんでこんなに人がいる中で俺をチョイスすんだよ。ふざけんなよ。
しかもまだお天道様も天辺まで昇ってない時間帯なんだよ? ふざけんなよ。
「……いや、あの……」
俺の心中は狼狽し思うように言葉が出ないでいると、チャラ男の双眸が鋭くなった。
「なあ頼むよー。お前アレなんだろ? 魔法使えないんだろ? 俺に逆らっちゃうと痛い目見ちゃうよ?」
「な、なんで知ってる……ですか?」
「ん? だって俺、見れるからよ。お前の見た目とレベルのバランスが可笑しいじゃん」
と、ケラケラとせせら笑うチャラ男。
チャラ男の言ったことから推測するに、おそらくこいつは“アナライズ”と言う魔法を使えるのだろう。
戦闘分析に特化した魔法で、レベルをザックリと判断できる。
そう……ザックリと、だ。
ただの一般人が使うには精密さに欠ける魔法だが、それは自分と同等かそれ以上の相手に対してだけだ。
しかしそれが格下の相手なら───例えるなら小学生辺りなら、ほぼ確実にレベルを判断できる。
この魔法こそ、俺が小学生に絡まれる由縁である。
いるんだよね、たまに、アナライズを使えるガキが。調子に乗って俺にケンカ吹っ掛けてくるガキが。挙げ句の果てには保護者召喚してくるクソガキが。
ま、俺もアナライズを使えない事はないんだがね。
「……君の精神レベルは小学2年生くらいかな」
なぜか心の声が出てしまった。
あるよね、考えてる事が無意識に口から出ちゃう時。
「いい度胸じゃん。お前ちょっとこっちに来いよ」
「え、あ、いや、ちょっ……」
チャラ男の手が俺の脇に入り、力任せに無理矢理立たされる。
ヤバいコワい。足がガタガタいってる。心臓がバクバクいってる。
「………!」と俺はここで気付いた。
俺にはコロネがいたんだった! 影に潜れる魔法を使えるんだから、それ使えば簡単に逃げれるんじゃないだろうか?
コロネに顔を向けようとしたら、イサメとナイトが物凄い速さの競歩で近付いて来ているのが目に入った。歩行者の避け方が芸術の域だ。
そういえばイサメとナイトも来てたんだったな。テンパってて忘れてた。
今まで俺だったら、ひたすら謝るかその辺の人に助けを求めていただろう。だが今の俺は一味違う。抵抗できるのだ。
「……おい、早く歩けよ」
俺の足が重い事に不快を覚えたらしいチャラ男が眉間にシワを寄せる。
「あ、いや……」
反抗したいのに逆らう言葉が出ない。
「いいから早くこっち来い!」
チャラ男が俺の腕を強く握り絞め引っ張った、
瞬間───
「あ、お兄さん危ないよー!」
謎の声と共にチャラ男の顔面にソフトクリームが直撃した。
「いやー、ごめんごめん! お宅大丈夫かい?」
そんな陽気な口調で突然現れた彼は、ソフトクリームを直撃させたにも関わらず全く悪そびれた様子を見せない。
天然パーマの茶髪頭をポリポリと掻きながら話を続ける。
「いやー悪いね。ちょっと犬の糞を踏みそうになってさぁ」
この聞き覚えのある声。
「華麗にトリプルアクセルでもキメながら避けようとしたらソフトクリームをうっかり放しちまってさぁ」
この掴み所の無さそうなフワッとした雰囲気。
「……まあアレだよな。誰にでも間違いはあるよな? 俺は悪くない。悪いのは犬の糞だ」
そして、黒と赤のオッドアイ。
この男性は紛れもなく、
「に、兄ちゃん……!?」
である。
「よおダリア! 久しぶりじゃんか。元気だったか?」
「なんでここに……」
「いや待て。ここ待ち合わせ場所じゃん」
「そ、そうだった」
「それより早く会場に行こうぜ! 俺さ、ワクワクし過ぎて今日寝れてないんだよ」
子供のようにはしゃぐ我が兄。ソフトクリームチャラ男になんて目もくれずに歩を進め出そうとすると、
「お前ちょっと……こりゃ慰謝料請求だな」
ソフトクリームチャラ男が兄ちゃんの肩をがっしりと掴んだ。既にソフトクリームは地面に落ちていて、クリームまみれの顔からは怒りとか苛立ちとかの表情を覗かせている。
