ストーカー
「目覚ましじゃんけんぽん!」
テレビから、聞こえてくる音で目が覚めた。目を開けると、真礼が、テーブルに腰掛けている。
「あー、負けちゃったー。残念! 明日は、勝つもん!」
がっかりしている真礼は、セーラー服姿にピンク色のエプロンを装着させていた。
「え、どうして? 真礼いんの?」
「え、ご飯作りに来た! ってか、どうしているのじゃなくておはようでしょ!」
俺の頬っぺを突っついてくる真礼は、ご機嫌のようである。
「おはよう!」
「はい、よく言えました!」
「ガキじゃねえんだよ」
「いやいや、まだまだあたし達は、ガキだよ! 青臭いガキだよ!」
「まあ、そうだな」
「はい、パン」
「サンキュー!」
フレンチトーストを食べ、コーヒーを飲み、充実した目覚めになっている。
「どう? 美味しいでしょ?」
真礼は、得意げの顔をしている。ここで、美味しくないなんて言ったら、二度と来なくなるしな。まあ、甘ったるさは、あるが、普通に美味しい。
「真礼は、料理上手だな!」
「えへへ、まあ、これくらい料理って言えないけどね。あー、もっと料理うまくなりたいなー」
頬を赤らめる真礼は、嬉しそうである。
「お母さんに教えてもらったら?」
「うん、最近、教えてもらってる。けどねー、なかなか、うまくいかない」
「でも、真礼なら大丈夫だよ! いつも一生懸命だしさ」
「もう、勇人ったら。褒めてもなんもでないよ」
「いや、本音だよ! そういうとこ普通に好きだし、輝いてると思う。俺も見習いたいくらいだから」
「ありがと……。ばーか、もう早くしないと遅れるよ」
「だな、食器は、洗っとくから、真礼は、先に行っててもいいよ!」
「じゃあ、終わるまで待ってるから、よろしく!」
「はーい」
俺は、待っている真礼のためにも急か急かと食器洗いを終えて、家を出た。今日からは、鍵っ子だ。父親もいない家は、とても広い。悪夢のない登校である。
「お待たせ!」
「うん、行こ!」
二人で登校するのは、すごく久しぶりであった。中一の頃は、たまに登校していたけど、それでも多感な時期だから、二人共に気を遣うようになっていた。
「ねえ、勇人。相談なんだけどさ」
真礼は、スマホを取り出し、あるメールを見せた。
「な、なんだこれ」
「きもいんだけど、どうしよう」
そのメールの内容は、こうだ。『愛しの真礼。愛してるよ。ずっとずっと見てるよ。いつか、僕の彼女になる日をずっと夢見てる。そうだ、今度は、デートに行かない? 愛をたくさんぶつけるよ。君のことばかりいつも考えています』
まるで、ストーカーのような内容であった。毎日のように同じメールが、届くらしい。
「今日で一週間連続来てる……。さすがにさ、最初は、なんだろうくらいに思えたけど、ずっと来るとなると話は、別よね。気持ち悪すぎる」
真礼は、心底嫌がっているようであった。
「そうなんだ。何も出来なくてごめんな。でも、もしさ、なんか、起きそうだったら、すぐに力貸すよ! 幼馴染みだしさ! 遠慮すんなよ!」
「えへへ、ありがと。勇人の声聞いてたら、安心した」
「なら、良かったよ。それにしても送り人が、分からないとなると厄介だな」
「ホントそれ。告白されるの多いから、誰か分からないし」
真礼さん、こっそりモテるアピールをしている。まあ、可愛いしな。
「教室では、真礼のことずっと守るから、安心して! 昼休みもなるべくは、教室にいてくれ!」
「心強いなー、さすが勇人! 昔と変わってない」
「そうか?」
「うん! かっこいいぞ! 勇人」
俺の肩を叩いて微笑む真礼。そして、伊座敷中学校へと着いた。
まだ、新クラスになり、数日しか経っていないのでどこか落ち着かないクラスの雰囲気。それに加えて俺の虐待ニュースも話題になっていた。
幸運なことにクラスの連中は、興味を殆ど示していなかったことである。これも日陰者だからこその結果だ。大助かりである。
担任である武蔵先生には、放課後、職員室へと来いと言われ、面倒だ。しかも、真礼を監視することが出来ない時間となってしまう。監視と言ったら、ちょっとおかしいんだけどね。
