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「余談」

「サラも、私の作った夕食を食べる?」

 とジャンヌ達が来た日に、ジャンヌが言ったことから、私も夕食のご相伴にあずかることにした。

 ジャンヌが夕食のメインとして作ったのは、生まれ変わる前の{祖母」が好きで、しょっちゅう作っていたポトフだった。


 私は味見した瞬間に、一驚する羽目になった。

 この味加減、確かに生まれ変わる前、「祖母」が作っていたポトフの味だ。

 私は、あらためてこのジャンヌが、「祖母」の生まれ変わりであることを確信することになった。


 そして、私と「祖母」達の5人で、夕食を食べて、色々と話し合った。

 例えば、私は、「マダム・サラ」と、基本的にジャンヌを含む「祖母」達4人に呼ばれることになった。

 確かにお互いの関係を考えると、そう私が呼ばれるのが相当だろう。

 そして、私は「祖母」達を、下の名前、「ジャンヌ」、「澪」、「鈴」、「愛」で呼ぶことになった。


 一通り、全員が夕食を食べ終わった後、私は思わず愚痴った。

「それにしても、何でお祖父さんは、あんなにだらしないかったの。お祖母さん達4人と、四つ股交際して、子どもまで産ませるなんて」

「祖母」達4人全員が、えっ、という表情を浮かべ、顔を見合わせた。


 私は、その表情が信じられず、更に続けて言ってしまった。

「だって、その通りでしょう」

「祖母」達4人は、どう答えるか、逡巡していたが、愛が口火を切った。

「何だか誤解があるみたい」

「私が間違ったことを言っているの?」

 私には、彼女達の反応が信じられず、追い打ちを掛けた。


「だって、澪はともかくとして、他の3人は自分から「彼」をベッドに誘い入れたもの。マダム・サラが言うのももっともだとは想う。実際、土方伯爵をはじめとして、周囲の人が皆言ったわ。あんな屑男のどこが良かったのか。別の人と幸せになるべきだと」

 鈴が言った。

「他の二人はともかく、「りつ」がやったことは、美人局と言われても仕方ない気がするけどね」

 澪が毒づいて、嫌みを言った。

「私に至っては、街頭で彼に流し目をくれて、誘い込んだしね」

 ジャンヌは、舌を出しながら言った。

「孫が頭痛を起こすことを言わないの。事実だけどね」

 愛がたしなめた。

 実際、私は酷い頭痛が起こり出したが、堪えながら尋ねた。

「差し支えない範囲で話してもらえない?」


「順番に話すべきかな。私は横須賀の芸者だった。当時の横須賀では、海兵隊の若手士官は人気だったわ」

 愛が過去を偲んで言った後で続けた。

「当時、海兵隊の若手士官は欧州出征という事態から、色々と苦悩していた。彼もそうだった。彼を慰めたいと思って、私が誘って抱かれたの。まさか、娘ができるとは思わなかったけどね」


「私の場合は、何としても、忠子から「彼」を取り返したかった。だから、別れるなら、私を抱いてからにして、と半ば脅迫して彼と関係を持ったの。娘が私に出来たけど、彼が戦死して、忠子が息子を産むとは予想外もいいとこだったけど」

 鈴が呟き、澪は鈴を無言で睨みつけた。


「澪は正妻だから、言う必要はないでしょ。私だけど、マルセイユの街角で、彼の袖を引いたのがきっかけだった。最初は金のためだったけど、私の方が惚れ込んじゃって、息子まで産んで。街娼失格ね」

 ジャンヌは、私の苦悩を無視して、からっとしゃべった。


 それを全て聞いた後、私は深い溜息を吐きながら言った。

「男女の仲について、第三者が言うのは野暮ですけど、良いんですか。それに、また結ばれたいような口ぶりですけど」

「好きになったから仕方がない」

「そうそう」

「90年近く生きたら分かるわよ。まだ若いから分からないのね」

「それは70歳を越えたマダム・サラに失礼よ」

「祖母」達は、明るく笑いながら、私の言葉に答えた。

 私は、あらためて(内心で)深い溜息を吐いた。

(外見が)10代前半の少女達に、こう人生を諭されるのは辛い。


 更に考えを巡らせて、私は達観した心境に達した。

「祖母」達が、そう思っているのならいいか。


「それにね」

 澪が呟いた。

「「彼」は、何だかんだ言っても誠実だったの。「りつ」が妊娠していた場合に備えて、遺言を遺していたし。「ジャンヌ」も街娼から足抜けさせたし。「キク」が娘を産んだことを知ったら、それ相応のことはしたでしょうね。正妻の私からすれば、堪らないところもあるけど。だから、私達は「彼」のことが忘れられないし、好きなの」

 他の3人もその言葉に黙って肯いた。


 私は、あらためて想った。

 本当にどうしようもない祖父だ。

 優しすぎて、周囲の女性に好かれ過ぎている。

 私の父、アランと本当に似ている。

 父も娼婦だったカサンドラ母さんの方が惚れ込んでしまった。

 普通は逆だろうに。


「祖母」達の「彼」、祖父への想いには、今後は基本的に触れないことにしよう。

 第三者が男女関係に直接触れるのは野暮だし、私の胃が持ちそうにない。

 私はそう誓い、今後は「祖母」達をできる限り生暖かい目で見るように努めようと思った。

 これで完結します。


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