「だから悪かったって。お宅も俺のソフトクリーム食ったんだからトントンだろ?」
「なにワケの分からない事を言ってやがる。ケンカ売ってんのか?」
「いや別に? もし売ったらいくらで買ってくれんの?」
「あ? そうだなぁ……まあ、このぐらいだなっ───!」
チャラ男が兄ちゃんに右ストレートを放った。
チャラ男の拳が兄ちゃんの頬にめり込み、骨と骨の当たる鈍い音が俺の耳に伝わる。
魔法を使えない為、身体強化できない俺ならば数メートルはぶっ飛んでそうな威力の右ストレートだ。
だというのに、直撃したいうのに、その場から一歩も動いていない。顔色一つ変えていない。
そして兄ちゃんが軽く舌打ちをした。
「……ってーな、おい。一発は一発だな。歯ぁ食いしばれよコノヤロー」
間髪入れずに兄ちゃんがチャラ男の股間を蹴り上げた。
「あぐっ……!」
顔を歪め、その場にうずくまるチャラ男。
兄ちゃんはチャラ男を一瞥し、俺の肩をポンと叩いてサムズアップをする。
「外野が騒ぎ出す前に逃げるぞダリア!」
確かにソフトクリームが直撃した辺りから通行人の足の止まり具合が半端なくなっている。兄ちゃんの言う通りさっさ去るのが賢明だ。
俺は急いで兄ちゃんの後を追う。
てかソフトクリームぶつけたり股間蹴ったりしたけど、聖職者なんだよな、この人。しかも小学校教師。しかもクラスを受け持ってるという。
小学生に道徳を教える人が股間蹴っちゃマズいだろ。とか思ったが、まあ今はプライベートだし俺を助けてくれたからいいか。
丁度ライブ会場に向かう路線バスが近くに来ていたのでそれに乗り込む。
最後部の座席が空いていたのでそこに俺と兄ちゃんは並んで座り、兄ちゃんの顔を覗き込む。
「兄ちゃん、顔大丈夫かよ? 少し赤くなってるけど?」
「ん? 大丈夫だよこんくらい。……にしてもダリア、なにベタに絡まれてんだよ。まさか弟が絡まれてるとは夢にも思わなかったぞ。兄ちゃんビックリしちまったよ」
「いや俺に言うなよ。あいつに言ってくれ。ま、助けてくれてありがとう」
「おう。気にすんな」
そう言って兄ちゃんは笑いながら俺の頭をポンと軽く叩く。
やっぱ兄ちゃんは話しやすい。言葉が詰まらないで出てくる。父ちゃんと母ちゃんも詰まらない。
内弁慶に外地蔵と言うやつだな。イサメ達には挙動不審気味な態度で接しているが、実家じゃ普通にふてぶてしい態度でゴロゴロしてる。
因みに、コロネは既に俺の影の中に入っている。
あとイサメとナイトだが、俺と兄ちゃんが席に座ったら直ぐに乗り込んできた。で、出入り口付近の吊手に捕まって外を眺めている。
「なぁダリア」
「ん?」
「メッチャ美人さんいるぞ」
兄ちゃんがイサメとナイトをガン見しながら前の座席の背もたれに腕を乗せる。
「あ、うん。そうね」
「淡白な奴だなぁー。もっとリアクションないのか? 例えばそうだな……胸デケー! 超触りてー! とか。……良い尻してやがる! 超触りてー! とか」
「あんた本当に学校の先生かよ」
「バカ野郎。妄想ぐらいいいじゃねーか。男ならあんな美人なちゃんねーと一度はお付き合いしてみたいじゃん?」
「付き合うとか友達いない俺にはレベルが高いよ。もうちょっと下げて」
「確かにダリアにはレベルが高かったな。胸を触らせてもらう、で折れとこう」
「上がってない? それ上がってない? それ付き合ったあとでしょ」
「気合いだよ気合い。気合いで触るんだよ。ほら、座席移動と称してさりげなく彼女達に近付けば……」
「痴漢で捕まるな、間違いなく」
俺がそう返すと、兄ちゃんの表情が急に険しくなった。
……な、なんだよ。俺何か間違った事言ったか? 兄ちゃんがボケてたからツッコミ入れてただけなんだけど……。
数秒置いて、兄ちゃんが口を開いた。
「……なんか、どっかで見たことある気がすんな。どこだっけ……」
「見たことあるって、あの2人を?」
「ああ。いや別に街中でハンカチを拾ってあげたとか、そういうんじゃねーぞ? 随分前に見たことある気がすんだよな」