「あんまり注目されなくて良かったね! もし、なんか言ってくる人いたら、あたしキレてたしさ」
安堵の表情を浮かべる真礼。
「ありがと。まあ、俺が、日陰者だったからであってだな、人気者がなっていれば、大騒ぎだろうな。教員には、そこそこ色々心配されたけど」
机に頬杖をつきながら、俺は、欠伸をした。
「勇人だから、あたしは、心配だったけどなー」
「真礼は、優しいな! 変わらないね」
「それくらいしか取り柄ないもん」
「そんなことないよ、いっぱいいいとこあるよ」
俺は、首を振って否定をした。
「じゃあ、言っていっぱい言って!」
その時、丁度よくチャイムが鳴り響いた。
「また、今度いっぱい言ってやるよ!」
「やった!」
授業中、真礼の様子を見ていたが、特に気になる行動を起こしている輩は、見当たらなかった。だとすると、他のクラスの奴とも考えられる。
俺らの学年は、三クラスしかない。そして、一クラスは、なんと36人となっている。先輩ということも考えられるが、現時点の段階では、同じ学年と考えよう。
それにしても国語の授業は、眠くなる。まるで睡眠導入剤を振りかざしてるように眠くさせられる。
うとうとしている間にお昼休みとなっていた。
「勇人いくら疲れてるからって寝過ぎだよ! ほら、ノート取っておいたから、写しなよ! テスト出来なくても知らないからね!」
ご機嫌ナナメの真礼は、ノートを俺の頭に叩きつけた。
「すまんすまん。眠くなってしまって。ありがと。恩に着るよ!」
昼休み、真礼の作ってお弁当を食べて、ぼーっとしていた。真礼は、大谷奈央と藤浪恵と一緒に食べていた。仲良しらしい。
三人共背丈は、同じくらいで藤浪は、眼鏡をかけている。大谷は、ポニーテールが似合うような女の子であった。
なんだかんだ真礼は、世渡り上手だなー。俺は、友達と言える程の仲になれる人は、誰もいなかった。
「しかし、あれやなー。変な教室やなー」
ナルミが、起きたらしい。いつの間に付いて来たんですかね?
「何がだ?」
「いやいや、真礼だっけ? お前の幼馴染みに嫌な予感があってやね。ストーカーされとるんやろ? ここのクラスの連中、殆どが、真礼に好意を抱いている。一人くらい嫌いって奴もいるんやろうにね。どうも不気味な気がする。あっ、だけど、犯人は、ここにいないってことだけが、わかるで」
ナルミの推測は、正しいようであった。確かにこのクラスでは、真礼のことを悪く思ってる人は、いなそうだ。
「じゃあ、誰がやっているんだ?」
「あひゃひゃ、とりあえずわかっていることは、ここのクラスの連中以外ってことやな」
「そんなんだけじゃ、わかんねえだろ!」
「あまり大声出すなよ! ワイのこと見えてるのお前だけやで!」
一斉に俺の方をクラスメイトが、見て笑われた。そうか、ナルミは、俺にしか見えていないんだった。真礼も心配そうに見つめるが、大丈夫と俺は、口元を綻ばせる。
「声出さなくても話せないのか?」
「出来なくもないぞ! ってか、出来る!」
「早く言えよ!」
「すまんな! てへぺろ」
舌を出してニヤつくナルミ。なんて、ムカつく奴なんだろうっと思ったが、解決の鍵を握るのは、ナルミしかいない。
「どうにかして探し出したいんだけど、どうしたらいい?」
「せやなー。ワイにも現時点では、わからんねん。学年で変わったことってなかった? 多分、それが、ヒントというか手掛かりになりそうやな」
ナルミは、顎に手をやり、推測を始めた。
「なるほどな! だったら、放課後聞いてみる! 教員なら、何か知ってるはずだ」
「せやな!」
昼休みは、終わり。放課後へとなった。真礼には、職員室へと呼ばれたので教室で待っててくれたら、いいよと予め伝えておいた。
職員室へ着くと、武蔵先生が、待ち構えていた。妙な緊張感が、職員室の空気にはある。
「で、先生何か、ようですか?」
職員室のお客様用ソファーとテーブルのある場所へと腰掛け、要件を俺は、窺った。
