真礼の乙女心
美冬の様子が、おかしくなってから、会う機会も減り、修学旅行の日になった。
浜木駅に現地集合し、新幹線へと乗り、車内は、ざわついている。
真礼は、小和と大谷と三人でUNOをやっているようだ。小和が、「UNO」と言っていないで上がったらしく盛り上がっている。
俺は、新幹線から、見える景色を眺めていた。揺ら揺らといい加減に揺れるので眠気が、増していく。気づけば、夢心地だ。
起きたころには、既に滋賀県近くへと着いているようである。
「はあ、よく寝た!」
俺は、欠伸をして腕を伸ばす。
「本当によく寝てたね! もしかして楽しみで寝れなかったとか?」
大谷は、俺を茶化すようにして言ってくる。こういう物言いを聞くと、あの時以来連絡を取っていない美冬のことを思い出す。どうしてしまったのか、連絡1つもこない。俺は、気にかかっていた。
「そんなことねえよ。少し、考え事やらをしていたら、眠れなくなって」
「ふーん、だって真礼」
「そっか! 勇人は、そんなに考えなくていいよ! きっと、関係ないことだよ! 関わらない方がいいし、それで穏便に済ませれたら、あたしも嬉しいし」
真礼は、ペットボトルの生茶を飲みながら、頬を緩ませた。その笑顔は、取り繕った笑顔に見えた。まるでここの雰囲気を悪くしないようにと。
小和は、眠っていた。小さい吐息を吐きながら、可愛いらしい寝顔で微笑ましくなってしまう。そう、今日は、修学旅行だ。初めての京都くらい楽しまないと損である。きっと、そう美冬だって思ってくれていたはずだ。なのに、どうして。
引率の武蔵先生が、京都駅へと着くと、点呼を始めた。
「おーし、全員いるな! これから、バスで清水寺に向かう! いいな?」
「はーい」
気だるげな声で返答する生徒達。俺も含め、そんなことよりもバスの席を確保しなきゃくらいにしか、思っていなかった。
隣には、真礼が座った。当たり前なのか、知らないが、こうしてバスへ座るのも紗央の病院へと向かう以来である。横顔も家にいるとあまり、見ないので新鮮であった。そして綺麗だ。
「どうした? 何か、ついてる?」
真礼は、頬っぺたを触り、じーっと俺の顔を見つめる。
「うーん、その綺麗だなって思ってただけ! それだけ」
俺は、視線を思わず逸らして口元を綻ばせる。すると、真礼は、俺の頬っぺをつまんできた。「いてーよ」っと言い、頬っぺたは、ヒリヒリとする。
「うわの空気味だね! 嬉しかったけど、その勇人にも楽しんで欲しいよ! ここのところ八月一日さんのことばかり、考えていたでしょ? その気持ち、分かるけど、今を楽しもうよ!」
「ごめん……。見透かされていたようだな、さすが、真礼だ。うん、そうだな! 楽しむよ! 今も、この先だって」
「その意気なら、大丈夫ね!」
バスは、京都駅を出て15分くらいで清水寺へとたどり着いた。
清水寺へと登っていく道には、お土産コーナーが、たくさんあった。お茶や八つ橋どれも京都らしい物ばかりである。
「ねえねえ、記念撮影しようよ! 私、2人撮ってあげるよ!」
小和は、各班に渡されたデジカメで撮ってくれた。俺と真礼の京都旅行写真だ。制服姿で来るのなんてこの先、二度とないであろう。
「綺麗に撮れてるね! 待ち受けにしたいなー」
「じゃ、スマホで撮ろうか? 貸してよ真礼ちゃん」
小和は、真礼のスマホを手に取り、2枚目も撮るよっとピースを要求してくる。清水寺をバックに1枚と撮り終えた。辺りの木々も写り、綺麗に撮れている。俺と真礼の顔もしっかりと入っており、2枚目の写真の方が、表情も柔らかくなっていた。
「俺も待ち受けにするよ! 真礼とお揃いの方がいいし」
「もう、お熱いねえー! ひゅーひゅー」