何やら兄ちゃんが不思議な事を言っている。
兄ちゃんの言う随分前がいつ頃かは分からないが、イサメもナイトも夏休み前に召喚したばかりだ。随分前には含まれない。
加えて兄ちゃんは地元暮らし。王都アイテールにも今日着いたばかりだ。街中でだってイサメ達とすれ違ってすらいないだろう。
なのに見たことがあると言っている。奇妙だ。
「気のせいじゃないの?」
「……んー。ま、いっか」
兄ちゃんは険しい表情をいつも通りにし、俺に顔を向ける。
「……知ってるか? 乳って脂肪の塊なんだぜ?」
「話題転換急すぎない?」
「だからアレ、ダイエットすると真っ先に消化されるんだとさ。一番柔らかいから」
「へー。でもそれ個人差あるでしょ」
そんな感じで兄ちゃんのどうでもいい豆知識を軽くスルーし、別の話を切り出す。
「そういや兄ちゃん、日帰り? それとも俺ん家来るの?」
これの答えによって、俺も何か策を講じねばならない。
なんせ今はアパート暮らしじゃないからな。てか王都にすら住んでいない。流れるままに魔物が蔓延る悪魔の大森林に移住してしまった。まだ実感無いけど。
そんな場所に案内なんてしたら、兄ちゃんは黙っちゃいないだろうな。
なんかこう……ナイトの空間転移で上手いこと出来ないだろうか?
つい昨日まで住んでいたアパートの玄関まで兄ちゃんを連れて行き、ドアを開けたら屋敷にある俺の部屋に転移している、という都合のいい使い方は出来ないだろうか?
「……あー、悪いな。ライブの後予定入ってんだわ」
と言う返答を聞き、肩に掛かっていた重圧が一気に消滅した。
ほう、用事があるのか。そりゃ願ったり叶ったりだ。
「予定?」
「ああ。ユギサがこっちで仕事あるらしいか付いて来ただけだよ。そんで夕方から観光しようぜってワケだ」
「ああ、ユギサちゃんとデートね。納得だわ」
今会話に出てきたユギサとは、兄ちゃんの彼女の事だ。兄ちゃんの幼馴染みで、中学生の時に告白されたとかなんとか。
今考えたら漫画にありそうだな。
「あーそうだダリア、手ぇ貸してみ?」
「ん?」
言われた通りに右手を差し出すと、脈のところに親指を当てて掌をマジマジと眺めだした。
……あ、これアレだ。俺の魔力の色だか質だかを見るヤツだ。
魔法というか兄ちゃんの技術に近いから魔法名は無い。兄ちゃん曰く「その人の得意な分野が分かる」らしく、生徒の才能を見抜くのに便利だとか。
俺も度々これをやられている。俺がどんな魔法を使えるのかを見ているのだろうが、兄ちゃんから満足する答えを得られた事はない。
そういえば昔、兄ちゃんが俺の魔力量にやられて高熱出したことがあったっけな。
あ、いや待て。これヤバくないか? 魔力無いのバレるんじゃなかろうか。
「……なあダリア。お前の魔力少ない気がするんだが……」
ど、どうやら気付かれてしまったみたいだ。
言うべきか、言わざるべきか……。
兄ちゃんは勘が鋭い、頭の回転は早い、口が達者で三拍子揃っている強者だ。
対する俺は、兄ちゃんの心配そう表情と兄ちゃんから滲み出るなんとも言えないに圧されて目が泳ぎ出すというヘタレっぷり。
あーダメだ! 隠し通せる気がしない!
ま、まあ、コロネを召喚したと言えば大丈夫だろう。
俺は意を決して重い口を開く。
「……あ、ああそうだ、言い忘れてたわ。実は召喚魔法に成功したんだよね」
そう言いながら自分の影に手を入れ、コロネを引っ張り出す。
「維持するに結構魔力が持ってかれちゃってさ。だから魔力が少ないんじゃない?」
「お、お前、マジか!?」
驚きのあまりか兄ちゃんは勢い良く立ち上がり、
「なんで早く言わねーんだよ! えっ? いつだ? いつ召喚出来た?」
デカい声で俺の肩を一瞬電気でも走ったかのような力強さで叩いてきた。
「な、夏休み前にだったかな、確か。あと他に乗客いるから声抑えてさ……」
「そうかそうか! 父ちゃんと母ちゃんに連絡したか?」
だからデカいんだよ、声が。自重してくれ。喜んでくれて嬉しいけどさ。