「家庭のことだよ! 昨日は、大変だったみたいだな! 調子の方は、どうだ?」
武蔵先生は、20後半くらいの女性教員。色気もあり、大人の雰囲気もある。短めの黒いスカートにドキっとしてしまった。
「いや、なんとか大丈夫です。生活保護の方も出てくれるみたいですし、なんとか、一人なんで大丈夫っす。家もあるわけですし」
気を遣って出してくれたお茶を飲んで、俺は、大丈夫アピールをした。
「そうかなら、良かった。精神面での不安があったら、いつでも言ってくれればいいんだからな!」
「はい! それより、気になることがあるんですけどいいですか?」
「おう、答えられる範囲なら」
「最近、俺らの学年で変わったことってありました?」
「変わったことか」
首の後ろに手をやり、掻く武蔵先生。
「不登校になった生徒が、二人いる。それもどちらも可愛い系の女の子だ」
「原因は?」
「話したがらないんだよ。でも、精神的なショックが、強いことみたいだ」
「それで、その子達は、今も学校に来てないのでしょうか?」
「そうだな、教科書を貰いには、来たが。それだけで二年になってからは、一度も来てない」
考えられることとしては、性的な絡み? 強姦に近いことをされたとか、いじめとかだろうな。
「ありがとうございます。もしかしたら、真礼が、危ないんです!」
「それは、ホントか?」
吃驚したような声で武蔵先生は、目を丸くした。
「確信はないんですが、ストーカーみたいなことされてるらしくて」
「そうか。何も起きなければいいんだけどな」
「ホントですね。では、失礼致します!」
急いで教室へと戻ると、そこには、真礼がいなかった。掃除をしていたクラスメイトの大谷がいたので「真礼は、どこに行った?」と聞いてみた。
「あー、確か。隣のクラスの笹崎さんに呼ばれたみたいで一緒に帰るって、えーっと」
首を傾げながら、話す大谷。
「なるほど、ちなみに小浮気勇人だ! ありがとう。そいつは、女子か?」
「そうだけど」
「ありがとう! で、今出たばっかり?」
「そう!」
「サンキュー、大谷さん!」
俺は、急いで学校から、出て走り出した。まだ、遠くに行っていないはず。頼む、助かってくれ。
「ねえねえ、蟋蟀さん! 先輩が、会いたいって言っていたんですけど、家に来てもらってもいい?」
「先輩? いいよー!」
「なんかー。蟋蟀さんって頭いいから、勉強教えてもらいたいんだって! やった!」
笹崎は、不敵な笑みを浮かべながら、先輩の家へと誘導した。
「ここです!」
「神谷先輩?」
「そうですよ! 伊座敷中のヒーロー神谷先輩です!」
「へえー。あの副会長長の神谷先輩が、勉強を?」
「そうみたい。復習をしたいみたい。だから、中二くらいで教えてくれる子いないかなって探していたら、丁度蟋蟀さんがいて」
「そうなんだー」
玄関でチャイムを鳴らすと、神谷先輩が、ドアを開けてくれた。
「早かったね! 初めまして神谷有悟です! よろしくね!」
「あ、蟋蟀真礼です! よろしくお願いします!」
「あはは、そんなに固くならなくて大丈夫だよ!」
爽やかな笑みを浮かべる神谷。
「では、上がっていいよ!」
「おじゃましまーす!」
笹崎と真礼は、靴を脱ぎ、二階にある神谷の部屋へと行き、クッションに座った。
「で、勉強なんだけどさー」
いきなり、笹崎は、ドアに鍵をした。
「え、はい」
「エッチな勉強をしてあげるよ! えへへー」
「え、何言ってるんですか?」
真礼は、驚いて部屋から、逃げようとするも鍵をかけられた。
「笹崎さんこれなに?」
「え、今言ってたでしょ? エッチな勉強だよ!」
「痛いよ」
笹崎は、真礼の腕を掴んで逃げれないようにした。
「かわいいよ。蟋蟀さん可愛い! おっぱいもでかいね! はあはあ。こんなエッチな身体してるんだから、学校中の人気者有悟様とエッチな遊戯出来て幸せだろう? なあ、かわいい蟋蟀ちゃん」
神谷の目は、もうイっている。おかしい。こいつが、ストーカーの犯人だったのか? どうしよう?
