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地獄の遊園地

作者: ワンフラット

周囲には何もない真っ暗な空間、見たこともない場所。そんな場所で俺は目を覚ました。

「俺は・・・俺はどうしちまったんだ。確か俺は・・・」


キィーーー!!!

「ううっ」

耳をつんざく大きな音がこだました。

「そうだ、俺は事故で・・・」

 言いかけた言葉が途中でつまった。なぜなら、俺の体は傷一つついていない。現実ではありえない。そうここが現実の世界なら。

「「ようこそ地獄へ」」

近くから幼い子どものような声が聞こえる。こんな何もない空間に人が?いやあれは

「黒猫・・・?」

 猫が言葉を喋るなどありえない、しかもなぜか猫の周囲にだけスポットライトのような光が当たっている。ここはファンタジーの世界なのか。

「「私があなたの案内役でございます。名前はありませんのでお好きにお呼びください」」

「じゃあ、黒いからクロって呼ぶよ」

 現実ではありえない状況の中、俺は驚くほど冷静だった。逆に誰もいないという孤独から解放された安心感の方が強かった。

「「では太郎様、こちらへ」」

「なぜ俺の名前知ってるの?」

「「・・・」」

 俺の質問に答えず、俺に背を向けズコズコとクロは進んでいく。クロを見失えば光のない空間に取り残されるため、俺はついていくしかない。


・・・

 何分歩いただろうか?だいたい三十分ぐらい経っただろうか。だが、これだけ歩いているのに、周囲は一向に変わらない。一体いつになったら・・・

「「ここが入口でございます、太郎様」」

「・・・なにもないぞ」

そう俺が言葉を発した瞬間だった。

パッ!

 急に目の前が真っ白になったかと思うと、ようやく周囲の景色が露わになる。思ったよりかなり広いスペースだ。

「「改めまして、ようこそ地獄の遊園地に」」

「地獄の遊園地?地獄ってあれか、あれだよな。死んだ後に行く場所、天国と地獄のあれだよな」

「「宗教的意味の地獄とはそういう意味でしょう。あと現実世界においても苦しみや恐怖にのたうち回ることを地獄という言葉で比喩しますよね」」

「結論としてここは死後の世界なのか?」

「「それでは、この地獄の遊園地を思う存分楽しんでくださいませ!」」

 俺の質問無視しやがった。だが、聞いても答えてくれなさそうだ。そうだこんな質問ならどうだろうか?

