アイドル候補小和
美冬先生の丁寧な教えもあり、みっちりと2時間程、勉強をした。
受験勉強でのコツとなることを教えてもらい、やはり、経験者に聞くのは、大切なことだ。未経験の俺達にとっては、心強い存在である。
「はあー、よっしー。今日は、ここまでにしとこうか。疲れたし、ね?」
美冬は、腕を上に伸ばして欠伸をする。それに「そうですね」と異口同音にして答えた。
「みんな一緒のクラスで良かったねえ、そろそろ修学旅行だっけ? 京都楽しかったなー。また行きたいなー」
美冬は、微笑みながら、首を傾げている。美冬程の家なら、好きな時に行けそうなものだけどな。
「はい、良かったです。しかも班も一緒でちょっと家族旅行みたいな気分になったりです!」
「あたしもそんな感じですね! 八月一日さんも一緒に行きたいですね」
「うふふ、まあ、楽しんでね! そのハッスルしちゃダメだよ? 小浮気君」
ハッスル? ハッスルとは、なんだ。美冬は、不敵な笑みを浮かべている。
「ハッスル?」
俺は、首を傾げて何のことか、分からないという佇まいをした。
「もう、分かってる癖にあれよ、あれ」
美冬は、口元を緩ませながら、俺の股間を指差している。あ、そういうことか。
「しないです。そもそも、男子と女子じゃ、部屋違いますしね」
俺は、首を振り、否定をした。
「ふーん、ま、いいか。あー、もう高校入ってから、20人に告られたんだけどー。いい男じゃなかったら、みんな振ったけどねー。小浮気君くらいの男じゃないと付き合いたくないわー」
「え、すごいです。モテモテ羨ましいです八月一日先輩!」
「そう? 小和ちゃんだってモテるでしょ?」
「いやー、私は、そんなことないです」
「え、でも、この前アイドルにスカウトされたって言ってたじゃん! すごくない?」
真礼は、小和に向かって微笑む。
「アイドル? それって芸能人ってこと?」
美冬は、興味津々という様子だ。
「そうみたいです。やってみたいなって気持ちもあるんですけど……。やっぱり、そういう柄でもないですし」
小和は、アイドルになりたいという気持ちもあるようである。
「やってみたら? 案外いけるかもね! 妹キャラで」
「小和なら、いけるかもな!」
「そうだよ! 小和ちゃん可愛いし」
「えへへ、嬉しいなー。みんなに褒めてもらえるだけでも十分だしさ、ありがとう! でも、やっぱり、ヤメとく!」
「そっか。そういえば、ある噂で聞いたのだけど、アイドルの卵が、連続で自殺しているって事件! これとそれって関係してるのかな?」
美冬は、卒業式の時に言っていた事件について語りだした。マスコミ公開は、されていない事件らしい。
「え、じゃあ、他に声掛けられてた子もそうなっちゃうの? 確か、高校生の女の子もスカウトされてたよ」
小和の身体に戦慄が、走る。
「不味いわね。ねえ、名刺とかってもらった?」
「はい、貰いました」
小和は、名刺を取り出した。『ジェネレーションTAMO 田茂』っと書かれている。聞いたことない事務所だ。
「へえ、こんな事務所あるんだー。あたしもスカウトされたかったなー。でも、勇人に永久スカウトされてるから、いいもーーん!」
真礼は、俺にくっついてくる。そういう話してないからね。何してるの、本当に、ま、嬉しいけどもね。
「ほおー。ここに住所もあるのね! これ、ちょっと預かってもいい? 調査したいことが、あるの」
美冬は、名刺に目を通し、じっくりと睨めっこした。
「いいですよ! 私は、そのアイドル候補になれただけで幸せですし!」
振り振りの衣装着て踊る小和も見てみたい気もするが、それは、それで別にやってもらおうかな。
「そう。ありがとう。責任持って調べるわ! もしかしたら、因果と関係することかもしれないから」
「因果? でもダイゴもナルミも消滅した今、もうないんじゃないんですか?」
俺は、吃驚して少し声を大きくしてしまった。
「そうだといいんだけどね。これが、杞憂だったら、それが、1番なんだけど、ちょっとね。分かり次第伝えるわ! 今日は、楽しかった! また、家庭教師するから、覚悟しなさいよ!」
美冬は、確信とまでは、いかないが、また、何かが、起こる予感を感じているのであろう。だから、調査するのだ。
「分かったら、俺も手伝います! では、また」
「はーい! じゃあーーねーー」
美冬は、笑顔を作り、手を振って帰って行った。因果応報の報復を俺達に与えようとしているかもしれない恐怖だけが、俺を支配した。