「じゃあ、まず、上から脱ごうか! 笹崎脱がせろ!」
「はい! 神谷さん!」
「ねえ、笹崎さん。こんなことして何になるの?」
「うーん、そうだね! 人の人生ぐちゃぐちゃにしたい願望強いんだー! 私ってそれにこの変態神谷とコンビを組んで可愛い女の子のメンタルぐちゃぐちゃにしたいんだよー」
笹崎は、真礼の制服を脱がそうとする。真礼は、必死に抵抗をするが、笹崎の力は、とても強い。
「やめて、やめてよ……」
涙を溢す真礼。逃げれない。絶望しかない。せっかく、色々スタート出来ると思ったのに。
「そうだ。キスしよ! 蟋蟀ちゃんにキスしたい! 舌入れてもいい? 拒否しても入れちゃうもん!」
キス顔で迫ってくる神谷。
「やだ、きもい変態!」
教科書をぶつけてなんとか、キスを真逃れた真礼。
「はあ? 有悟様に何してんの? 俺は、逃さないよ! 君の唇!」
もう投げる物がない。こわい。勇人助けてよ……。
その時、窓ガラスが割れた。激しい音と共に。
「ったく探したぜ! 真礼!」
「勇人!」
真礼は、勇人に抱きついた。今の一部始終は、全て知っている勇人は、真礼の唇にキスをした。
「俺で悪かったな!」
「ううん。勇人で良かった」
泣きじゃくる真礼に笑顔が、戻った。
「神谷先輩よー。何してくれてんの? 俺の幼馴染みに」
関節を鳴らしながら、俺は、欠伸をした。
「ははは、なんだてめえ! 後、もう少しだったのによう! 笹崎、てめえも甘いんだよ! こんなガキに侵入されて」
高笑いをしながら、神谷は、俺を挨拶代わりに殴った。
「すいません神谷さん」
「いってええな! 殺すぞ!」
俺は、怒りを全面に出して、睨んだ。
「は? なんて言った? 俺様に勝てると言えるのか? この落ちこぼれ野郎が、家は、裕福だから、なにしても事件は、揉み消されるんだよ! いわば、無敵状態! 常にマリオのスター状態なんだよ! わかるか? 落ちこぼれ!」
挑発めいたことを言ってくる神谷にまずは、顔面をパンチした。
「ふっ、何、言ってんだ。俺の大切な幼馴染みのために俺は、引き下がれないんだよ!」
「かっこつけたところで無駄無駄!」
「俺もさ、最近までは、そう思っていたよ。だがな、そうでもなかったんだよ! この世界は、希望に満ち溢れている。じゃなきゃ、ダメなんだよ!」
「は? 何がいいたい? クズ野郎! 殺すぞ!」
カッターナイフを持ち出し、俺に斬りかかる神谷。
「真礼は、逃げろ! 俺は、必ず大丈夫だから」
「うん、絶対だよ! 勇人」
真礼は、鞄を持って神谷の部屋から、飛び出した。カッターナイフをなんとか躱して身を翻す。
「ふん、悪運もここまでだ! クズ」
「どうかな? 弱者は、強者を打ち破る捨て身の覚悟で! 因果応報!」
ナルミの出す光が、どんどん強くなっていく。死神を召喚した。
「なに、言って……」
「ごあーがー。お前が、死にたい奴か? ああ? それよりもご主人が、望んでいる。禁固刑にしてやるわー」
死神が、首を捻りながら、神谷の頭を掴む。
「ひええー。なんだこれ、おい、お前やめろよ。おい助けてくれよ!」
死に震えろ神谷。お前が、やってきたことは、これよりも重いことなんだぞ。しかも、俺の幼馴染みに。
「おい、笹崎てめえもだぞ!」
「え? 勇人さんでしたっけ? 許してください! すみません」
土下座をする笹崎。見苦しい。だったら、なんでこんなことをしたんだ。