「クロ、地獄というわりには随分と楽しそうな場所じゃないか。いいのか楽しませてよ?」

 空は完全な真夜中、明りといえば月明りとアトラクションについている電球の光のみ。不気味といえば不気味であるが、地獄というには生ぬるい。

「「地獄を楽しめるのであれば、良いではありませんか。」」

「ええっ、まぁそうだけどよ」

 地獄を舐めるなよとか、地獄の怖さはこれからですよ、とか言われると思ってたが。まぁいいだろう、地獄といっても遊園地、せっかくだから楽しませてもらおうじゃないか。


・・・

「なつかしいなぁ」

 目の前にドドンと構える大きな観覧車を見て素直な感想を漏らす。観覧車など何年振りだ。

「まさかと思うけど、ゴンドラの中が針山とか、灼熱の暑さ。なんてことねぇだろうな」

 日本人が考える地獄のイメージで真っ先に思うのは、針山地獄、灼熱地獄、釜ゆで地獄とかだろう。そんなことを考えながらゴンドラの扉をゆっくり開ける。

「・・・特に変なとこはねぇな」

ゴンドラの中身は至って普通だった。明りが少なく薄暗いが変わっているところはそのくらいだ。

「よいしょっと」

ゴンドラの座席に座り扉を閉める。

「・・・」

ゴンドラは至って普通のスピードで天へと上がる。なんともなつかしい感覚だ。

「まさか一番高いところで止まるとか、そういうベターなオチか?ん?」

・・・

だが、俺の予想に反してゴンドラは動き続ける。内心普通ではないことを期待していただけにつまらない。

「ふぅ、何が地獄だ。これじゃ普通に遊園地楽しんでるだけだぞ」

ふっと、隣のゴンドラに目をやった。

「ん?あれは人間?」

この空間で自分以外の人間を見るのは初めてだ。しかしなにやら違和感がある、体が半透明で透けているように見える。ざっくり言えば存在感がない。

『ねぇママ、ここすごいたかいよ。ひとがあんなにちっちゃいよ』

『本当、人がすごく小さく見えるわね』

隣のゴンドラの会話がなぜか俺にも鮮明に聞こえた。乗っているのは母親と子どものようだ。

『ねぇねぇ、まえにえほんにかいてあったてんごくにとどくかなぁ』

『さすがに天国には届かないわ、天国はもっと高いところにあるの』

『そうなんだ。てんごくはすごいたかいところにあるんだね』

『そうよ、あなたも善い行いをしていれば、死んだときに天国に行けるのよ』

その会話を最後に二人の人間は霧のように消えていった。

「・・・何だったんだあれ?」

そう考えている内に観覧車は一周した。


・・・

 次はすぐ近くにあったコーヒーカップに乗ってみることにした。ぶっちゃけ実際の遊園地でこんな成人した大人が乗るなんて、恥ずかしくてできないがここであれば問題ない。

ピー

音と共にコーヒーカップの床がゆっくりと回りだす。

「ソレーソレー」グルグルグルグル

 まるでガキのように中央の台座を回し続ける俺、それだけなつかしかったのだろう。

「ふぅーはえー。うえっくらくらしてきた」

 少し気持ち悪くなり、スピードを緩めた時、別のコーヒーカップにまたあの半透明の人間が見えた。

「また子どもの幻覚?かよ」

 観覧車で見た少年よりは年上のようだ。小学校中学年くらいか?

『よーしよーし、いい子だね』

 よく見ると、中央の台座には黒猫がいて、そいつの頭を少年が撫でていた。

『よーしよーし、ちょっと目をつぶっててね』

 少年が猫の目の上に手を被せた。

グザッ!!

 次の瞬間生々しい音が響いた。少年が空いたもう片方の手で・・・猫を刺した。ドクドクと血が流れ、コーヒーカップの床を赤く染めていく。

「おい何してんだよ!」

 俺は声を荒げ立ち上がったが、すぐさまその行動が無意味なことを悟り、静かに座る。

「あんな幽霊みたいなのに話が通じる訳がねぇ」

 そのとき

『〇〇ちゃん、どうしたの』

どこから現れたのか、その少年の母親らしき女性が現れた。

『ねこが死んでる、たぶん車にひかれたんだ』

『なんてことかしら可哀想に』

『うめて、供ようしてあげないと』

『そうね、そうしましょ』

『ねぇママ、このねこ天国に行けるかなぁ』

『もちろんよ、必ず天国に行くわ。天国に行ったら〇〇ちゃんにありがとうってお礼を言ってるわきっと』

そう言い終わると、またしても二人の人間は霧のように消えていった。

「・・・おまえが殺したんだろ」

言っても無駄だとわかっていたが、自然と口から言葉が出た。


・・・

「はっ、少しは地獄っぽくなってきたじゃん」

 退屈してた時に味わった久々の刺激に、俺の気分は高陽していた。人間というのは時として残酷なものが見たくなるのだ。

「さてと次はどうしようかな、ん?」


          ~タイムマシンアクアツアー テーマ 恐竜パーク~

「面白そうじゃん」

 普通であれば一時間以上も待たされるであろうアトラクションだが、ここでは他に客はいない。

「よっと!」

 勢いよく乗り物の前の座席に乗り、安全バーを降ろす。

「まぁ、だいたい知ってるがな」

 昔似たようなのに乗った、最初の内は小型恐竜や大型草食恐竜が出てきて、途中で洞窟に入り乗り物が上昇。トリに目玉であるティラノサウルスが正面に出現し、その瞬間乗り物が下降する。って具合だ。

だが展開がわかっていても十分楽しめる代物だ。


ゴゴゴ・・

乗り物が動き出す。

【~ようこそ恐竜パークへ♪これからみなさんを恐竜がいた遥か昔にご案内いたします。】

おなじみの解説自動音声が流れる。

【おっ!現れました。右側に現れた恐竜は草食恐竜ブラキオサウルス、体長はなんと25mの大型ですが、性格は至っておとなしく、人を襲うことはありません】

右側にいるブラキオサウルスがその長い首を伸ばし、草を食べている。

『どうしておこってるの?どうしでぶつの?』

「!?」

 聞いたことのある少年の声。よく見ると、ブラキオサウルスの足元にあの半透明の少年と母親がいた。

今度の少年は幼稚園に通っているぐらいの年齢に見えた。

『なんで刃物で手を切ったの!危ないでしょ!あなたは一体何を考えてるの!』

『だってえほんでよんだんだよ。てんごくってすごいところなんだよ。なんでもゆめがかなうりそうのばしょなんだよ。だから、ぼくはやくてんごくにいきたいの!』

『・・・いいこと〇〇ちゃん。自分の命を大切にしない人は天国にいけません。自殺することは最もしてはいけないことなの。だからもうこんなことしないで』

母親の言葉が終わると同時に、再び二つの体は消えていく。


【あちらに見えますのはラプトル。群れを形成し知能も高い小型恐竜です】

アクアツアーもだいたい半分ぐらい過ぎた。もうすぐ洞窟の中に入る。

するとまた、あの半透明な二人が現れる。

『ねぇママ、トンボさんがいじめられてしんじゃった』

『かわいそうに、土に埋めてあげましょう』

『ママ、トンボさんはてんごくにいけるの?』

『もちろんよ。だって殺されてさらに地獄に行くなんてあんまりじゃない。トンボさんはね、きっと天国から〇〇ちゃんにお礼を言ってるわ』

『ホント?』

『本当よ』

・・・


【そしてあちらに見えます恐竜は・・・私は天国に行きたい。なぜならそれは素晴らしい場所だから。】

「!!」

自動音声の声がおかしい。

【でも、自殺では天国にいけない。でも殺された生き物は天国に行くことができる。】


ドーーーン!!