大谷と小和は、俺と真礼をからかってくる。松岡は、馴染めていないようであった。森田事件の後から、ハブられてしまったようでいつも1人でいるようになってしまったようだ。
「ねえ、松岡さん! 松岡さんも一緒に撮る?」
俺は、松岡に写真撮ろうと誘ってみせる。だが、首を横に振って「いいよ、私なんかが、入ったら、悪いしさ」っと表情は、暗かった。顔立ちも整っており、かわいい系というよりは、大人っぽい松岡。1つの出来事をきっかけにぼっちへと変貌してしまうのもなんだかなっと俺は、思ってしまった。
「松岡さん! じゃあさ、おみくじ引きに行こうよ! ね?」
真礼は、松岡の腕を引っ張って強引に誘った。
「ええ、でも……」
「いいじゃん。そんなの終わったことだよ。ね? あたしは、そのみんなで仲良くいたいからさ」
「ありがとう……蟋蟀さん」
松岡は、久しぶりに笑顔を作ったのか、引きつった笑顔に見えたが、嬉しそうにも見えた。
「これで大丈夫そうだね!」
小和は、その姿を見て微笑んだ。俺もそれにつられるようにして微笑み返す。「ここから、元気になれるよ! そんな感じした」
清水寺では、クラス写真をカメラマンが、撮ってくれ、そこからは、また自由行動になり、バスへと戻る時間は、3時くらいまでだ。
その間は、お土産コーナー見つつ、明日の予定を確認したりし、時間を有意義に潰すことができた。
クタクタなままにバスへと乗り、ホテルへと向かって行く。真礼は、俺の肩に寄りかかって寝ている。疲れたようだ。松岡とも終始笑顔で話せていたから、楽しかったみたいで良かった。
ホテルへと到着し、荷物を部屋へと持って行く。男子部屋は、4人1部屋だ。地味に辛い。仲のいいやつが、1人でもいればいいもの。誰1人仲良くない。気を遣って話かけたりは、してくれるが、会話のキャッチボールって難しい。普通のキャッチボールが、どれだけ簡単かを痛感した。
部屋にも居づらいのでホテルのロビーで新聞を読んでいた。京都の新聞なら、地元と違い、何か、違うのではないかと思ったが、大差ない。
「勇人もここにいたんだ!」
真礼は、浴衣姿だった。お風呂に入ったらしい。
「部屋に居づらくてな」
「そっか、ちょっと話そ? あたしもそんな感じでここに来てみたわけだし」
「ああ、いいぜ」
真礼は、俺の隣へと腰掛けてタオルで髪を拭いた。
「お風呂どうだった?」
「気持ち良かったよ! いつか、旅行できたら、混浴でもいいねって思った! 勿論、貸切だけど」
「そうか。なら、俺も入って来ようかな?」
俺が、立ち上がると、真礼俺の腕を掴んだ「まだ、いいじゃん。今日は、甘えたいよー。寂しくなる。勇人の心が、見えなくて……。好きな気持ちは、伝わるけど、その危ないとこに行く気持ちよくわからないよ。安定、安心をあたしに還元して欲しいよ」
真礼は、俯いたまま泣いているような声で俺に言った。
「ごめん。俺にしか出来ないって言われたら、やりたくなるのが、男の性だと思う。それに命を救えるなら、俺は、救いたい。助けたい。かつて、自分が、そうだったようにそうして欲しいから、そうしなければ、ならないから、俺は、因果応報の使い手に選ばれたのだと思うから。ごめんな、真礼。でも、俺は、お前のことを愛してるし、ずっとこれからも大切にさしてもらいたい。だから、俺のことを信じてくれ! 必ず無事にいるしさ」
俺は、心中を吐露した。真礼に嫌われたくないという不安だって俺には、ある。それでも俺にしか出来ないなら、やるしかない。だって、それが、使命なんだ。
「フフフ、ごめんね。やっぱり、あたしが、愛した勇人は、そういう子だったね! 大好き。おやすみ! いい湯を」
真礼の乙女心は、癒えたようでる。難しい乙女心を解消出来たのかは、分からないけど、ここ数日の中では、1番スッキリとした表情をしていた。
よし、温泉に行くか。