「死神! こいつら、二人共。禁固刑にしろ! そしてマスコミには、実名表記で二度と社会復帰出来ないようにさせろ!」
「了解! ああああーー! ジャーム・ストル」
闇の光に包まれた二人は、禁固刑として身柄を確保され、警察に逮捕された。
「ふー」
俺は、深くため息をついた。
「どうした? これが、正しい結果やで」
「やりすぎたかなって思った」
「いやいや、全然いいんやで! お前の言い分や、やり方の方が正しいに決まっとる! しかも、お前の幼馴染みが、助かって良かっただろ? それでいいんだ! 胸張れや、若造」
ナルミは、眠そうにしながら、言った。きっと、エネルギー消費が激しかったのであろう。
「ありがとうナルミ! ホントにありがとう」
「感謝は、因果応報をくれたから、いらんやで! お腹いっぱいや!」
ナルミは、顔を真っ赤にさせて照れを隠すように顔を手で覆った。
神谷の家を出て、歩いていたら、突然の頭痛に襲われ倒れてしまった。幸い、車の通らない公園のベンチ近くだったので良かった。
「勇人! しっかりして」
声がする。女の子の声。目をゆっくりと開けると、真礼がいた。涙を流しながら、ずっと俺の名前を呼んでいたみたいで声が枯れている。
「どうしたんだよ! 泣いて」
「だって、勇人が、倒れたから」
「そんなことか」
「そんなことじゃない! あたしにとっては、たった一人の幼馴染みだから! 命を粗末にしちゃダメだよ」
「あはは、ってか死んでねえから」
「え?」
「はやとちりなんだよ! いつも真礼って」
真礼の頭を撫でて俺は、立ち上がり、笑顔を取り繕った。
「ばーか」
「眠かっただけ、頭痛くなってな」
「病院は? 行く?」
「多分、大丈夫!」
「ならいいか。ありがとね、本当に助けてくれて、ファーストキスありがと! 勇人の唇結構柔らかいね!」
真礼は、俺の手を握り、恥ずかしそうにした。真っ赤な頬っぺたは、とても柔らかそうである。
「ごめんな、あんな真似しちゃって」
「いいよ。キスするなら、勇人がいいってずっと思ってたから! 昔から、ずっとそうやって思ってたから、その今もキスしていい?」
俺の視線逸らしながら、手をもじもじさせる真礼。
「こんなとこでか? 嫌だなー」
「はあ? なんでだし! ばーか」
女の子に恥かかせるとか、最低と言わんばかりの顔を見せる真礼。
「そのだな、ここじゃなくてさ、家来ない?」
「そう言うなら、早く言ってよ!」
真礼は、俺にビンタをした。心地よい痛みであった。
「いってえな。だから、真礼は、はやとちりなんだよ」
俺は、頬を手で押さえながら、ヒリヒリする頬を撫でた。
「だってさー。勇人が、デリカシーないんだもん」
「ふふ、行こ!」
「ああ!」
俺は、真礼と手を繋ぎ、自宅へと終始昔話をしながら、帰った。
夕日は、沈みかけている。自販機にも電気が、点灯し、夜へと移り変わろうとしていた。近所の子供は、買い物帰りだろうか、母親に連れられて歩いている。真礼と俺は、手を繋いでいたのできっと恋人同士と勘違いした人もいたであろう。
「あー、疲れたー! お腹すかすかだしー!」
家へと入り、ソファーに寄り掛かる真礼。セーラー服姿であったので寝転がった瞬間にパンツが、チラッと見えそうになった。凝視していると、「変態扱い」されるので俺もチラッとだけ視線を向けて「ピンク」かと思わず呟いてしまう。