「今度はなんだ」

 凄まじい爆音と爆風が俺を襲った。

 隣にあるアトラクションのジェットコースターが急に脱線し、ライド(乗り物)が地面に強く叩きつけられ火を噴いている。だが、その光景は俺の乗るライドが洞窟に入ってしまったことで、すぐに見えなくなった。

カチャカチャカチャ

 チェーンリフトが音を立てながらライドを上昇させる。ゆっくりな動きだが体が斜めになっているのは心地よくない。いよいよアクアツアーも終盤だ。もうすぐ狂暴な大型肉食獣がお出迎えしてくれるだろう。


『母さんへの誕生日プレゼントだよ』

まただ、またあの声が聞こえる。だが今までの声より大人びているように聞こえるのは気のせいか?

カチャカチャカチャン。

 上り坂が終わりようやく体が水平になる。終盤なだけあって、物が散乱したり、自動車が壊れているなどの演出が多く、今までよりもおどろおどろしい雰囲気だ。

『母さんはいつも大変そうだった。家事、育児、仕事。休んでいるひまなんてない。だけど、もう安心だよ。これでもう、辛いことを感じることは、もうないんだよ』

 ようやく姿が確認できた。演出として置かれている壊れた自動車の上に、中高生ぐらいの男子が立っている。その手には赤く血塗られた刃物。そして、すぐ近くに腹から血を流した女性の姿。両者共に体が透けている。

『僕は今日、最高の親孝行をしました。それは母さんを天国に連れて行ってあげたことです。善行を積んで天国に行くなんて、そんな回りくどいことしてる間に、母さんはこんなにも体を酷使し辛いじゃありませんか、僕は一秒でも早く、母さんを天国に連れて行ってあげたい、そのためには、他の人が殺してあげないとダメなんです』

【その通りです】

自動音声が再びバグる

【天国は誰もが憧れる理想郷。それなのに、みんなすぐに行きたいと言わないのは、自分の力だけではすぐに天国に行けないからなのです。君のお母さんはね、きっと天国から〇〇ちゃんにお礼を言ってるわ】


グオオオオオオオオオオ!

 ついに出た、大トリのティラノサウルス。

グルルル!

 おや?ティラノがなにかくわえている。

「うおおおおおお!」

 ついに、ついに出会った!半透明なんかじゃない!俺以外に生身の肉体を持つ人間!

「おな・・かがいたい・・・やめ・・て・・たす・・けて・・・太郎ちゃん」

 ティラノにくわえられた女が喚く。腹から血を流して苦しんでいるようだ。

「あっ・・・ああっ!」


グオオオオオオ!

再び、ティラノが大きな雄たけびをあげる。それと同時にくわえていた女が落ちる。


どさっ!

 女は俺のすぐ隣の席に落ちた。飛び散った血が俺の顔にかかる。

「あっ・・・ああっ・・あっ」

クライマックス。ライドが大きく傾き、そのまま一気にスピードをあげ急降下!

「ああああああああああああああああ!!」


バッシャーーン!


・・・

「「いかがでしたか?」」

着水後の興奮冷めやらぬ中、クロがライドに飛び乗ってきた。もう隣に女の姿は見られない。

「・・・いろんな意味で面白かったよ」

「「そうですか、それは良かったです」」

「もう一度聞く、ここは死後の世界なのか?」

「「いいえ、強いて名前をつけるとすれば、あなたの思いの中の世界です。」」

「なんだそれ?」

「「あなたが今まで見たもの聞いたものの集合体とでもいいましょうか。だからここにはあなたに纏わるものしか存在しない。そうだったでしょ?」」

「・・・」

「「地獄の遊園地はあなたの夢だった。殺されることに恐怖する人達の苦しみを、なんとか和らげたいという。あなたの配慮です。遊園地は楽しいところですからね」」


ピキピキ!

暗い空に大きなヒビが入る。

「「もうすぐ、あなたの肉体は完全に滅びます。そうすれば、あなたの思いの世界も完全に壊れる」」

「そうか、短い間だったがいい夢だったなぁ」

「「天国や地獄など、あらかじめ作られた世界など存在しない。思いの世界を天国にするも地獄にするもあなた次第です」」




・・・

「六時になりました。ニュースの時間です。昨夜、某遊園地のアトラクション整備員である。鈴木太郎が亡くなりました。鈴木氏はジェットコースターの整備中に故意にレールに細工をした疑惑が浮上しており、そのことが原因で二日前におきた、ジェットコースター脱線事故が起きたのではないかと言われています。なお、鈴木氏は脱線した乗り物の下敷きになり、意識不明の状態が続いておりましたが、昨夜、死亡が確認されました。鈴木氏は本件以外にも、遊園地周辺で起きている殺人事件に関与している疑いもかけられていましたが、鈴木氏が死亡したことにより、真相は闇の中です」



終わり


読んでいただき、ありがとうございます。久々に疲れました。

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