「はあ? 変態! ばか」
顔を真っ赤にして真礼は、俺の頬をビンタした。本日二度目は、ヒリヒリする。
「いやいや、あまりにもなんというか。魅力的なパンツであって、思わず言葉に出てしまった」
謝罪の言葉を口にしたが、あまり効果がなかった。
「まあ、仕方ない。もうスカート穿かないわ。勇人の前で!」
「ええー、真礼スカートめっちゃ似合うのにもったない」
俺は、吃驚して残念がった。
「嘘だよ! 勇人だってはやとちりじゃん! あたしだけじゃないでしょ!」
あっかんべーをして口元を緩ませる真礼は、俺に抱きつきキスをした。
「キス好きかも?」
「俺も好きかも」
「あたしだから?」
「そうだよ」
「あたしも」
二人共身体が、疲れていたようであった。眠気もピークに達している。食欲は、あるが、どうにも眠気がある。
因果応報を使用したからなのか? 身体が疲弊しきっている。そうか、二人に食らわせたわけだしな、二倍くらい疲れてもおかしくないか。
「なあ、真礼。俺、ちょっと眠いんだ」
「え、大丈夫?」
「寝てもいい?」
「うん、いいよ! あたしは、まだ起きてる」
「うん、わりーな、おやすみ!」
「おやすみ!」
俺は、寝室へと行き、布団に入った。ものの数秒くらいで眠りに就いてしまった。
真礼は、いつ起きてもいいように料理を作っている。以前にモスバーガーで食べたハンバーガーが、美味しかったみたいでハンバーガーを作っているようだ。
「寝ちゃったか」
真礼は、勇人の寝顔を見ていると眠くなったらしく。布団に入り込んだ。
あったかい布団。あったかい気持ち。キスしたい。キスいっぱい。あたしってもしかして変態なのかも? こんな気持ちになっちゃう。ムラムラというか、ドキドキ。
「勇人」
寝ている勇人の頬を突っつく真礼。熟睡している勇人は、ビクともしなかった。愛おしくなる。悪戯心いっぱいの真礼は、頬っぺにキスを何回もした。
「何してんの? 真礼」
「え、起きちゃった?」
「ええええーーー」
真礼は、下着姿であった。水色のブラジャーに黒のパンツ。俺は、驚きとドキドキを隠せなかった。
「ごめん。ちょっと勇人の傍にいたかった」
「格好が、その……。風邪ひくよ?」
「うん、服着た方がいい? 可愛くない? あたしのこともっと知って欲しい」
綺麗な艶のある白い肌。真礼は、見たこともない顔をしている。女の子の顔だ。真礼は、すごく綺麗な女の子になっていたんだ。
そりゃ、男だし、良からぬこともしてみたい気持ちもある。
「かわいいよ。すっごくかわいい! でも、もっとちゃんとしてから、でもいいか? 俺は、まだ、なんも出来ないひよっこにしかすぎない。勿論、真礼のことは、大好きだよ! 昔から、ずっと好きだよ! 今だって本当は、嬉しくて仕方ないよ! こんなかわいい子が、すぐ傍にいるんだから。でも、もうちょっと待って欲しい。心の準備が、ちゃんと出来てからでもいい? 待ってくれるかい?」
怒ってしまうかと思った。こんな情けない男で。真礼のことが、本当に好きだから、ずっと傍にいたいから、大切にしたいと思ってしまうんだ。
「ううん。あたしが、間違ってた。勇人は、やっぱり勇人だ。女の子としてみてくれてたんだね。あたしは、あなたのことを好きになれて幸せです」
涙を流しながら、口元を綻ばせる真礼。俺は、強く抱いた。
「大切だから。好きだよ真礼」
「ねえ、愛して」
「俺を愛してる?」
「フフフ、愛してるよ勇人」
布団の中でキスを何回もして、顔をくっつけあった。真っ暗な部屋に月明かりが、差し込み綺麗に二人を照らす。
「なんだか、気持ちいいね」
「真礼のこと感じられて気持ちいい」
身体に力が、入らない。俺は、意識を失ったように眠った。真礼は、手をずっと握っていてくれたみたいである。
目を開けると、どうにも明るい景色で太陽の光が痛い。時計を見ると、既に午後一時を経過している。やばい、遅刻してしまった。
急いで立ち上がり、制服を着て、リビングへと向かう。
「おはよ! 大丈夫? 随分眠たそうだったから、休み入れといたよ! あたしは、勇人の看病の為に休みますって言っておいたから、だいじょうぶい!」
ブイサインを作り、満面の笑みでいる真礼。エプロン姿が、よく似合っている。
「そっか。真礼ありがと、エプロンかわいい」
「えへへ、ホント? 嬉しい」
イチャイチャするのも束の間。新聞には、一面で取り上げられていた。
『神谷勇吾容疑者、笹崎真知子容疑者。強姦未遂容疑で逮捕』
サムネ屋でもそのニュースが、丁度始まった。
「未成年は、少年法で名前公開しないんじゃなかったっけ? もしかして法律変わった? それとも間違えたのかな」
首を傾げて、疑問に思う真礼。答えは、簡単なことだ。
「俺が、そうさせてくれって頼んだから!」
「え、どうして? そんなこと出来るの?」
「出来るんじゃい、ワイ」
ナルミが、長い眠りから、目を覚ましたようである。それにしてもこいつ寝すぎだろ。ってか、その真礼とのイチャイチャも見られたのか。
「あなたは? 誰?」
え、どうして真礼が、見えるんだ。おかしい。俺にしか見えないはずなのにどうしてだ。真礼が、疲弊しきっているからか? それとも真礼にも因果応報する力が、宿ったというのか?
「ほう、ワイが見えるんか? こりゃ、たまげたなあ」
驚きを隠せない様子のナルミ。
「では、説明しようか。勇人、こいつ自身が、マスコミに名前を公開するようワイに頼んだから、少年法という概念を一時的に解除した結果でこうなっている。ゆえにだな、ワイがいなかったら、お主も危なかったってことだ! 因果応報って言葉知っとるやろ? 悪いことをした奴には、悪い仕打ちをしてあげるってことは、この世の道理、筋の通った話なんよ!」
ナルミは、真礼の作ったハンバーガーを食いながら、解説をした。
「なるほど、そうなんだ。勇人は、その力で助かったんだ……。良かった。ありがと、あなたが、いてくれたから、助かったんだね。本当にありがとう」
涙を流している真礼。その姿を見ていられないというか、キスをして泣き止んで欲しかった。涙の真礼より笑顔の真礼の方が、綺麗だから。でも、この時の涙は、一生忘れない。綺麗だった。
俺にとっては、ダイヤモンドのような涙であった。それくらい価値のある涙であり、俺の薄っぺらい人生が、輝き出した瞬間のようにすら感じさせられる宝物を見つけれたんだという湧き上げる歓喜。
「勇人、キス好きだよね」
「真礼だから、真礼! 付き合おうね!」
「うん、今日が記念日だかんね!」
こうして真礼と俺は、恋人関係になった。
いつもは、モノクロのように見えていた世界にやっと、色がつき始めてカラフルな世界が、俺にもあるんだということを彼女が、教えてくれたんだ。




